第52話 改造行為
「腕が——銃になっている……?」
特殊なアバター?そんなわけはない。このゲームは人間の範疇から逸脱したアバターを採用できない。
【黄金の才】?違う。【黄金の才】を否定する力が【黄金の才】そのものであれば本末転倒だ。
ゲーム中に腕を切断して装備を移植したとか?いや、それをやってなんのメリットがある?
いや、あるいはそういった人体改造によって銃の攻撃判定を素手として扱うことができるという可能性はある。
けれど——まだ核心に届かない。胸裏がざわつく。
ゲームを根本から覆す最悪の仕様。仕組みは理解できずとも、そういう類のものであるとボクの直感は告げていた。
「……最悪の発想だな」
ゆうたさんが低く押し殺した声で呟く。もしかして、あのアバターのからくりに気づいた?
ゆうたさんに問いかけようと思ったけれど、それよりも早くああああさんがボクに向かって声をかけてきた。
「VRMMOにおけるアバターのシステムって、知ってるっすか?」
それは、このVR社会を生きている人ならば常識として知られている問いかけだった。
「……VRゲームにおいて、アバターの設定方法は大きく分けて2種類存在します。1つは設定値を入力して1からアバターを構築する方法。この方法では銃をアバターに追加することはできない」
どのようなアバターを作れるかどうかはゲームによって異なるが、少なくともこのゲームにおいては銃というパーツが存在しない以上、その方法で腕に銃を取り付けられないことは事実だ。
仮にその手順によって銃を搭載できたとしても、あくまでそれはグラフィック。システムをねじ曲げないかぎり、戦闘には転用できない。
わざわざ問いかけている以上、アバターのシステムが彼の力の根源であることに疑いようがない。
けれどこちらの手段では再現できない以上、必然的にもう1つの方法を用いていることになる。
「もう1つは?」
「もう1つは——現実の身体データをそのままアバターとして利用する方法」
本人確認用の認証データも含むフォーマルなアバターであり、こちらはバーチャルスクールなどの公共機関において利用されることが多い。とはいえボクがこの手法でアバターを生成してゲームに参加しているように、必ずしもゲームをプレイするときに前者の手法だけが使われるわけではない。
そして——こちらの手法を用いれば、彼の現状を再現できる。
「そういう……ことですか……っ!」
アバターの構築がシステムによって縛られているのならば——。
「——現実の肉体を改造すればいい。至って簡単な〈改造行為〉っすよ」
VRのアバターが公共機関における証明として利用されている以上、腕に銃器が付いているからといってダイブを拒否することはできない。公共のバーチャル空間には攻撃システム自体がない。だから、拒否する必要もない。
しかしその場合においても銃器としての機能自体が失われることはない。義手や義足などの身体的ハンデを補う装置を無効化するわけにはいかないからだ。
それが人にとって有益かを判断するには、身体構造のすべてをAIで監視する必要があるが、そもそもリスクが存在し得ない以上、わざわざ無駄な監視を行う必要はない。
ゲーム内でも理屈は変わらない。攻撃というシステムは存在するが、法則の外にある機械を持ち込んでも、それは実質的には素手と同じ。
そう——判定は素手として扱われる。
だから、【正拳突き】を発射できるんだ。
「なんの意味もない脆弱性。ゲームのために腕を改造する奴なんているわけがない。仮にそれがゲームに悪影響を及ぼしたとしても、現実アバターによるダイブをゲーム内で規制すればいいだけ」
そのすべてのハードルがこの無法地帯においてのみ越えられる。
1000億円のためなら腕が銃器になることなんて瑣末なこと。管理者たるプログラマーがボイコットしている以上、その穴が塞がれることはない。
このゲームにおいてはその気があれば誰もがこのテクニックを再現できる。まともな神経なら誰も試さないはずだ。
まさに、誰にでもできるけど、誰にでもできるわけじゃない、だからこそ、最凶のテクニックだ。
「はは、ユーキさん。これも見逃しちゃうんですか……?世界中のプレイヤーの腕に兵器が搭載されちゃいますよ?」
「……荒罹崇。現象の原理なんて些細なこと。この場において重要なのは、素手の判定で弾が飛んでくること、それだけだ。そして、俺たちが目指すのは——」
「——勝利、ですよね?」
「あんたが載せてる攻略情報が正しいならば、このゲームは勝利への渇望を通じてシステムがアシストするんすよね?人間をやめてまで勝利を追求するこの僕に勝てると思ってるっすか?」
「その勝利を追求させてるのはどこの誰ですか?あなたじゃないですよね。後ろで突っ立ってる秘書Dさんかな?本人にその気がないのにどの面下げてほざいてるんですか」
秘書Dさんは腕を機銃にしていない。他の部位にも〈改造行為〉の痕跡は見当たらない。内部構造まではわからないけれど、あの様子ではサポート役に過ぎないのだろう。
やり玉にあげられた秘書Dさんがそっと耳打ちをすると、ああああさんはこちらに銃を向けた。
「もう言葉はいらないっすよね。勝ったほうが正義っすから」
「ボクは生まれたときから正義なんですよね?勝つのが当たり前なんです」
そして、ボクたちの会話が終わると同時に、システムが戦いの始まりを告げた。
【START!!】
テクニックその42 『改造行為』
アバターではなく人体を改造することによって間接的にアバターを改竄する行為。本人がチートだと言っているのでこのテクニックとしましたが、経緯はどうあれ運営が認めている以上チートではないですね。人体に対しての改造行為である事は間違いないですけど。
改造行為その1 『機関銃』
腕を外科手術によって銃器に改造する事で、ゲーム世界に銃器を持ち込みます。
持ち込んだ銃器はプレイヤーの腕そのものである為、素手による攻撃として扱われるようです。




