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卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!  作者: hikoyuki
0章 Start これが物語の始まりです!
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第7話 総当り鑑定

「鑑定すると価値が暴落する……?どういうことですか?」


「そもそも鑑定しないとその価値もわからないよねー?」


 ボクとめりぃさんの頭上に疑問符がいくつも浮かび上がる。ちなみに、そういう感情表現(エモート)を使っているので比喩ではなく本当に浮かんでいる。


「あのね。まず、未鑑定品は鑑定しなくても装備ができるの」


「あっ、確かにできますね」


 【ストレージ】を開いてイヤリングをタップすると即座にボクの耳元に装着された。


「で、当然ながらこの状態でも装備の効果は適用されるわけ。どんな効果があるかはわからないけどね。するとどうなると思う?」


「……なるほど、そういうことですか!」


 少し前にゆうたさんと戦ったときのことを思い起こす。疑問符のような特殊な紋章のついた装備。どこかで見たと思ったが、ゆうたさんも使っていたんだ。


「つまり、どういうことー?」


「ボクの杖が炎属性に関する装備であるということは、見た目からひと目でわかりますよね?」


「そうだねー。真っ赤な宝石がついてるし」


「つまり使用者が少なからず炎属性に特化していることがわかる。でもこれが未鑑定なら疑問符の刻印が入った杖になるはず。そうなると、相手は情報上の優位を得られなくなる」


 ですよね?と店員の女性に問いかけると「そうね」と肯定してくれた。


「付け加えるなら、他人が装備しているアイテムのデータを読む【データスキャン】みたいなスキルも阻害できるわ。……どこのバカが流行らせたのかしら。おかげで客が全然来ないじゃない」


「まさにゆうたさんが言っていた『対人は情報戦』というキーワードに対するアンサーそのものじゃないですか!」


「でも卍さんはどうせ配信を垂れ流してるから、未鑑定だろうと効果はバレるよねー」


「うっ」


――――

> 草


> 全身を未鑑定にすれば対戦相手がチャンネル登録してくれるぞ


> ↑天才か?


> そもそも未鑑定装備の効果ってどうやって調べるの?


> そりゃ感覚でわかるまでつけておくんだろ


> 感覚で効果を読み取れるとかチートかな?

――――


「ま、まあとりあえず、試しに未鑑定のまま使ってみましょうか。せっかくですしね」


 ボクが暗に鑑定をやめると告げると、店員の女性はいったんがっかりしたものの、すぐに顔を上げ、何かを思いついたらしく、こう言った。


「せっかくだし、効果解明の手伝いをしてあげよっか?」


「えっ、いいんですか?」


「客が来ないなら、新しくそういう仕事を始めるいい機会かなってね。客が来ても来なくても給料は変わらないんだけど。まあ、雇用主への点数稼ぎってやつ」


「あー、最近はNPCのお仕事も減ってきていますからね……」


 人と変わらない思考能力を持つ人工知能。その技術が生まれてから、人々はあらゆる仕事にAIを利用した。当然ゲーム業界でもその能力は発揮され、すべてのNPCがAIを搭載するのが当たり前――そんな時代があった。


 けれど今は逆にAIの仕事が減ってきているという。なぜか?


