第477話 アクティブスローイング
戦いの幕が上がり、まず先手を取ったのはレジーナさんだ。剣を真上に掲げ、スキルを宣言した。
「【ギガントスタンプ】!」
スキルが発動すると、剣が一気に巨大化し、レジーナさんは間合いを一気に広げて振り下ろす。攻撃の対象はあきなさんだ。
「【正拳突き】!」
回避はできないと判断したあきなさんは、複数の触手を同時に突き上げ、相殺を狙う。本来ならレベルの低い彼女の攻撃では受け止めることすらかなわない一撃だが——。
「ッ——!」
レジーナさんの【ギガントスタンプ】はあっけなく触手によって受け止められ、むしろ真上に大きく跳ね上げられる。
下馬評を覆したその理由は極めて単純だ。レジーナさんの【ギガントスタンプ】が剣による単発攻撃であったのに対し、あきなさんの【正拳突き】はすべての触手に適用されていた。
たった1つのスキルに対して数の暴力で対抗したのだから、質で負けていようが関係ない。勝利するのはむしろ当然と言える。
レジーナさんは【アームズスイッチ】を即座に発動して剣と盾を収納すると、巨大な斧を取り出して——。
「【猪突侵】!」
大地を蹴り上げ、凄まじい速度で疾駆する。
「わわっ、助けてー!?」
レジーナさんは触手の間を走り抜け、あきなさんの身体めがけて斧を振り下ろす。
「【フリーコマンド:シールドコマンド】!」
ボクが【ストレージ】から【将軍の旗槍】を取り出して一振りすると、斧の一撃は大幅に減衰する。その隙に無数の触手がレジーナさんを捉えんと襲いかかり、
「【テレポート】!」
レジーナさんはスキルの転移で大きく後方へ下がる。
「接近戦は危険なようね——なら!」
レジーナさんは大きく斧を振りかぶると、勢いよく投擲する。しかしスキルですらない投擲攻撃など【モンク】の敵ではない。あきなさんは触手を1つだけ伸ばして斧を弾き飛ばそうとするが——。
「【ペネトレイト】!」
「えっ!?【正拳突き】!」
レジーナさんが宣言すると同時に、斧にスキルの力が宿る。慌ててあきなさんもスキルを発動させるが、先ほどとは結果が違う。絶大な威力を持つ一振りの斧に対して、たった1本の触手で立ち向かえるはずがない。
あきなさんはHPを大きく削られ、伸ばした触手も弾かれる。
「手を離れた武器にスキルを適用できるんですか……。盲点でしたね……おっと、【ファストリカバー】!」
すかさず回復を送り込むと、あきなさんのHPはすぐさま全快するが、戦況は良くない。やはり彼女は戦い慣れていない。レジーナさんのほうが上手のようだ。
「がんばれあきなちゃん♥」
とがみんは耳をぴょこぴょこさせながら応援する。一見何もしていないようだが、このうさぎさんは存在しているだけで多大な支援を味方に振りまいている。斧の一撃で全損しなかったのも、彼女の貢献あってのことだ。
「俺はサポート系のスキルが無ェからな……」
「せめて助言をしてあげたらどうですか?」
戦況を見守るだけの帝王龍さんにそう声をかけると、彼はほんの一瞬だけ逡巡し、声を張り上げた。
「おいあきなァ!戦いの基本はスキルだ!さっき習得したばかりのスキルを忘れちゃいねェだろうなァ!?」
「あっ!【秘孔】!」
あきなさんは慌てて支援を自身にかけると、触手を鋭く伸ばしてレジーナさんを狙う。
レジーナさんは【アームズスイッチ】で斧を回収し、【アタックコマンド】を自身に適用しつつ【オフセット】を振るう。
【オフセット】は攻撃の相殺に特化したスキルだ。これに瞬間的な攻撃力を大幅に増加させる【アタックコマンド】を重ねれば、数の暴力にも対抗できるはずだ。しかし——。
「ぐぅっ!」
あきなさんの攻撃はレジーナさんの想定をはるかに上回る。2本の触手を絡ませた複合攻撃で斧を軽く吹き飛ばし、すかさず3本目の触手がボディを狙う。
さすがにボクも予想外だった。【オフセット】は、よほどの威力差がない限り相殺判定で勝てるはずだが、【秘孔】によってそれほどの差が生じていたのだろう。
「今のレジーナは闇属性に特化しているからなァ。すなわち光属性が弱点となっている。相手の弱点を自動的に突くことができる【秘孔】は極めて効果的だ」
レジーナさんは大きく後方に吹き飛ばされていく。普通のバトルならこれを機に仕切り直しになるところだが、今回は特殊なアバター構造を持つ『異形』の性質が優位に働いたらしい。あきなさんが後方に回り込ませていた触手がレジーナさんに追撃を加え、完璧な挟み撃ちで瞬く間に彼女のHPを全損させた。
「さすがですね、あきなさん!」
「やったね!ありがとう、みんなー!」
いつもなら全損したキャラクターは粒子になって消えていくところだが、レジーナさんはシナリオの都合上か、HPが0のまま倒れ伏す。
ボクたちは倒れたレジーナさんにゆっくりと近づいていき、声をかけた。
「あのー、大丈夫ですか?生きてます?」
「癒やしが必要ならわたしのカラダをもふもふしていいよ♥」
とがみんが近づきながら冗談めかして話しかけると、レジーナさんは倒れ伏したままとがみんをむんずとつかんで抱きしめた。
「きゃっ♥」
「……癒やされる……幸せ……」
……もともとは幼い少女でしたからね。なんにせよ、落ち着いてもらえたようで何よりです。
テクニックその141『マルチウェポンスキル』
複数の武器を装備している時に発動したスキルの恩恵は全ての武器に同時に適用されます。剣を2つ持っていたらどちらを振るっても効果を発揮するということですね。【モンク】の場合は素手が武器に相当するので、素手が多ければ多いほどにお得というわけです。
テクニックその142『アクティブスローイング』
ボクは知らなかったのですが、かなり基本的なテクニックらしいです。武器はたとえ装備者が手離した後でもスキルの効果を受けられます。システム的には変わらず装備している扱いだから、というわけですね。余談ですが、装備のステータス補正やスキルなどは手放していると無効です。仕様に一貫性が無いですね。これだから【フォッダー】は……。




