第40話 カスタマイズ
「昨日の今日で新しい【加護】が見つかったってマジですか!?」
翌日。いつものようにゲーム配信を始めようとしたところ、お便りが1通届いた。なんでも加護を見つけたので教えてくれるのだとか。
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>これは忠誠心溢れる卍さんファン
>秘匿したっていいくらいなのにな
>で、どこだよ
>今まで見つからなかったものがそう簡単に見つかるわけねーだろwwww
>しかも普通ならユニークスキル無しでは到達できない難易度なんでしょ?嘘だろ
>早く教えろ
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しかも見つかった場所は、まさに灯台下暗しと言っても過言ではない場所だった。昨日の時点で見つかっていてもおかしくないレベルだ。
「えぇっと……【祠】の場所は【世界の果て】の底らしいです」
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>草
>空神さんのご近所さんかな?
>そりゃあすぐ見つかるわ
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「なんでも普通に飛び降りて【パインサラダ】で即死ダメージを受け止めればいいのだとか。きっと〈ロードウィング〉を失敗して見つけたんでしょうね」
この話を聞いた人たちは急いで【世界の果て】に向かっている頃だろう。あるいは昨日の時点でそこにいた人たちが飛び降り自殺している頃かもしれない。
ボクもすぐさま飛び込みたい衝動に駆られたが、あいにくわざわざ徒歩で街に戻ってきたばかりだ。
ところが、なんと今回はその情報を提供してくれた人が【コールグループ】で呼び出してくれるらしい。
ネタの提供に加えて移動手段まで確保してくれるなんて、きっといい人ですね。間違いありません。
さっそくその人にチャットで準備OKですよー、とメッセージを送ると、視界が即座にガラリと切り替わり、湿った土と鉱物のにおいが鼻を打った。
そしてボクがやってきたのは【世界の果て】の谷底。
地上から見た時は底が見えないほどの深さであったため全容を捉えることはかなわなかった。だが実際に足を踏み入れてみると、ずいぶんと想像とは違った印象を受ける。
まず薄暗い地の底、というイメージに反し、周囲の岩壁がかすかな緑色の光を放ち続けており、わりと明るい。その幻想的な世界は世界の果てに次ぐ第二の観光スポットにふさわしいだろう。ここも【世界の果て】なのだけど。
その光を頼りに、あたりを見渡すと、周囲にはいくつもの横穴が広がっているのが確認できた。もしかしてダンジョンを兼ねたエリアなのでしょうか。課金者専用のダンジョンマップなんて豪勢にもほどがありますね。
「おい卍、【祠】ならそこにあるぜェ」
「あ、ありがとうございます……ってあなたですか!」
ボクを呼び出してくれた善意の情報提供者さん。それは【『クロノス』】の人でした。
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>なんでやねん
>親切系ライバルやめろ
>草生える
>昨日の戦いは何だったんだ
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「おまえのおかげで偶然発見できたからなァ。その礼だ」
「なるほど、失敗して落ちたんですね」
「落ちてない」
「認めましょうよ」
「落ちてない。それよりさっさと【加護】を貰っとけ。俺はもう帰るからな」
立ち去ろうとする彼に無言の【フレンド】申請を送ると、なんと承認された。【フレンドリスト】には終焉暗黒混沌帝王龍というプレイヤーの名前が登録されたことを確認できる。
「なるほど、よろしくお願いしますね。帝王龍さん」
「終焉暗黒混沌帝王龍だ。次に略したらブチ殺すからな」
そう言い残し、例によって謎の瞬間移動で消えた帝王龍さん。やはりいい人ですね、帝王龍さん。今度痛チャット連投してかまってあげましょう。
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>帝王龍さんかっこいいっす!
