第480話 りんご
メグさんの【カード】杯への挑戦を支援するべく、強力な【ネームド】をいくつかお貸しする。今後の環境でも活躍できるかは不明だけど……。
「【フォールダウン】の練習は別日にするとして、これからどうしますか?もっと【『アイテール』】について検証してみましょうか」
「うーん、猫姫さんに会いに行くのはどうです?」
「あっ……」
【『アイテール』】が実は優れた【黄金の才】であったことを自慢しに行くんですね。わかります。
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>性格悪くて草
>マジかよメグさん最低だな、卍さんのチャンネル登録外します
>アイテール最強!アイテール最強!
>猫姫さんかわいそう
>かわいそうはかわいい
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「ち、違うのです!【ダブル】本戦に向けて、料理アイテムを選定しようと……」
「はいはい、わかってますよー。【『アイテール』】のことで煽りに行くついでに、料理アイテムを選定するんですよねー?」
ボクならまだしも、心優しいメグさんにそんな意図がないことは明白だが、あえていじり倒していく。ボクだって配信者ですから。仕方ないですよね。
そもそも【『ディオニューソス』】だってかなり強い。いまさら【『アイテール』】の強さがわかったところで意味はないのだが、猫姫さんならきっとおいしい反応をしてくれるだろう。
ボクは【フレンドリスト】から猫姫さんに連絡を取って場所を確認する。どうやら【ノーグッド】にいるみたいですね。
さっそく«テレポート»を使って転移すると、そこは【輪廻の館】だった。
「猫姫さん、おはこんばんにちはー!遊びに来ましたよー」
しかしそこに猫姫さんの姿はなかった。代わりにいたのはきゅーとなうり坊だった。きらきらと輝く青白い翼がついていて、ぱたぱたとはためかせている。
「卍さん、メグさん、ごきげんよう。ちょうど【転生】をしたところですわ」
「【転生】です?見たところ、【ネームド】みたいなのです」
たしかにボクの知る限りではこんなモンスターは見たことがない。うり坊の部分だけで言えば似たようなモンスターを見たことがある気がするけれど……おそらくは青白い翼が【ネームド】の要素なのだろう。
「【氷結の天駆けるワイルドボア】ですの!水属性魔法を変容させる性質を持ちますのよ」
「水属性魔法を変容ですか!氷属性みたいになるんですね?」
それは面白そうだ。耐性も含めてどういう処理になるのか非常に気になる。
試しに翼に触れてみると、なんだかひんやりしている。夏になったら猫姫さんを抱きしめて眠りたいくらいだ。
「『天駆ける』の方は飛行ができるだけですか?」
「風属性のELMも加算されることに加え、【空神の加護】と同等の受動スキルが追加されますの」
なかなか悪くないですね。多重【ネームド】としてのシナジーはあまりないけれど、あって損はない。
……もしかしてこのゲーム、【ネームド】に【転生】して特殊能力で殴るだけのゲームに向かってません?
「そういえば、お二人はなんのご用ですの?ダンジョン攻略やクエスト攻略でしたらお付き合いしますわよ」
「あれ、猫姫さん聞いてないですか?最近【『アイテール』】付きの装備をゲットしたんですよ。それを自慢しようと思って——」
「りょ、料理を購入しに来たのです!」
「お料理ですの?基本的な料理でしたら【ダスター都市】で販売しておりますけど、オーダーメイドがご希望かしら?」
ボクの発言は軽く流され、話題は料理へ。どうやら【『アイテール』】のことは聞きたくもないらしい。
猫姫さんは【ストレージ】からりんごを引き抜いた。
「話は変わるのですけど、これが私の新作料理ですわ。お一ついかがですの?」
「え、料理……?」
焼きりんごかと思ったのだが、見た感じではそういうわけではなさそうだ。見た目は普通のりんごと何ひとつ変わらない。強いて言えば……と考え込んでも、特筆できる要素がひとつも浮かばないくらいに、なんの変哲もないりんごだった。おいしそうではあるけれど……。
「効果は——え?……す、すごいのです!」
メグさんがりんごを【ストレージ】にしまいこんで効果を確認すると、あまりの性能にびっくりしたのか軽くのけぞってみせた。それから感嘆符の感情表現を連打してその衝撃を表現し始める。
「そんなにすごいんですか?どんな効果なんです?」
「このりんご——【パインサラダ】と同じ効果なのです」
「——え?」
たしかにとてつもない性能だ。あり得ないと言っても過言ではない。なにせ【パインサラダ】はメインクエストを特殊な条件で攻略したプレイヤーにのみ報酬として提供される特殊な料理だ。同じ効果の料理はレジーナさんにしか作れない——そう思っていたのに。
「ち、ちなみに料理名はなんですか?」
一体どんな加工をしたらそんな料理が作成できるというのか。ボクは恐る恐る尋ねると、メグさんはほんの一瞬だけ逡巡して——一言だけぽつりと漏らした。
「——【りんご】」
「【りんご】!?」




