第488話 試練の迷宮
【試練の迷宮】は【ディスポサル城下町】の中心——城の中にあるとのこと。«テレポート»で【ディスポサル城】に移動したボクたちは、メグさんに先導されて城の中を進んでいった。
物置きのような部屋に、怪しげな地下室へ続く階段があった——その先に迷宮がある。
「基本的にメインクエストで訪れる場所なので、浅層のモンスターは弱いのです。でも、メインクエストでは行かない深層もあって、そこでは強力なモンスターが出てくるのです」
メグさんがダンジョンについて説明してくれる。さらに、【復刻米】は【試練の迷宮】の全域で見つかるものだが、ハズレアイテム扱いなので、深層へ進むほど出現率が下がるのだとか。
「それならボクたちは浅層を掘っていく感じですね」
そんな話をしながら階段を降りていくと、石造りの壁に覆われたいかにもダンジョンという光景が見えてきた。ひんやりとした空気が肌をなでる。
マップは例によってあかりちゃんさんのサイトで公開されている。宝箱はランダム配置なので、隅々まで回ってみたほうがよさそうだ。
【アイズ・ファミリア】の姿でふよふよと浮かびながら通路を進んでいくと、猫姫さんがその後ろからうり坊の姿でとことこついてきた。さらに後ろからメグさんも微笑ましそうにしながらついてくる。
やがて通路の曲がり角が迫ってきたところで、【パスファインダー】がモンスターの接敵を検知した。いったん立ち止まり、少し待つと、黒い鎧をまとった猟犬——【ナイトハウンド】が現れる——と同時にHPがゼロになり、粒子になって消えていった。
「やっぱり【エレウテリア】の火力があれば、この辺りのモンスターは楽勝みたいですね」
ただ、モンスターの格としてはレベル1で挑む相手ではないようで、面白いくらいにレベルが上がっていく。おかげで追加のスキルを覚えられそうだ。
「わたくしもレベルを上げたいですの。次のモンスターはわたくしにやらせてくださいませ」
「いいですよー。ボクはのんびり休憩しましょうか」
ボクは猫姫さんの提案に応えて【エレウテリア】を切り、後方に下がってメグさんの頭の上にちょこんと飛び乗った。代わりに猫姫さんが先頭でダンジョンを進んでいく。
道中でメグさんがボクに手を伸ばし、もふもふと撫で回してくれた。明日香さんやとがみんは【転生】アバターを撫でられるたびに嬌声を上げていたが、やはりただの演技だったようだ。安心感はあるが、それ以外に変わった感覚はない。
途中で何度か社員NPCとすれ違いつつもダンジョンを進んでいくと、やがて広間のようなスペースで3体の【ナイトハウンド】に出くわした。猫姫さんは【リバースコール】を発動させる。範囲魔法にしては恐ろしく短い詠唱によって広間全体に魔法陣が形成されると、天井から氷が降り注ぐ。
見るからに痛そうな攻撃だが、今のボクたちには完全に無害だ。水属性のスキルは【パーティ】を組んでいる味方に害をなさない。ぽよんと柔らかく体内に溶けていき、氷属性ELMが増加するバフが適用される。
逆に【ナイトハウンド】にとっては痛烈な攻撃だ。全損こそ免れたものの、氷属性ELMを下げられ、HPゲージを大きく削られていった。
「むむ、やはり一撃では仕留められませんでしたの……」
猫姫さんは悔しがっているが、【リバースコール】はあくまで相手にデバフを与えるのがメインの効果だ。その上で相手を一撃で仕留められるほどの火力があっては、ほかの属性の立つ瀬がない。
「【マジックアップ】を使っておけば倒せたかもです!」
「水属性は——猫姫さんの場合は氷属性ですが——そこが強いんですよね。自前の属性でINTを底上げできるからELMの恩恵を最大限に受けられますし」
ボクが水属性を敵視している理由の1つだ。魔法の威力はINTで決まるというのに、INTを増加させる水属性のバフスキルを持っているのはずるい!炎属性にもください!
なんて心の中で文句を言っている間に猫姫さんは【アクアショット】を撃ち出して【ナイトハウンド】にとどめを刺していく。残った2匹が挟み撃つように左右から襲いかかるが——。
「【ミラクルファウンテン】!」
その瞬間、猫姫さんを中心として地面から氷の結晶が鋭く突き出し、猟犬を弾き飛ばす。ただでさえHPも少ないのにELMまで下げられていたら耐えられるはずもない。2匹の【ナイトハウンド】は空中に跳ね飛ばされたまま溶けるように消えていった。
「お疲れさまです!さすがですね!」
「別にすごくないですの。スキルを発動させているだけですわ」
まあ、確かにそうなんですけどね。この辺の敵なら【メイジ】のボクでも杖による殴打だけで倒せそうだ。
しかし猫姫さん自身にもいいところはあった。【ミラクルファウンテン】はさっきまでは覚えていなかったはずのスキルだ。1匹目の【ナイトハウンド】を倒して得た経験値で即座にスキルを習得して発動していたのである。
外見からは【女神像】を持っているようには見えないが、【転生】アバターは物理的に装備不可能な形状であってもシステム的には装備可能だ。アバターに反映されていないところで【女神像】をモチーフとしたアクセサリーを装備しているのだろう。
と、猫姫さんの地味テクを解説していると、メグさんがぽつりと独り言をつぶやいた。
「そういえば【転生】アバターって【マクロ】はどういう扱いになるのです?」




