第481話 栽培=料理
「【りんご】!!???」
それはもはや料理名ではない。何の変哲もない果実の名前だ。ただの素材に料理効果が付与されているという事実に驚きを隠せない。
「それは……料理ではなく素材ですよね?」
「いえ、正真正銘の料理ですの。なぜなら、素材には料理効果は付与されませんの」
そのあたりの仕様については詳しくないが、猫姫さんが言うならそうなのだろう。だとすると、このりんごには何らかの手が加わっているということか。しかし、その加工があまりにも軽微だったため、料理名にするまでもないと判断されたのか?
そんなことがありえるのか?多くの工程を重ねて最高級の料理をこしらえても、【パインサラダ】には届かない。いや……【『ディオニューソス』】なら、それすら可能なのだろうか。猫姫さんは食パンを焼いたり、果実を冷やしただけでも料理だと言い張るお方だ。そのうえで最上級の効力を引き出しているのだから、【黄金の才】の手にかかれば、手間のかけよう——工数や品質——は料理効果の出力とは無関係なのだろう。あくまで効果は食材で決まり、工数や品質は出力にのみ影響する。そのうえで【『ディオニューソス』】は、工数や品質すら無視して最高出力を叩き出せるのだと思う。
「ちなみに……この料理を完成させるためにどんな調理工程を踏んだのでしょうか?」
「私も気になっているのです。針を刺したとか?皮を1mmだけむいたとか?いったい何が……」
ボクの疑問にメグさんも同調する。あまりにも意味がわからない異常事態だ。猫姫さんはなんと答えるのか……。そして彼女は、さも当たり前のような口調で、その恐るべき論理を一言で説明した。
「育てましたの」
「は?」
「種から育てましたの」
「あの、もしかして外国の方でしたか?翻訳機能が故障しているんでしょうか?」
昨今のVRMMOには、外国人がログインしていてもまったく違和感を生じさせない翻訳サポートとリップシンクが搭載されていると聞く。あまりにも自然なので普段は意識しないが、さすがにボクはシステムの故障を疑った。キャラクター名は翻訳されないので日本人かと思っていたけど、漢字だけの表記だから中国人かもしれない。
「おそらく同じ言語で会話していると思いますけど……。言い方を変えますわね。菜園で栽培しましたの!」
「それは料理じゃないですよ!!??」
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>草
>草
>菜園に草を生やすな
>草刈りAIが通ります
>でもりんごって美味しいじゃん?美味しいなら料理でもいいじゃん?
>料理の定義こわれる
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あまりにも意味不明だが、実物があり、それを料理した猫姫さんが言う以上、事実と認めるしかない。とはいえ、本当に種を育てただけで料理になるとは、さすがの猫姫さんも思っていないはずだ。ここは理屈を聞いてみるしかない。
「えっと、具体的にどんなふうに料理したんですか?」
「……?普通にですのよ」
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>やべえよやべえよ
>ちょっと料理が苦手なだけで常識人だと思っていたのに
>卍さんのチャンネル登録外しました
>もういい、卍さん!逃げろ!
>りんごの木生える
>猫姫さんが壊れた
>勝手に壊すな!冗談かもしれないだろ!
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「えっと、それでは実際に料理をしているところを見せていただけますか?」
「わかりましたの。では、【ギルド】でお見せしますわ」
猫姫さんはアバターを変更していつもの姿に戻ると、【ギルドリターン】で【ギルド】に転移した。ボクもメグさんの顔を見てうなずいてから、【ギルドリターン】を発動させる。
久々に【ギルド】にやってきたが、相変わらず城みたいに大きな建物だ。【フォッダー】をプレイしているほとんどすべてのユーザーが加入しているのだから当たり前だが、そう考えるとむしろ小さく感じてくる。さまざまなプレイヤーが利用しているようで、巨大な門を多数のプレイヤーが行き来している。
先に到着していた猫姫さんがこちらを振り返って手招きし【ギルド】の中に入ったので、ボクたちも続いた。菜園が使える施設もあるのか。名目上はボクが『マスター』なのに知らないことだらけですね。
入口すぐのところに小部屋型の半透明な『テレポーター』が大量に並んでいた。ボクたちが猫姫さんと同じ部屋に入ると、彼女はボタンを押す。次の瞬間、テレポートが完了し、目的の部屋に到着したようだ。
「ほえー、ずいぶんとハイテクになりましたねー」
「卍さん、知らなかったのです?ずいぶんと前からこの仕様なのです」
生産系のプレイヤーなら【ギルド】によく来るのだろうけど、あいにくボクの生産系スキルは、戦闘中の補助用途がほとんどだ。凝った生産設備なんかもあまり使わないし、住む世界が違いますね。
『テレポーター』から外に出ると、頭上には太陽があった。その上には天井があり、ここが室内だとわかる。菜園用の人工太陽なのだろう。
あたりにはぐるりと360度、巨大な畑が広がっていて、プレイヤーや【会社】システムで雇用されたNPCたちが種を植えたり、水をやったりしている。中には果樹園と思しき森が広がる地帯もあり、光景の多様さが感じられる。
「誰かの敷地とか、そういう概念はなさそうですね。空いている場所で各自が好き勝手に植物を育てているようです」
さて、周囲の状況は確認できた。ここからは猫姫さんのお手並み拝見だ。【パインサラダ】に匹敵する果実の料理法、楽しみですね!




