第485話 魔眼の火花
【START!!】
システムメッセージが試合の開始を告げると同時に【〈パウダーホーム〉】を展開する。対する猫姫さんもストレージから粉を取り出して周囲に振りまいている。奇しくも、一手目は互いに同じ。ボクと猫姫さんは【キネシス】を起動して辺りの領域を支配する。
「まずはデバフから入りましょうか……〈生命よ、等しく魔眼王の糧となれ〉【ネガティブゲイズ】【指定:INT】!」
ボクのきゅーとな瞳が怪しく光り輝くと、視界に映り込むすべての生命に対して強力な呪詛が降りかかる。無差別かつ特殊な条件が要求されるだけあって、その効力は妨害の中でもかなりの高水準。強力な氷属性魔法を防ぐための一手だ。
加えて、【アイズ・ファミリア】の特性により、この妨害の効果時間は大きく延長される。
【魔眼の使徒】
[パッシブ]
効果:[視界][スキル]の[効果時間]を[任意]とする。
対する猫姫さんは攻撃を選択したらしい。ボクの足元——足はないけど——に巨大な青色の魔法陣が形成される。
「〈優しき雨の祝福よ、鋭き刃の災禍を為せ〉……さぁ、いきますわよ——【リバースコール】!」
その瞬間、空から無数の氷が降り注ぎ始め、広大な範囲を覆う。
「いてててっ。演出まで変わるんですか。ずいぶんと贅沢な効果ですね」
実際に痛みのような不快感は生じないが、それでも固形物が降ってきたら思わず声が出てしまう。
ステータスを確認すると、【リバースコール】の効果である水属性ELMの低下——ではなく、氷属性ELMの低下という妨害が付与された。既存のスキルに当てはまらない属性として判定されることで、耐性による相性に左右されないこと、それが『氷結』という【ネームド】が持つ優位性なのだろう。
しかし炎属性に特化している都合上、ボクの能力的にはむしろ水属性が弱点だ。その意味では相対的には、こちらにとって優位に働いているとも言える。
「魔法の打ち合いなら負けませんよ!」
【ネガティブゲイズ】の効果の甲斐もあって、ダメージは軽微だ。そもそも【アイズ・ファミリア】自体が【メイジ】よりも耐久に優れているようだ。キャラクターのステータスはメイン職業に重きを置いた配分になるので、普段のように後衛職業をメインに据えたときよりも、耐久値は幾分マシだろう。
とはいえ妨害によって氷属性ELMを下げられてしまった以上、次からの一撃は手痛いはずだ。ボクは立て続けに長尺の詠唱を始める。
「〈古の炉より火の子を借りて、星の拍手で天を割り〉……」
「【エアーマシンガン】!」
ボクよりも先に詠唱を終えた猫姫さんが風属性の魔法を発動させる。凄まじい速度で嵐の如く乱れ飛ぶ風弾——いや、違う。これは……氷弾!?
身体を弾ませてバックステッポで後方に下がりながら、その攻撃を見定める。事前情報では水属性を氷属性に変えるのが『氷結』の特性だったはずだ。それなら目の前で起きている事象は——風属性を水属性に変換したのか!
本来なら【エアーマシンガン】は手数で勝負する類の魔法のはずだ。氷弾は空を裂きながら眼前に迫っており、少なくとも物質干渉力は本家本元よりも高いことがうかがえる。物質干渉力と威力は必ずしも比例しないが、威力が高い魔法は物質干渉力が高いことが多い……当たるのは危険だ。
「《ガゼルフット》!」
魂の言葉を力強く宣言し、回避に専念する。残像を生み出しながらぴょんぴょんと跳躍して氷弾を避けていく。しかし後方に逸れたはずの氷弾は旋回して再びボクをつけ狙う。レベル1にしては異常なまでのDEX……料理による支援の効果だろう。これでは〈トンネル避け〉も困難だ。
しかし、詠唱は完了した。
「〈終の夜空に咲き誇れ〉!【ファイアワークス】!」
その瞬間、上空で派手な爆音を轟かせながら、美しい花火が咲き誇る。花々は次々と打ち上がり、空をきらびやかに彩っていく。
ほぼ同時に無数の氷弾がボクを貫き、HPゲージが急速に下降するが、ちょっと空を見上げただけで瞬く間に回復へ転じていく。
【ファイアワークス】
[アクティブ][上昇][視界][聴覚][攻撃][支援][炎属性][魔法]
消費HP:25% 詠唱時間:20s 効果時間:4m 再詠唱時間:30s
効果:
[聴覚]で[観測時]、[ダメージ]を[与える]。
[視界]で[観測時]、[追加HP][追加MP]を[獲得]する。
「これこそがボクの持つ究極の『魔眼』系魔法です。なにせ『視界』というキーワードがついてますからね」
「絶対バグですの!!」
『魔眼』系魔法が得意なモンスターが持つスキルの適用条件が『視界』キーワードを前提にしてるのだから、このキーワードがついているスキルはすべて『魔眼』だ。間違いない。
しかもこの魔法は回復だけではない。聴覚を通じて聞くものすべてにダメージを与えることができる。
ボクの炎属性ELMによって強化された爆音はもはや地平の果てまで届き得るほどの騒音と化している。ゲームなので都合よく会話はできるし、不快感もないが、少なくともボクと戦える距離である限り、このダメージからは逃れられない。
これこそがボクが【メイジ】をサブとして選択した理由の根源となる魔法。こんなスキルが【アイズ・ファミリア】の枠で覚えられるはずがないですからね?
しかし猫姫さんもこの程度の攻撃で完封できる存在ではなかったらしい。HPゲージは確かに減っているが、それでも遅々とした速度だ。彼女は【エアーマシンガン】を中断すると、その後方に巨大な蒼く輝く神秘的なオーラをまとった女性が出現する。
「【サモン・ナイアース】ですわ!」
「はぁあ!?上級精霊!?60秒の長尺詠唱を踏み倒した!?」




