第6話 ロードウィング
「建物を横倒しにすれば、それまで壁だったオブジェクトは地面となる。その上に乗って【エアジャンプ】を試みた。だが、結果は——再発動できなかったのだ」
「……オブジェクトの角度に関係なく、建物の壁では接地したことにはならないということですか」
「であればだ。次はどのオブジェクトであれば地面として扱われるのかを検証するのが正道だろう。その後は器物損壊罪の犯罪者として追っ手に追われながらも武器や家具などを足場に検証したが、やはり【エアジャンプ】の発動権が回復することはなかった」
「あ、やっぱり犯罪だったんですね」
漆黒の翼さんの前科はさておき、彼の検証はこのゲームにおいて重要な事実を明らかにした。足場に着地すれば再び【エアジャンプ】を行使できると考えるのが普通だが、実際にはそうとも限らない。肝心なときに回復せず、痛い目を見る場面は容易に想像できる。
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>モンスターを足場にジャンプする時とかあるもんな
>これは間違いなくクソ仕様
>そもそもエアジャンプ取るより全職共通スキルあるやろ
>ゆうたさんのアームズスイッチも共通だしな
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確かに全職共通枠は必須級が多く、取捨選択が難しい。味方への被害を防ぐ【誤爆無効】や対象のステータスを確認する【データスキャン】など便利スキルが揃っている。
「しかし実験に実験を重ねることで、ついに発動回数を回復できる成功事例を見つけたのだ!」
「な、なんと!それは一体……?」
「簡単な話だ。街の道路を引っぺがして壁の上に載せただけだ。すると、その上に接地すれば【エアジャンプ】の行動権が回復することがわかった」
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>何言ってんだこいつ、頭大丈夫か
>こんなん半分犯罪だろ……
>全部犯罪だぞ
>こういう頭のおかしい奴が新技術を解き明かすんだぞ
>↑俺頭おかしいし才能あるかも
>↑自覚ある時点で才能ないぞ
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「道路のような特定オブジェクトに接地フラグが設定されているわけですね。そしてそのフラグは道路を剥がしても有効なまま、と」
「そう。そして、これらの条件が複合することにより、プレイヤーは次なる段階へ進むッ! 刮目せよ!」
その宣言とともに漆黒の翼さんは大きく跳躍し、空中でもう一度【エアジャンプ】。ここまでは普通だが——。
「な、なんですかそれ!?」
彼は虚空へ手を伸ばし、【ストレージ】から勢いよく一枚の板を引き抜くと、それを自身の足裏に勢いよく叩きつける。その瞬間、空中では一度しか使えないはずの【エアジャンプ】の発動権が回復してしまった。
「【エアジャンプ】!【エアジャンプ】!【エアジャンプ】!【エアジャンプ】!」
足裏をばしばしと叩きながら高度を上げ、やがて工房の屋根を越えた辺りで跳躍を止めて降下。華麗に着地すると胸を張る。
「どうだ。これが世界を変革させる最新技術だ!!」
「控えめに言ってバグでは??」
「いや、これは仕様らしい。運営に問い合わせた」
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x漆黒の翼x
〇月x日 11時24分
アイテム『道路(照明付き)』を『エアジャンプ』使用後に足裏へ叩きつけると『エアジャンプ』の発動権が回復します。これは仕様ですか?
フォッダー運営
〇月x日 11時25分
いつもフォッダーをご愛顧くださり誠にありがとうございます。運営のユーキと申します。
ご報告いただいた件についてですが、それは仕様となっております。
今後ともフォッダーをよろしくお願いします。
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「なんか1分で返事が来てるんですけど??」
「1分で解答ができるくらい疑問の余地がない仕様ということだな」
「そうなの??」
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>自動送信メールでは?
>↑自動で仕様認定ってどういうやねん
>何聞いても仕様扱いされそう
>やっぱフォッダーってクソだわ
>これが“自由度”なんだよなあ
>※この世界の法則を利用しただけです
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「【道路(照明付き)】は【ディバインゴーレム】の石を素材にすることで作ることができる。作った物を土産にやろう。待っていろ」
めりぃさんと集めていたゴレ石は、この道路を作成するための素材だったらしい。
「仕様なら仕方ないですよね!ありがたくいただきます!……ところで、一般販売される予定は?」
「今回集めてもらった素材で作れるのは数十個分といったところだ。販売するならもっと素材が必要だな」
「なるほど!つまり素材を持ってくれば作っていただけるということですね。みなさん、チャンスですよ!」
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>マジかよディバインゴーレム狩ってくる
>エアジャンプ最強!
>弱いとか言ってた奴、先見の明なさすぎw
>あまりの掌返し、俺でなきゃ見逃しちゃうね
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漆黒の翼さんから道路を土産にもらい、試しに板ジャンプを再現してみる。ぴょんと跳ねて足裏を叩き、さらにぴょんと跳ねて足裏を叩く……。思ったより簡単だ。
「想像以上にすごい人でしたね……漆黒の翼さん」
「漆黒は実験好きなんだよー。他のゲームでやらかしてBANされたこともあるの」
「なるほど……このゲームでは長生きしてもらいたいですね」
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>まるでいつか絶対BANされるかのような言い草である
>このゲームなら全部仕様になるから大丈夫だぞ
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「それにしても卍さん、あたしぜんぜんうまく飛べないんだけど、どうやってるのー?」
「割と簡単ですよ。『【エアジャンプ】しながら足裏を板で叩きたい』と考えるだけで【モーションアシスト】が最適解をアシストしてくれます」
「そ、そんなんでできるのー?」
ゲーム脳全開の雑談を交えつつ、とことこ街を歩く。目的地は【鑑定屋】。未鑑定イヤリングの性能を調べてもらうためだ。
「えーと、ここですよね?」
「たぶん……」
地図に示された場所に着くと、外壁のペンキが日焼けで剥げ落ちたプレハブ小屋が現れた。扉には『OPEN』の札だけがぶら下がり、看板は見当たらない。
意を決して扉を開き、そっとのぞく。横長のカウンターの向こうで頬杖をついていた女性NPCが、ビクッと跳ねて立ち上がった。
「すみません。ここは【鑑定屋】で間違いないでしょうか?」
声をかけると彼女は目を丸くし、慌てた様子でこちらを向く。
「えっ、お客さん!?あー……もしかして、物品鑑定かしら?」
「はい。鑑定をお願いしたいのですが」
「というか鑑定以外に【鑑定屋】の業務ってあるのかな?」
めりぃさんが首をかしげる。確かにプレイヤーが次々訪れるはずの店なのに、お客が来ることを想定していなかった狼狽ぶりだ。
「君たち、もしかして【鑑定屋】の利用は初めて?」
「はい、初めて未鑑定品を手に入れたので……」
「うーん、それなら念のために説明しておくわね。どこかのプレイヤーが最近提唱しているらしいのだけど。このゲームの未鑑定品はね——」
一呼吸置いて、彼女は衝撃の事実を告げる。
「——鑑定すると価値が暴落するの」
テクニックその9 『ロードウィング』
空中で強引に接地する事によって理論上無限のジャンプが行えるぶっ壊れテクニックです。
控えめに言ってバグですが、運営が認めない限りは仕様なのでテクニックです。
とはいえジャンプの度にMPを2消費しますし、連続してこのスキルを発動することが前提であるため、滞空中に他のスキルを使おうとすると難易度が上がります。
全ての常識を否定する飛行技術でありながらも癖が強いテクニックですね。
本来は行けることを想定されてない高所とかに探検にでも行きますかね?