第69話 獄炎
「«五月雨突き»買います!売ってください!」
「まいどあり、なのです!」
【メニュー】を開き、提示された金額をメグさんに送金すると同時に、新たなスキルがボクに追加されたことがシステムによって告げられる。
もちろんスキルとは言うけれど、実態は理論上は誰にでも再現可能な動きであって、特別な効果は何もない、ただの【マクロ】だ。
にもかかわらず、その【マクロ】がもたらす結果は、そこらのスキルを駆逐するような圧倒的な破壊力を生み出す。
さらに、このテクニックは『技能士』がいれば誰でも利用可能。もしかすると〈魂の言葉〉すらも伝授することができるかもしれない。
そして、わざわざボクに売り込みをしてきたということは、この【マクロ】をもっと多くのプレイヤーに提供するつもりだということだ。
今後、使い手は間違いなく増えるでしょうね。もちろん、これを実戦に投入したときの使い勝手は、まだ試してみないとわからないけれど。
あるいは、このテクニックを知った他のプレイヤーも、それぞれ独自の【マクロ】を組んでくるでしょう。
というより、ボクもスキルを作ってみたい!
メグさんと別れたボクはすぐさま空き地に家を召喚し、扉を開けて中に入る。
そして、【女神像】にお祈りを捧げる!
「【女神】様、【モンク】にしてください!」
そして、職業が変更された瞬間、スキルポイントを使用して【流派創造】を獲得した。準備は整った!
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>空き地に勝手に家建てるとか犯罪だぞ
>住所はアイテムショップだからセーフだぞ
>なんで住所と違う所に家が建ってるんだよ
>住所偽装やめろ
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「うるさいうるさーい!一時的に家を置いてるだけだからセーフです!これは駐家です!とにかく!ボクも今から【マクロ】を作りますよ!」
さっそく【流派創造】を宣言すると、目の前に項目がずらーっと並んだ編集画面が出現する。
どうやら単純にモーションを記録するだけではなく、複数の【マクロ】を統合したり、部分的に編集することもできるようだ。かなり自由度が高いですね。
「さて、勢いで取得しましたけど……どんな【マクロ】を記録すればいいのでしょうか?」
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>考えてないのかよ
>超高速で杖を16連打するとかどう?
>パクリかな?
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「そうですね……では、こういうのはどうでしょうか」
戦闘中とは違って、【マクロ】の記録ではどれだけの時間をかけても問題ない。最終的に最大出力さえ出せればいい。なら、好きなだけ時間をかけていこうじゃないですか!
「燃え盛る灼熱の太陽の如き大いなる究極の全てを焼き尽くす輝く破滅の劫火が臨界点を超え圧倒的な破壊力で世界を震撼させる程の莫大なエネルギーを放ち前代未聞の未曾有の出力で既存の法則に囚われない絶対最強無敵至高の奥義として敵対者を追尾し地の果てまでも光の如き速度で追い続けあらゆる生命を塵ひとつ残さず焼却し肉体のみならず魂すらも刹那のうちに焼き払い抹殺し消滅させる!【フラムブレット】!」
〈装飾表現〉に〈装飾表現〉を重ねて放たれた下級魔法【フラムブレット】。いつもなら牽制程度の役割しか果たせないスキルだけれど、今回ばかりは一味違う。
杖から放たれた銀色に輝く炎の弾丸は目で捉えきれないほどの速さで宙を駆け抜け、家の壁に着弾すると同時に鼓膜が破れるかと思うほどの大爆発を引き起こす!
「うわわわわわわああああああ!???」
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>草
>自分の出した魔法でびびってて草
>家でそんなやべー魔法使うなや
>なお、家は無傷の模様
>魂すら燃やし尽くす魔法でも家は壊せないらしい
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家がまったくの無傷である以上、威力のほどはさっぱりわからないけれど、少なくとも通常より高い威力になっていることはまず間違いない。
というわけで、かかしを設置して、〈装飾表現〉ありのパターンとなしのパターンでダメージを比較してみることにした。
しかし……。
「思ったより威力が上がりませんね?」
確かにダメージとしては〈装飾表現〉ありのほうが高い。しかし、派手なエフェクトの割には控えめな上昇幅だ。
他のパターンとして【ソウルフレア】や【フルバーニング】でも検証してみたが、上昇幅はそこそこだった。ただし、元の威力が高いスキルのほうが上昇量が大きい傾向にあるようだ。
「スキルの出力は〈装飾表現〉によって変化するようですが、基礎威力によって上限値が異なるのでしょうね」
ただし、威力はともかく、発射速度や物質干渉力については話が別だ。同じスキルとは思えないほどに変化している。これは間違いなく、戦闘における有効な手札になるだろう。
ボクは炎属性を強化する〈装飾表現〉を追加した【マクロ】を«獄炎»スキルと命名して登録しておくことにした。
そして【マクロ】を獲得した時点で【女神像】にお願いして【モンク】を【アイテムマスター】に変更する。
その後、スキル一覧を確認したけど、【マクロ】スキルは残ったままだ。
一切レベルを上げなくても恩恵を得られる【流派創造】。地味にずるい気がしません?今度【モンク】のレベル上げてみようかな。ちょびっとだけ。
「さて、そんなことをしている間にそろそろ集合時間ですね!家をしまって今日の本題を始めますよ!」
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>突然明らかになったマクロ機能最強説のせいで本題忘れてたわ
>異世界より100倍やばいだろこのシステム
>卍さんの炎属性パワーがどんどん上がっていく
>俺も技能士になってマクロ販売で稼ぐわ
>挨拶マクロとか作っておこう
>挨拶までマクロで済ませるとか末期だろ
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そして今回の集合場所である鍛冶屋さんの店に着くと、お店の前にはすでに漆黒の翼さんとゆうたさんが揃っていた。
「すいません!待たせてしまいましたか?」
「いや、今来たところだ」
「ククク……俺は昨日からずっとここにいたぞ?」
あまりにも正反対のことを言い出す2人。ゆうたさんはともかく、漆黒の翼さんがヤバい。昨日からずっとって……ログアウトしてないってことですか!?
「昨日からずっと銃をいじって検証していたのよ。なかなかいないわよね。ここまでのプレイヤーは」
鍛冶屋から出てきたスキンヘッドの男性、ミューズさんが補足する。
確かにVRMMOで丸一日ログアウトしないというのは相当にハードルが高い。いくら『VRステーション2』が身体を管理してくれるとはいえ、限度があるからね……。
マクロその2 『獄炎』
描写に描写を重ねて炎属性魔法の威力や速度及び物質干渉力を引き上げる。
物理的な動作ではなく【モーションアシスト】に指示を送るだけの【マクロ】です。




