第66話 工作活動
「というわけでボクたちは前代未聞の領域である異世界に挑むことになりましたー!拍手!」
ぱちぱちぱち。
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>888888888888
>異世界かー!!すごいなー!!!面白そうだなー!!!!
>↑頑張って盛り上げようとしてるのに逆効果で笑える
>VRMMOから異世界に行けるってマジ??フォッダー始めるわ
>機関銃はどうすんだよ
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「機関銃は後です!きっと偉い人が使い道を見つけてくれます。今は異世界ですよ!みなさん異世界行きたいですよね?」
普通の異世界ならともかく、【ストレージ】の中にはあまり入りたくない感があるのだけど、とりあえず配信を盛り上げていくのが実況者の鑑。さすがボクです。
「とはいえ俺はそろそろ時間だな。すまないが今日は離脱させてもらう」
などと言いながら、ぺこりと頭を下げて一足先に逃げようとするゆうたさん。
確かに、言われてみれば、もうこんな時間だ。視聴者さんも疲れているでしょうし、切り上げたほうがいいかも?
「漆黒の翼さん、後日……ってことでもいいですかね?」
「よかろう。【ストレージ】の中に俺たちを住まわせてくれた恩を忘れてはいないからな。しかしできるだけ早めの日程に決めてくれ」
「わかってます。ちょっと怖いですけど、やっぱり異世界は気になりますからね。というわけで!気になる方はまた次回お会いしましょう!ばいばーい!」
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>おつかれー
>俺も銃使ってみたいわ。出まわるのが楽しみ。弱いらしいけど
>↑そんなん待たなくても腕を改造すればいいだけの話だよね??
>地味に次回は見逃せない気がする
>俺も今からストレージ入って予習しておこう
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配信終了後のロスタイムで、ずらーっと流れるコメント欄を眺めながら余韻に浸っていると、漆黒の翼さんがこんなことを言い出した。
「そうそう。【女神像】を借りていいか?新たな職業を取得しておきたいのだ」
「あ、別に構いませんよ。何に転職するんですか?」
漆黒の翼さんのようなガチ検証勢がまだサブ職業を空けていたとは驚きだけど、その分1つの職業を研究しているのかな。
「【メイジ】だな。今回の研究とは関係ないが興味を惹かれるスキルがあるのだよ」
「【メイジ】ですか?どんなスキルでしょうか?」
「【アブソーブ】。HPを吸い取り、回復するスキルだ」
「あー、あれですか」
吸収と言えば、初見プレイヤーにも話が通じるだろう。そんな感じのスキルだ。類似スキルに【マナドレイン】というMPを吸収するスキルもあり、そちらは相手からリソースを奪い取る一挙両得の優秀なスキルとされている。
【アブソーブ】
[アクティブ][キャラクター][攻撃][回復][魔法]
消費MP:6 詠唱時間:5s 再詠唱時間:30s
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。
その後、[ダメージ]分、[HP]を[回復]する。
詠唱:魔の法に則り、眼前の獲物より全てを収奪せん
【マナドレイン】
[アクティブ][キャラクター][攻撃][回復][魔法]
消費MP:6 詠唱時間:5s 再詠唱時間:30s
効果:[キャラクター]に[MP][ダメージ]を[与える]。
その後、[ダメージ]分、[MP]を[回復]する。
一方で【アブソーブ】は、攻撃と回復を同時に行うだけだと考えると【マナドレイン】と比べて個性が薄い。そうした用途なら、水属性スキルである【ミラクルファウンテン】のほうが使い手は多いだろう。
【ミラクルファウンテン】
[アクティブ][自身][エリア][水属性][攻撃][魔法]
消費MP:12 詠唱時間:20s 再詠唱時間:30s
