第478話 平和な一日
「むにゅ……うさぎさん……なでなでして……」
「はーい、なでなで♥」
とがみんがお耳を器用に動かしてレジーナさんをなでなですると、彼女は幸せそうにうっとりしている。
「落ち着いたみたいだね。ちょっとこっちのお話を聞いてもらいたいんだけど……」
あきなさんが恐る恐る問いかけると、レジーナさんはふにゃりとしたまま「いいよ〜」と答えた。
まともに聞いてもらえるのか不安だが、ひとまず【ディスポサル城】で聞いた内容を説明していく。【封魔石】があれば魔王を弱体化できること、それを手に入れるためには【勇心の石板】が必要であること、それを手に入れることができるのは勇者だけであること。
「魔王を……倒せるの?」
レジーナさんは真面目な顔つきになり、ボクたちに問いかける。アリンドさんですら負けてしまった強大な敵を倒せるとは、彼女自身も思っていなかったのだろう。
「だから自暴自棄にならなくてもいいんだよ。一緒にがんばろ?」
あきなさんがそう言うと、レジーナさんは目を閉じて考え込み——そして再び目を開けた。
「わかった。一緒に魔王を倒そう!」
「話は決まったみてェだな」
離れたところで沈黙を保っていた帝王龍さんが口を開く。端っこで【ジュエルラビット】を構っていただけに見えたが、ちゃんと話を聞いていたようだ。
「だが、残念ながら俺はそこまで付き合いきれねェ。ここからはおまえ1人でいけるな、あきな?」
「えっ——」
まあここから先は長いですからね。いくつものダンジョンを攻略していく必要がある。ボクたちが本気を出して一蹴するなら一瞬だが、そういうわけにはいかない。
ボクはメインクエストの内容も気になるので、ついていっても構わないとは思った。けれど、迫る【ダブル】戦に向けた準備も進めたいのが正直なところだ。
「——わかった!わたし、レジーナちゃんと一緒にがんばるよ!」
「でも、困ったことがあったらいつでも駆けつけますよ。そうですよね、みなさん?」
「当然だよね♥なんなら毎日呼んでもいいよ?」
「ありがとう……!」
とがみんはぴょんとあきなさんの上に飛び乗ると、触手に囲まれながらのんびりと目を閉じる。かわいい。
レジーナさんはとがみんが離れてしまったので寂しそうにしている。代わりに帝王龍さんから【ジュエルラビット】を受け取り、近くに置くと、【ジュエルラビット】がとがみんの真似をしてお耳でレジーナさんをなで始めた。とがみんとは違って【ジュエルラビット】はお耳を動かせないが、擦り付けるようにして真似をしている。かわいい。
そんな感じでしばらくはレジーナさんと一緒にうさぎさんたちと戯れていたが、帝王龍さんがログアウトしたのを皮切りに、今日は解散することになった。
「わたしも今日はログアウトしようかなー」
「メインクエストは逃げないのでゆっくり進めていけばいいと思いますよ。そうだ、フレンド登録をしましょう!」
操作方法を教えてから申請を送り、無事にあきなさんの名前が【フレンドリスト】に追加された。今度は ابتسامةさんやぷにりんさんを紹介できたらいいですね。
あきなさんもログアウトしたので、ボクもいったんログアウトすることにした。とがみんと一緒に【ディスポサル城下町】に戻ってから視聴者さんにお別れの挨拶をし、ログアウトを選択した。視界が切り替わり、『VRステーション2』の中で目を覚ました。
「よいしょっと」
掛け声を出しながら『VRステーション2』から外に出て、ふと窓の外を見ると……。
「あれ、ずいぶんといい天気ですね」
ログイン前に見た紫色の景色はなんだったのか。そこには雲一つない快晴の青空が広がっていた。
また世界が終わるくらいの異常事態が起きていたのかと思っていたけれど、そんなことはなかったらしい。
「お姉様が遊んでいる間、大変だったんですからね?外宇宙からの侵略者が世界そのものを木っ端微塵に粉砕しようとしてきて大騒ぎでした。幸いにして、侵略者の娘さんが止めてくれたことで事なきを得たようですが……」
そんなことはないなんてこともなかったらしい。
「へー、侵略者の娘さんが。優しいんだね」
「なんでも『この世界には面白いゲームがたくさんあるから壊さないで』と泣き落としたらしいですよ」
泣き落としの瞬間の生中継があるらしいので、見せてもらうことになった。そんな世界の危機を中継できるなんてマスコミもなかなかやりますね。そう思いつつ映像を確認すると、見覚えのある姿がそこにあった。
うねうねとした大量の触手が特徴的な『異形』。どうやら娘さんらしい。ひと回り大きな触手の塊を日本語で説得している。
「おや……これは、あきなさん?」
先程まで一緒に遊んでいたお友達がトップニュースを飾っていることに驚きを隠せない。しかし同時に納得もあった。
【フォッダー】へのログインを自粛するようにお願いされていたのは、ある意味での要人がログインしているからということだったのだろう。かといって誰もログインしていないのはゲーム体験を損なうことになる。だから禁止ではなくあくまでもお願いだったのかもしれない。
「それにしても……ついさっきまで一緒に遊んでたばかりなのに、ずいぶんと進展が早いですね」
「まさに世界が終わる直前でしたからね。お姉様は気にしていなかったようですが」
まあ、なんにせよ、今日も世界は平和なようでなによりです。




