第496話 公式案件
「いや、話が脱線してるのです!結局、そういう仕様はあるのです?」
メグさんが虚空に向かって叫ぶと、眼の前に透き通るような蒼い髪の少女が現れる。
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>まさかのGM降臨
>おい、俺がいくら不具合報告しても定型文しか返して来ないくせに!卍さんの優遇はやめろ!
>ユーキちゃんかわいい
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「視聴者さんの言う通り、あまり個人のプレイヤーを優遇するような言動は取らないで欲しいですね。炎上しちゃいますから」
「荒罹崇さんには配信者としてもこのゲームを盛り上げていただいていますからね。これは公式案件だとでも思ってください。それに、ゲームの仕様に不安を抱かせてしまっているのであれば、ご説明させていただきたい」
ユーキさんはボクの軽口にさらりと返答する。これまでユーキさんとの接触は建前上はゲーム外であることが多かったですからね。
「さて、質問の内容に答えますと——正直に言ってわかりません」
「いやいや、なんでわからないのです!?」
わざわざ出張ってきた割には無意味にも程がある回答だった。申し訳なさそうにしゅんとしている様子がちょっぴり可愛らしい。
「現実を再現する事によって起こり得る事象だからでしょう。意図的に他人を害するデスゲーム仕様を実装するわけがありませんから」
他者の『VRステーション2』を破壊し得る欠陥すら放置されているのだ。現実の仕様を前提としたセキュリティホールを塞ぐのはやはり難しいのだろう。
「正直に言ってしまえば【フォッダー】は危ないゲームです。"作者"に対抗する為に、ゲームでの成長を現実にフィードバックするように作りましたから」
「でももうそれはおわったことだよねー?」的にはあっぷでーとしてもいいと思ったけど……」
「……」
」さんの意見は正しい。"作者"さんという最大の障害を乗り越えることができたのだから、【フォッダー】を〈進化〉のためのトレーニング施設にする必要性は薄い。
"作者"さんが最大の障害であるという仮定が、真であればの話だが。
「あきなさんがいらっしゃるので口にするべきか迷いましたが——"作者"さんを乗り越えた私達であっても、グャギゼウスさんを力で制圧することはできません。人類は常に〈進化〉し続ける必要があるんです」
つい先日も異世界から侵略者が来てましたしね。
【フォッダー】による人間の〈進化〉は明らかに国家規模——否、地球規模のプロジェクトだ。ユーキさんが懸念を抱いていても、多少の危険性があっても、止める術は無いのだろう。
「あの……1つよろしいですの?えっと、まだ情報を咀嚼できていないのですが……。プレイヤーを殺せるかもしれない能力?があるかもしれないって事で間違いないですわよね。事実として、プレイヤーがその能力によって死んでしまった事例は確認されてますの?」
「ありませんね」
「あれ?」
猫姫さんの疑問に対して、これまでの議論のすべてがひっくり返るような回答が返ってきた。
「【フォッダー】のシステム上はセキュリティホールをすり抜けてそういう事象が発生する可能性もやむ無しとなっているのですが、少なくとも事実としてこのゲームを起因に死亡したプレイヤーは確認されていません」
そこらの運営なら『確認されていません』などと言われても信用できない話だが、人類最高峰のAIであるユーキさんの言葉だ。ゲームには裏があるが、嘘をつくようなお人ではない。
「そうだったのです?よかったー。卍さんの勘違いだったのです」
「いやいや、あれだけの殺意を向けられたら勘違いするでしょ!倒された後に二度とログインしてこないプレイヤーはいたんですから」
「彼に倒された後にログインしなくなったプレイヤーというのも存在していませんよ」
「あれ?」
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>卍さん無能すぎて草
>ロールプレイングとかいうゴミカス能力
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「いや、少なくともあの人の視点では事実だったんですよ!たまたま出会わなかっただけ?そんな筈が——いや」
いま言葉にした通りの内容がそのまま事実なのか。彼は殺意に支配されて、現実すらもまともに認識することができなくなっている。ボクの〈ロールプレイング〉は過去視ではなくあくまで本人の主観を模倣するだけだ。能力の存在を『確信』している事と同じように、都合のいい出来事に『確信』を抱く精神構造であるというのも自然な話。
ただ、それだけでは説明がつかない気がする。単純な精神異常者として結論付けるのは間違っているような……。
そこであきなさんが口を開いた。彼女に口は無いが。
「とにかく、ゲームで負けたからと言って死んじゃう訳じゃないんだよね?それなら、彼とお話してみたいな。なんでそんなにわたしのことを恨んでいるのか。答えはわかりきっている気がするけど……」
〈ロールプレイング〉によれば彼が持つ恨みの原点は明らかだ。単純な『異形』に対する差別意識と、世間を騒がせていたグャギゼウスさんへの反抗意識。
しかし今は〈ロールプレイング〉の精度に疑問が生じている状態だ。対話をするのも悪くないかもしれない。