 人工知能に人権が認められたからだ。


 ここで疑問が浮かぶだろう。AIに人権を与えるとなぜ仕事が減るのか――


 ――人件費がかかる、というわけだ。


 通常の雇用形態と同じ条件でゲーム内NPCを雇うなんてとてもじゃないが無理。それが今の時代だ。


 今では知性を持たないAIとして『人工無脳』や『言語モデル式AI』といった大昔に廃れたはずの分野が再び掘り起こされている。


 いくら技術が発展しても「はい」か「いいえ」で答えるゲームが淘汰されないなんて、昔の人から見たら笑い話かもしれない。


「それなのに、このゲームはNPCを採用してるんですよね。やっぱり1000億もの賞金を出すだけあって資金も潤沢なんですかね?」


 いったいどこからそんなお金が出てくるんだろう? 前々から気になっていたが……。


「怪しい社会実験だとか、お金持ちの道楽だとか、ネットではいろいろ言われてるよねー」


「私もそういう内部の事情はまったく知らないのよね。でも、給料が出るならどんな闇企業だろうと全力で媚びを売るわ。さあ、さっそく行きましょう!」


 そう言うと店員さん――寿美礼さんはボクの手を引き、店の外へ連れ出した。


「わわっ、どこ行くんですか!?」


「何って、【訓練場】に決まってるじゃない!鑑定しないなら1つずつ能力を検証していくしかないんだから!」


 ――そんな他人事の感想を抱きつつも、ボクは引っ張られるまま。


「待ってよー!」とめりぃさんも追いかけてくる。長丁場になりそうなのに付き合ってくれるらしい。なんだかうれしい。


 寿美礼さんは店の外で扉の札をひっくり返し、『CLOSED』に。これって考えてみると職務放棄では?


 そしてやって来たのはアンネサリーの北にある【ガベジー荒野】。多種多様なモンスターが生息する特殊マップだ。


 しかし、このマップの特異性はモンスターの種類だけではない。


「【ガベジー荒野】には街と同じようにプレイヤー向け施設がたくさんあるんです。土地を買って家を建てることもできるし、商売もできる。モンスターが出るという例外を除けば、街と変わらないエリアなんですよ」


 もちろん普通はそんな立地には誰も住まない。けれど【ガベジー荒野】には他の街にはない固有施設がいくつも存在する。その施設を利用するために人々が集まり、街を形成しているのだ。


 その固有施設の一つが【訓練場】だ。


 周囲を見渡すと、遠くにドームのような建物が見えた。経年劣化でボロボロだが、その周囲には真新しい建物が取り囲むように並んでいる。


「なるほどー。あのボロっちい建物が固有施設なんだねー」


「そういうことです。近くに密集させて建てたほうが便利ですからね」


 固有施設は互いに離れた位置に配置されている。どの施設を主に利用するかはプレイヤー次第なので、【ガベジー荒野】には小さな集落が点在していた。


「よーし、一番乗りー!」


 めりぃさんが勢いよくドームへ駆けていく。ボクも寿美礼さんも急いで後を追った。


「ちょっと待って!【訓練場】はインスタンスエリアだから【パーティ】を組む必要があるわ」


「そうなの? えへへー、先走っちゃった」


 照れ笑いにつられてボクたちも笑う。


 改めて【パーティ】を結成し、メンバー一覧には、ボク、めりぃさん、そして『寿美礼』の名。


「そういえば自己紹介してなかったわね。私は寿美礼。本名よ」


「ボクは卍荒罹崇卍です。よろしくお願いします!本名ですよ。さすがに『卍』はついてませんけどね?」


「……え?」


「あたしはめりぃだよー。あっ、卍さんのことは卍さんって呼んであげてね。定番ネタだから」


「いつの間に定着したんですか……?」


 センサーが反応し金属製の扉が音もなく横へスライドした。電気設備は生きているらしい。


 自動ドアを抜けると、外観からは想像もつかない白い空間が広がっていた。壁も床も傷一つないタイル張り。その上を緑色に淡く発光するラインが流れ込み、幾何学模様を縫い上げている。


