第484話 料理の真髄
さっそく猫姫さんと一緒に【闘技場】に入場し、対戦の申請をする。申請はすぐに許可され、ボクたちは競技エリアへと転移する。
四方を観客席に取り囲まれた正方形の競技エリアで、ボクは眼前の猫姫さんを見据える。
今の猫姫さんは【氷結の天駆けるワイルドボア】だ。青白く輝く翼がひらめくきゅーとなうり坊の姿で、どことなく神聖さが漂う。
対するボクは白い毛玉の謎生物。きゅーとではあるけれど、モンスターとしての格が違いすぎる。
とはいえ【フォッダー】はカタログスペックだけで勝敗が決するようなゲームではない。そんな単純なゲーム性だったら今頃は【黄金の才】の暴力ですべてが蹂躙されていたことだろう。
「さて、勝っても負けてもどうということはない模擬戦ですが……華麗にきゅーとに勝利してみせましょうか!」
「私も卍さんにやられてばかりではありませんわ。とっておきの料理アイテムで圧倒してみせますの!」
猫姫さんはそう宣言すると【ストレージ】からおいしそうないちごのショートケーキを取り出した。……え!?猫姫さんがまっとうなスイーツ系料理を作った……!?
「そ、それっ、どうやって作ったんですか!?ついにまともな料理ができるように——」
「下請けにケーキを発注して、私は品種改良したいちごをのせましたの」
知ってた。猫姫さんはボクのじとーっとした目線をスルーしてもぐもぐとケーキを頬張る。なるほど……果実を料理に変えたのはこのためでしたか。
補足として支援効果は試合の開始前に付与しても引き継がれることはないが、料理効果だけは話が別だ。というわけで、ボクも合わせて食事を摂ろうと思う。いつもなら【パインサラダ】を摂取するのが定番だが——。
ボクは【ストレージ】から熱々の真っ赤なラーメンを取り出す。これは『食材の魔術師』こと白凰さんが作った激辛料理で、食べると体が炎上し始めるというメリットを見いだしにくいアイテムだ。以前にとがみんがこれを食べてHPを全損してしまったことがある。
しかし炎属性ELMをしっかりと確保していれば絶大な継続回復効果として機能する。そしてなによりも——。
「ボク、この料理の味が大好きなんですよねー」
----
>出たーwwwwゲームのバフアイテムに味を求め奴wwww
>めっちゃ辛そう
>装備を粉末にして添加した料理が美味しいってマジ?
>卍さんって辛いの好きなんだ
----
「むっ、それは聞き捨てなりませんわね。私の料理へ対抗するつもりですの?」
【『ディオニューソス』】は料理の効果だけではなく味すらも自在に操作する。猫姫さんは料理の技術力こそないが、繊細な味覚を自負しているらしく、最高の味を定義できる。
「その実力は確かに認めましょう。おそらく先ほどの【りんご】も果物としては最高峰の味を楽しめるのでしょう。しかし、【『ディオニューソス』】には重大な欠点があります」
そう言いながら、ボクは目の前のラーメンを全能によって浮かべ、勢いよくすする。ほどよくピリ辛で麺にはコシがあって、極上の料理というほどではないがそこそこおいしい。
確かに猫姫さんの作る料理の味は極上だ。味だけは最高級の料理にも引けを取らないだろう。
「しかし猫姫さんが調整できるのは味だけ。至高のラーメンを作るには、味だけでは足りませんからね?」
至高の料理には味覚だけではなく視覚や嗅覚、触覚なども非常に重要だ。ボクの言葉に猫姫さんはうなずく。
「むむむ、正論ですの。しかしそんな欠点は今の私にとってはないも同然!ケーキを外注していちごを乗せれば、ケーキの味も調整できますのよ!」
「そんな魂のこもっていない料理になど、負ける気がしませんね!」
びしっ!と指を突きつけようとしたが、指はないので変わりに感情表現で応じる。
----
>転生アバター対決という趣旨はどこに消えたんだ
>完全に料理対決の文脈で草
>卍さんが持ち出してるの他人の料理なんだよな……
>卍さんって料理できるの?
----
ラーメンを食べ終えると、ボクの体が激しく炎上し始めた。すでにHPは満タンなので継続回復効果は発揮していないが、体が燃え上がっていると魂まで一緒に燃え上がるような心地がする。
「よーし、準備万端です!カウントを始めてください!」
【5】
「ふふっ、調子に乗っていられるのも今のうちですわ。【絶望のショートケーキ】の暴威にひれ伏しなさい!」
【4】
「【絶望のショートケーキ】って、おいしくなさそうですね……」
【3】
「これは公式大会で敗北を喫した私が生み出した新たな光——絶望からの立ち上がりを示す象徴ですのよ?」
【2】
「その程度の光なんて、ボクの炎で燃やし尽くしてあげますよ!」
【1】
「すっごい悪役の台詞ですわよ、それ……」
【START!!】




