第78話 召喚強化
あまりにも弱すぎるゴブリンさんと残念すぎる機関銃の威力。これでどうやって戦えって言うんですか……?
ゴブリンさんは召喚スキルによって生み出されたモンスターなので、たとえHPが全損しようが、即座に再召喚できる。
けれど、装備を揃えてここまで残念なやられ方をするモンスターを再召喚する意味は、正直言ってかなり薄い。
でもせっかく手に入れた武器と仲間だ。できれば使ってみたいのだけど……。
ムダではあるものの、足手まといにはならないので、とりあえずもう一度召喚しておく。
「できれば次は頑張ってよね?ゴブ蔵!」
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>ゴブ蔵……?
>なんか名前つけてて草
>そんな名前だから弱いのでは……
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「さて、気を取り直してモンスターを倒していきましょうか。灑智もレベルを上げないといけませんしね……経験値、入ってます?」
「職業も戦略もちゃんと入ってます。経験値もお金と同じで共通して入手できるみたいですね!」
なら新しいスキルを獲得させておきましょうか。【ストレージ】から【女神像】を取り出して灑智の前に置く。灑智は先ほどの一戦でレベルが上がっていたようで、両手を合わせて【女神】様にお祈りを始める。ゴブ蔵もそれを真似してゴブゴブと呟きながら手を合わせていた。
そんな不思議な光景を思わずじっと見つめてしまう。召喚モンスターにもAIの担当者さんがいるのだろうか。それともプレイヤーの真似をしたがるような、設定された動作の一環?
「新しいスキルを覚えましたよ!」
「よしよし、これで1層くらいならなんとかなりそうですね」
3人で慎重にダンジョンを進み、灑智がモンスターを1体ずつ排除していく。どうやら最初に訪れたときのモンスターの大群は罠との連動だったようで、普通に進んでいるうちに大量のモンスターが出現するわけではないようだ。
しかし、それでも常に1体ずつと戦っていけるわけではない。次の曲がり角を左に曲がったところに5体程度のモンスターの気配を感じ取った。
「大丈夫ですか?1人でいけますか?」
心配になり、思わずそう声をかけると、灑智はボクのほっぺたをつついてくる。
「過保護すぎですよ。お姉様!ゴブ蔵と一緒に頑張ってきます!」
そう言うと先制攻撃と言わんばかりに曲がり角に向かって駆けていき、最強のフォームで槍を投げる灑智。灑智は槍投げが好きらしく、これまでの戦いではいつもこの攻撃で敵を仕留めている。
本当ならゆうたさんのように【アームズスイッチ】を持っていないプレイヤーが武器を投げると、その後は隙だらけになってしまう。しかし、灑智はその隙を別の手段によって補っていた。
遅れてボクもゴブ蔵も急いで駆けつけると、投擲された槍がモンスターを貫く光景を目で捉えた。同時に、槍はふっと掻き消えた。
思わず灑智の方を見ると、そこには先ほど投げたばかりのはずの槍の姿があった。
まるで灑智から離れたくないかのように手元に即座に帰還する槍。これは槍に付随するとされるデメリット『一度着けると外せない』の副作用。
装備を解除しようとすれば、即座に帰還して抵抗する呪われし槍だ。
そんな槍の装備者に対する執着心を最大限に利用しているというわけだ。槍さんを手玉に取る灑智さん、小悪魔すぎる。
槍の投擲で犬型のモンスターは討伐できたけれど、残る4体のうちには初見もいる。犬が3体と、二足歩行する茶色の小鬼が1体。こちらの世界のゴブリンだろうか。ボクらの世界のゴブリンは緑色なので割と新鮮に感じる気がする。
「ゴブ!」
そんな同族?を見てゴブ蔵が叫びながら銃を構える。もしかして、この世界のゴブリンをライバル視しているのでしょうか。
それならと灑智にお願いしてゴブリン以外のモンスターを片付けてもらうことにした。
お願いを聞いてくれた灑智は弾丸の如き速度で飛び出して、邪悪な槍2本を操って2体の犬を始末する。さらに小さく「【シェアリング】」と呟き、大きく跳躍してこちらへ戻ってきた。
彼女の【シェアリング】を受けた1体の犬は突然、全身から血を吹き出しながら、みるみるうちにHPを減らしていく。
【シェアリング】は明日香さんも使っていた妨害効果を共有するスキル。それによって出血状態と毒状態を転写したというわけですね。
というか灑智はあのレベルの状態異常の効果を常に受けているんですか……?おそらくは別の受動スキルで相殺しているのでしょうけれど、改めて最悪の槍であることを深く確信しましたよ。
ほどなく最後の犬も継続ダメージでHPを失い、残るはゴブリン1体のみ。
さあ、面目躍如の時が来ましたよ!ゲームが違うとはいえ、同族には勝ってくださいね、ゴブ蔵!
「〈ゴブブゴブブ〉【ゴブブブブッゴ】」
ゴブ蔵が指先から放った炎弾が敵のゴブリンに命中する。仰け反ったところへ、すかさず接近して追撃を加えた。
「【ゴブブゴブブ】!」
銀色の炎がゴブ蔵の腕から生じ、相手のゴブリンを炎上させる。
やがて、炎が消えたときには、ゴブリンは跡形もなく燃え尽きていた。
「……銃は!?」
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>戦術がモロに卍さんそのもので草
>ゴブ蔵とかいう卍さん2世
>なんでメイジのアクティブスキル使ってるの?
>銃とかいう諦められた産廃
>さっきのタイミングか
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「さっきのタイミング……そうか、【女神像】!」
灑智の真似をして【女神】様にお祈りをしているように見えたあのときの光景が脳裏によみがえる。あれはただ真似をしていたわけじゃなくて……職業を獲得していたのか!
「召喚モンスターでも職業は取得できる……」
それならば話は変わってくる。先ほどまでは明らかに最弱の生命体に見えたゴブ蔵だが、職業の補正が得られるなら、ステータスも底上げされる。あるいは戦略まで獲得できるかもしれない。
この事実はあらゆる意味で可能性の塊だ。今回は灑智のレベル上げを兼ねたダンジョン探索の予定だったけれど、ゴブ蔵も張り切って育成してあげる必要がある。
【メイジ】のスキルを覚えたのならボクのお古の炎属性ELMの威力を増幅させる装備を提供するべきだろうか?
あるいは他の職業や戦略を勧めてみる?ボクはこういう育成要素が大好きなんですよ!めりぃさんがペット職を好む気持ちが理解できた気がします。
「ぐへへ……まずはあの装備を装備させてあげて、あとは強化の方針をこうやって……」
「お姉様、ゴブリンみたいな顔になっていますよ」
テクニックその53 『召喚強化』
自身が召喚したモンスターであろうと【女神像】があればスキルは覚えられます。
ボクにはフィーニクスさんもいますけど、やっぱりスキルを覚えられるんですかね?
テクニックその54 『執着する槍』
呪われた装備は外せない。投げる事はできてもすぐに戻ってきちゃいます。
なので、それを利用して投擲しましょう。そんなテクニックです。
基本的にはすぐに戻ってくるわけではありませんが、【メニュー】から外そうとすると早く戻ってくるみたいですね。




