第42話 バードビューマジックアイ
そして、時は流れて1週間後。今日は【ダブル杯】の開催日だ。
ボクたちは大会専用の【闘技場】マップの観客席で試合の開始時間を待っていた。
「それにしても相当な数のプレイヤーがいますね。いつもこんなものなのでしょうか?」
「今回は特別に多いな。そもそも定期大会は事前に参加登録さえしておけば会場にいなくても試合開始直前に自動的にプレイヤーを召喚してくれる機能がある。だから基本的に会場はいつも空いている。」
隣で聞いていたゆうたさんがボクの疑問に答えてくれた。なるほど、参加者の数と会場に存在するプレイヤーの数は必ずしも比例するわけではない、と。
今回は優勝賞品に注目が集まっているから参加者自体が多いのは間違いないだろう。では会場にプレイヤーが多いのか。
その答えは簡単だ。そもそもボクたちもそれが目的で現地入りしているのだから。
「新しい対人環境の偵察……ですね。」
「そうだな。【加護】あるいは【黄金の才】という起爆剤によってこれまでの戦いの前提であった環境バランスは完全に崩壊した。あるいは参加者ではない観戦者も少なくないのではないか?」
大会に参加しているプレイヤー同士の対戦はログデータとしてアーカイブに保存され、開催期間中はいつでも確認することができる。
このデータは主に今後の対戦相手の研究や戦術の参考に使われるが、大会が終了してしばらくすると非公開になってしまう。
必ずしもリアルタイムで視聴する必要はないが、制限があるということだ。
しかし実際に会場に赴いて観戦すれば、その非公開になるデータの閲覧権を継続的に得ることができる。会場にいるプレイヤーはその閲覧権を求めているのだろう。
試合場に目を落とすと、4人のプレイヤーが激しい戦いを繰り広げていた。
【エアジャンプ】で跳躍しながら衝撃波を撃ち放つ【アサシン】に【ナイト】が【猪突侵】で迫り、地上へ叩き落とす。
次の瞬間、【ナイト】の頭上に不意打ち気味に【メテオ】が落とされた。
地面に叩き落とされようとしている【ナイト】に対して、すでに地上に落ちていた【アサシン】が【ペネトレイト】で追い打ちをかける。
【ナイト】に対して相方の【ビショップ】が【ヒーリング】を差し込んだが、すでに勝利の天秤は傾いてしまっていた。そのまま【ナイト】はあっけなく倒され、攻撃手段のない【ビショップ】は降参を宣言した。
「やはり【空神の加護】を前提とした戦術が重視されているようですね。そして今の【メテオ】。あれも補正が入っているんですかね?詠唱したプレイヤー自体は地上にいたようですが。」
「威力による判断は難しいが、【空神の加護】が適用される攻撃は命中時に青い発光があるようだ。今の【メテオ】にもそのようなエフェクトがあった。」
「となると、空から落下する類の魔法は無条件で【空神の加護】が乗るってことですね。今の【メイジ】は牽制用にカスタマイズを施していたようですが。」
【メテオ】は本来ならば詠唱時間20秒、意外と隙が大きいスキルだ。あの完璧なタイミングでスキルを発動させるのはかなり難しい。
おそらくは【帝神の加護】によって威力を犠牲に詠唱時間を短縮しているのだろう。【空神の加護】の効果で無条件に威力が上乗せされるから、そのぶんの過剰火力をほかに回すという考えかもしれない。
よく研究されていますね。ボクも【メテオ】使いなのにまったく気づいていませんでしたよ。
「【メテオ】以外にも落下系のスキルはいくつかあるが、実質的にはそれらすべてに強化パッチが与えられたようなものだな。今の1試合だけでも見る価値があった。」
「あちらの戦いも面白いですね。【誤爆無効】を付けた【アーチャー】が【アローレイン】で矢を降らせて相手を牽制しています。味方はダメージを受けませんから一方的に上を取れるわけですね。」
【アローレイン】は威力自体が低く、以前は死にスキルに近い扱われ方をしていたが、今はそのすべてに【空神の加護】が乗る。広範囲に圧力をかけられる強力な火力を発揮しているようだ。
それに対して対戦相手は【キネシス】によって矢の軌道をそらし、何の問題もなく対応する。【ギフトパス】によって相方も同様のスキルを得ているらしく、【アローレイン】は実質的な不発となる。
そんな【サイキック】の相方は【シャーマン】だ。精霊を次々と呼び出し、遠くから光線による射撃を行っている。
戦いは遠距離戦に移り、激しい弾幕の打ち合いが繰り広げられるが、突如として【アーチャー】のプレイヤーがバタリと倒れ伏した。
その瞬間、【サイキック】の人が弾丸の如き速度で駆け抜けて【アーチャー】の相方を張り手で弾き飛ばした。体勢を崩したところにとどめの【ナチュラルリリース】による精霊爆破が決まり、勝敗は決した。
「【クレヤボヤンス】ですね。俯瞰視点から任意の座標を見ることができるスキル。そこから視界型発動の魔眼魔法を当てれば、それには【空神の加護】が乗る。」
以前にも明日香さんから借りて使ったことがあるスキルだ。あの時から気づいていたのだが、おそらく彼女は【クレヤボヤンス】と視界型スキルの【ネガティブゲイズ】をコンボしていた。それを現環境にそのまま流用した戦術だろう。
「というより、たった今戦っていたのって明日香さんとめりぃさんですよね?」
どうやらあの2人もこの大会に参戦しているらしい。もしかしたら戦うこともあるかもしれないね。
そんな感じで対戦を眺めながら観客席で戦術について語り合っていると、背後から声がした。
「あの!そこのあなた、卍荒罹崇卍で間違いありませんわよね!?」
振り向くと、そこには金髪ドリルのお嬢様がいた。腰に手を当ててふんぞり返ってこちらを見下ろしている。
「あ、はい。そうですけど、視聴者さんですか?」
「そんなクソ動画見るわけありませんわ!わたくし、さんざん迷惑をかけられたんですのよ!?」
え、迷惑!?何かやらかしてしまいましたっけ?新情報の煽りを食らってしまった人とか?そんな感じですか?
「どうやらお心当たりがない、という顔をしていらっしゃいますわね。」
「は……はい。ボクは何をしてしまったのでしょう?」
「では、こう言えばおわかりになりまして?わたくしは【『アイテール』】の【権能】を持つ者ですわ。」
あっ……。
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>自分専用ユニークスキルの特権が全プレイヤーに解禁されてしまった悲しきプレイヤー
>かわいそう
>この人だけは憎めないな。あとクロノスの人も
>↑今わかってるユニーク持ち全員じゃねーか
>ユニークスキル持ちとかいう言うほど悪い事してない系悪役ポジ
>マジかよお嬢様のファンになります卍さんのチャンネル登録外します
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……うん。ごめんね?
テクニックその32 『バードビューマジックアイ』
視界に捉えることで発動するスキル、通称魔眼系スキル。
これらのスキルは基本的に目で捉えたものすべてに無条件で適用され、
誤爆の危険を生む使い勝手の悪いスキルです。
また、逆にちょっと遮蔽物に隠れただけでも簡単に効果が解除されてしまいます。
しかし【クレヤボヤンス】を使えば遮蔽物も関係なしで誤爆ともほぼ無縁。
相手をピンポイントで狙えます。
えっ、相手を俯瞰して見ているその状態でどうやって戦えばいいんだって?
……頑張って!
なお、類似スキルの【ストリーミング】は魔眼系には適用されません。
あくまでカメラだからね仕方ないね。




