第479話 マクロキャンセル
「みなさーん、おはこんばんにちはー!卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねるにようこそー!」
「アシスタントのメグなのです!おはこんばんにちはー!」
配信を開始し、元気よく挨拶する。ユーキさんによるログイン自粛のお願いも解除されたので、今回はメグさんも一緒だ。
「まったく……【ダブル】の本番が迫ってるんですよ?自粛をお願いされても、無視してログインしなきゃダメじゃないですかー」
「そんなこと言われても……。空が紫色になってて、ユーキさんが告知してたら天変地異の前触れだと思うに決まってるのです。ログインしてる場合じゃないのです」
メグさんは水滴の感情表現を浮かべて、反論した。実際に世界が終わるかどうかの瀬戸際だったらしいので、その理解で完全に正しい。ぐうの音も出ないほどの正論だ。
「ま、まぁ……。確かにログインしている側が少数派だったようですけどね。めりぃさんも明日香さんもいなかったですし」
【フレンドリスト】を見ると、今日はめりぃさんもログインしているようだ。明日香さんはいないけれど、彼女は『退魔師』としての仕事があるのである意味では当然だ。昨日の今日で騒動のすべてが片付いたわけではないだろうしね。他にはあきなさんもログインしている。
せっかくだしあきなさんのところに遊びに行こうかとも思ったけど、逆に気を遣わせてしまいそうだ。今日はメグさんと一緒に大会に向けての準備を進める方向でいきましょう。
「昨日は【『アイテール』】の検証をしてたんですよ。でも、今のところ【エアジャンプ】とあまり変わりがなさそうですね」
「配信のアーカイブで見たのです。でも、肝心な検証が足りてなかったのです!」
メグさんがボクに指さしながらそう指摘する。確かにメグさんもいなかったので簡単に確認しただけだったけど、そんな致命的な見落としがありましたっけ?
「【マクロ】と併用したらどうなるか、試してないのです!」
びしっ!と効果音を出しながら声を張る。メグさんといったら【マクロ】ですからね。自分の分野についての検証が足りていないことが気になっていたのか。
「ちなみに行動記録型【マクロ】の動作中に【エアジャンプ】などの別のスキルを差し込むことはできないのです。思考記録型なら問題ないのです」
行動記録型とは«五月雨突き»のように、常に同じ動作を行える点を利点とする【マクロ】だ。逆に思考記録型は、«ガゼルフット»のように【モーションアシスト】への命令を【マクロ】化したものだ。
一見、同じシステムでは成り立たない相反する挙動に見えるが、ユーザーの意図に応じて『行動』と『思考』のどちらか不要な記録を切り捨てる設計なのだとボクは考えている。つまり、設計通りの純然たる仕様だ。
「なるほど、それではさっそく試してみましょうか」
ボクは【フェアリールビーロッド】を取り出して、軽く跳躍してから«五月雨突き»を発動させる。そして杖を前に突き出す直前に【『アイテール』】を起動してみる。
次の瞬間、ボクの身体はぴょんと跳ね上がり、【マクロ】の動作が解除される。突き出すモーションが中断された感覚。反射的に腕を下げる。これは、【『アイテール』】の強制力が【マクロ】より強い、ということだ。
そして同時にボクの正面に6つの【アンプルアロー】が射出される|。
「えっ!?」
「まさか、モーションが中断されたのに攻撃判定が残っているのです……!?」
通常攻撃と同時に矢を放つ【アーチャータクト】が発動したということは、メグさんが言った通りのことが起きていると考えるしかない。
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>これはユニークスキルですわ
>モーションをキャンセルして判定はそのままとかぶっ壊れすぎて草
>いえーい、猫姫さん見てるー?
>マジかよ俺もアイテールが欲しいんだが
>次回のカード杯の賞品もアイテールだぞ
>フ ォ ー ル ダ ウ ン 始 ま っ た な
>まさかゴミみたいなぶっ壊れバランスのクソゲーの景品が環境装備だったとはな……
>ネームドカード募集します!!強いの売ってください!!
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「【フォールダウン】が人気コンテンツになってしまう……!」
わざわざ第1回の大会と同じアイテムを景品にするということは、運営は【フォールダウン】を【『アイテール』】の供給口にするつもりなのだろう。たまたまランダムで同じアイテムが選ばれるという可能性はかなり低い。
「おそらく【フォッダー】のトッププレイヤーが集う2回目の【フォールダウン】大会は魑魅魍魎のすくつになり果てることでしょう……過疎っているうちに入手できてよかったです」
「いいなー。わたしも【『アイテール』】が欲しいのです」
「ボクの所持している【カード】ならお貸しできますよ。同じ戦術で勝ち抜けるほど甘くはないと思いますが……」
「うむむ……やってやるのです!目指せ、【カード】杯優勝!」
「頑張っていきましょうね!応援してますよ!」
テクニックその143『マクロキャンセル』
基本的に行動記録型の【マクロ】は再現を逸脱したアクションを取ることができません。〈アンティックアクション〉のような小細工はできますが、それでも動作の再現中に別の能動スキルを発動したりなんて事は不可能。しかし【『アイテール』】は【黄金の才】の権能によってその制限を逸脱して【マクロ】に割り込むことができます。これにより【マクロ】がもたらす攻撃判定などの結果を残したまま、再現をキャンセルすることができます。
テクニックその144『アンティックアクション』
以前に発見したテクニックですが、テクニックとして書き残していなかったのでここに追記しますね。行動記録型の【マクロ】を起動した時、アバターは記録の初期段階の姿勢に移行しようとします。これ自体は記録された動作ではないのですが、この動作にも【マクロ】としての優先度及びAGIの補正が適用される為、これを利用することでより強度の高いアクションが実行できます。