効果:[自身]を[起点]として[エリア]を[形成]し、[範囲]の[敵][キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。[範囲]の[味方][キャラクター]の[HP]を[回復]させる。
「で、その【アブソーブ】がどうかしたんですか?もしかしてまたやべーバグを見つけてしまったり……!?」
「実験をする前の机上の空論であるからな。ククク……楽しみにしているがいい」
と、はぐらかされてしまった。【メイジ】のスキルである以上、そっちのほうが異世界より気になるんだけどねー。
「ではボクも、その机上の空論とやらに期待して、覚えておきますか」
ボクは今、地味に大会で稼いだ経験値で新たなスキルが取得できる状態なのです。つい先ほど【フェアリーブレス】を覚えたばかりだけど、手間をかければスキルを入れ替えることもできるし、先行投資として覚えておいて、配信でドヤ顔で披露するのも悪くないだろう。
【女神】さまー。【アブソーブ】ください!などと【女神像】におねだりして、無事に新スキルとして獲得した。
こんな手軽にぽんぽんとスキルを獲得しているのには他にも理由がある。
本来なら炎属性スキルを重点的に取っていくはずのボクが、属性なしの【アブソーブ】やら【フェアリーブレス】を取得している理由。
それは——すでに便利な炎属性スキルは覚えきってしまったから。
一応【パワーアップ】なんていう付与スキルも炎属性なのだけど、【メイジ】であるボクが自分を強化するのに役立たないスキルを覚えるのはちょっと微妙。協力プレイを考えれば便利なはずなんだけど、ついつい後回しにしてしまいがちなのだ。
【パワーアップ】
[アクティブ][キャラクター][炎属性][支援][魔法]
消費MP:2 詠唱時間:5s 再詠唱時間:30s 効果時間:4m
効果:[キャラクター]の[物理威力]を[増加]させる。
逆に、水属性には魔法攻撃力を上げる【マジックアップ】なんてものがあり、属性特化型ではELMによる威力の上昇に加えて、さらに付与による上乗せが期待できるのだとか。羨ましい話ですね。
【マジックアップ】
[アクティブ][キャラクター][水属性][支援][魔法]
消費MP:2 詠唱時間:5s 再詠唱時間:30s 効果時間:4m
効果:[キャラクター]の[魔法威力]を[増加]させる。
「さて、それではスキルも覚えましたし、ゆうたさんもいつの間にかいなくなってしまいましたし、ボクもログアウトしますね。お疲れさまでしたー」
「フッ。英気を養うといい。異世界は過酷であるからな。フハハハハハ!さて、ミューズだったか。俺が銃の検証をサポートしよう」
「あら、ありがとう。じゃあまず、【訓練場】で試し撃ちをしてダメージ計算の仕様を——」
「ただいまー!」
「お姉さま、おかえりなさい!お姉さまがログイン中の間に『KPS』から受講通知表が届きましたよ」
「『KPS』かー。今度は何を受講しようかな?また後で見てみるね」
通知が来るたびにうんざりするのだが、勉強は学生の義務だから仕方ない。『KPS』を利用している分だけ、ゲームで遊ぶ時間が取れているんだから、ありがたいと思わなきゃですね。
「それと、今日はお姉さまの配信のために工作活動を頑張ったんですよ。褒めてくださいっ」
「工作活動?」
なんだかあまりよろしくない雰囲気の言葉だけど、どうやら褒めてほしいらしい。撫で撫でしやすいように頭を近づけてくる。
「3ちゃんねるのお姉さまスレでIDを変えながら絶賛する活動のことです」
「やめて!?」
むふー、と自身の貢献を自慢しだす灑智さん。やっぱりよろしくないことだったが、あまりにも撫でてほしそうなので質問してみる。もしかしたら勘違いかもしれないし、ね?
「ち、ちなみにどんな書き込みを……?」
「『卍さんのおかげで宝くじが当たりました』とか『卍さんのおかげで彼氏ができました♂』とか『卍さんのおかげで社長になりました』とか」
「露骨すぎる……。もっとうまい感じのやり方はなかったんですか?」
「わざとです」
「わざと!?」