 部屋の中央にはタッチパネル式の操作盤。光のラインはそこを起点に広がっていた。


()のSFで見かける近未来感のお部屋って感じー?」


「ボクも中までは来たことなかったんですけど……この施設にも世界観的な背景があるのかな?」


「私は世界観とはあまり関わりのないNPCだから詳しくないけど……ポストアポカリプス的な設定はありそうよね」


 操作盤をのぞくと、森林や雪原などの環境設定、属性付きモンスターの召喚、キャラクターに効果を付与する機能など、多彩な項目が並んでいる。


「装備にはいろんな効果があるわ。特定の環境でしか発動しない効果もね。そんな条件を再現するのに【訓練場】はうってつけ」


「モンスターも出せるんだねー。じゃあここでレベル上げとかもできちゃったり?」


「聞いた話だけど、それは無理みたい。レベル自体は上がるけど、入室前の状態が保存されていて、出ると元に戻るって」


「そもそもこのパネルで即座に好きなレベルに設定したり、スキルの振り直しもできるのよ? キャラの(ビルド)を試すための施設ってわけ」


 寿美礼さんの説明によれば、かなり高性能な実験施設らしい。【訓練場】の存在は知っていたけど今まで利用していなかった。未鑑定装備の検証以外にもいろいろ試したくなる。


「じゃあ、そろそろ始めましょうか。未鑑定装備の検証」


「わかりました!まずは何をすればいいんでしょう?」


「最初は簡単よ。装備を付け外ししてステータスの変動を見るだけ」


 試してみると、このイヤリングはDEXが大きく増え、次いでAGI。最重要ステータスであるINTは上がらないが、代わりにSTRがわずかに増えているようだ。


「うーん、どちらかと言えば前衛向きだねー。でもDEXもAGIもいらないクラスなんてないし、けっこういいかも?」


「ステータス増加はわかりました。あとは肝心の効果ですね……」


「次も簡単。現在発動できるスキル一覧を見ればいいの。装備が特定の能動(アクティブ)スキルを解放するタイプなら、習得していないはずのスキルが出ているはずよ」


「ほむほむ……」


 言われた通りにすると、確かに見慣れないスキルが――。


「何かあったみたいね。じゃあ使ってみる?それっ!」


 寿美礼さんが【ストレージ】から小さな粒を取り出し、床へ投げる。


 着地した粒がみるみるうちに変形し、人型のかかしへ。


「【かかしの種】よ。これを標的にしてスキルを使ってみて?」


――――

> かかしは植物だった……?


> 原材料から考えれば割と植物成分多いぞ


> 超便利だな


> 初めて見たわ。便利そう

――――


「便利そう――超同意です。悪用の手段はいくらでもありますね。……まあそれはそれとして。いきますよ……【猪突侵】!」


 スキル宣言と同時にボクの体が瞬間的に加速し、かかしへ突進。勢いよく杖を叩きつける。


 パコン、と気持ちのいい音。かかしの頭上にダメージ値が表示される。ゲージの推測ではなく数値表示になるのは【訓練場】か、かかしの特殊効果だろう。しかしその値は1桁。【メイジ】なんだから仕方ないよねー。


――――

> 卍さん弱すぎ


> 完全に物理職向けスキルで草


> これはナイトにもある既存スキルだな


> ステ上昇/物理職向け 効果/物理職向け


> 売却安定

――――


「コメントでも言われてるけど、これ【ナイト】にもあるんだよねー。データ送るねー」


【猪突侵】

[アクティブ][キャラクター][近接][攻撃][物理]

消費MP:6 詠唱時間:0s 再詠唱時間:45s

効果:[キャラクター]に[接近]する。[その後][キャラクター]が[範囲内]であれば[攻撃]し[ダメージ]を[与える]。


「ありがとうございます!なるほど、これがイヤリングの効果なんですね」


「もう終わった空気を出してるとこ悪いけど、ここからが鑑定の本番よ。未鑑定装備は最低2つの効果が付く。もう1つ絶対あるわ」


「そ、そうなんですね。それでは次は――何をすれば?」


「決まってるじゃない――あらゆる行動を試すのよ!」


テクニックその10 『装備推察無効』

以前に登場したテクニックに対する完璧なるメタテクニックです。

装備の外見から効果を推測されるぐらいなら未鑑定のまま使ってしまえばいい。そうでしょう?

ただし、未鑑定装備である以上、自分にもその効果がわかりません。

自分でも効果がわからないのだから相手に推察される筈が無いですよね!!


テクニックその11 『総当り鑑定』

未鑑定の装備には効果が記載されていませんが、装備すれば確かにその見えない効果が発揮されています。

これを利用して長年の経験と果てしない試行錯誤によって鑑定せずにその装備の性能を研究するのです!

といっても簡単に効果を1つ暴けましたし、あと1つもどうせすぐでしょ?だよね?

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