>帝王龍さんありがとう。俺も加護取得します
>帝王龍さんイケメンすぎない?さすが金持ってるやつは違うわ
>帝王龍さんをそこらの成金と一緒にするな
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コメント欄でも略して呼ばれることが決定してしまった帝王龍さんに、ある意味で共感しつつ【祠】にゆっくりと近づいてみる。
すると、【祠】の中には1人のおじいさんが入っていた。
「なんと……!神に愛されし代行者がまた1人足を踏み入れたか。これも時代の移り変わりという奴かのう」
一見すると【空神の加護】をくれたおじいさんとまったく同じ外見をしているのだけど、そこにツッコミを入れるのは野暮だろう。
「ここはどういう【権能】の所持者が訪れることを想定しているエリアなんですか?」
「……【帝神】は神を司る神。すべての者に等しく【加護】が与えられるのじゃ」
ふむ、担当する【権能】がないんですか。
ユーキさんはかつて魔王はまっとうな方法で倒される予定はなかったと語っていました。つまりこの【祠】は【黄金の才】によって魔王を倒した【パインサラダ】の所持者を対象とした【祠】ということですね。
「なるほどなるほど。それでは【加護】を頂けますか?」
「よかろう。波ぁっ!」
おじいさんに【加護】を要求すると、おじいさんはその手をボクにかざし、勢いよく何らかのオーラのようなものを送り込んでくる。
そのオーラを受け取ったことで、新たなスキルの取得を告げる通知が現れた。
さっそくスキル一覧を開いて新たなスキルの性能を確認する。
【帝神の加護】
[アクティブ]詠唱時間:5s 再詠唱時間:24h
[スキル][1つ]を[選択]する。
[パッシブ][パーミッション][ブレッシング]
効果:[選択]した[スキル]の[効果]を[カスタマイズ]する。
「はい?なんですかこれ」
「【権能】の代行者に与えられし最高の【加護】にして絶対なる【権能】じゃ」
「効果の解説をお願いできますか?」
「そなたの活躍を心より願っておるぞ」
「おーい」
「で、使ってみたのですが、まさにスキル説明文のとおりですね。効果のカスタマイズができます」
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>効果の解説をお願いできますか?
>説明を投げるな
>おい
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「そうとしか言いようがないですもん。消費コストを下げて威力を下げる。消費コストを上げて詠唱時間を削る、などなど。リソースの範囲内で調整ができるようです。基本的には【権能】を各人向けにカスタマイズするスキルなんでしょうね」
この【加護】の効果はすごい。あくまでマイナーチェンジの範疇ではあるが、ある意味ではシステムによって個人に最適化された【黄金の才】を作ることができるシステムと言っても過言ではない。
これ1つでコンテンツ1つ分として成立しかねないほどのポテンシャルがあるのだけど、運営はこれも課金者専用システムにする予定だったのだろうか。最低ですね。
「よしカスタマイズできました!見てください、これ。絶対強いですよ!」
Old
【フルバーニング】
[アクティブ][自身][エリア][炎属性][攻撃][魔法]
消費HP:12.5% 詠唱時間:5s 再詠唱時間:30s
効果:[自身]を[起点]として[エリア]を[形成]し、[範囲]の[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。
New
【フルバーニング】
[アクティブ][自身][エリア][炎属性][攻撃][魔法]
消費HP:85% 詠唱時間:0s 再詠唱時間:30s
効果:[自身]を[起点]として[エリア]を[形成]し、[範囲]の[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。
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>草
>HP燃やし尽くしてて草ァ!
>自殺魔法かな?
>やべぇよやべぇよ……
>パーティメンバー巻き添えで全員死にそう
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【フルバーニング】
[アクティブ][自身][エリア][炎属性][攻撃][魔法]
消費HP:12.5% 詠唱時間:5s 再詠唱時間:30s
効果:[自身]を[起点]として[エリア]を[形成]し、[範囲]の[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。
卍荒罹崇卍の一口メモ
命を燃やす中級魔法。範囲魔法なのに同じ中級魔法の【ブレイズスロアー】を遥かに上回る火力を持ちます。ここまで聞くと超優秀魔法であるかのように錯覚しますが、よく見るとこの魔法は自身を中心に発動するので絶対に自分を巻き込みます。炎属性耐性か【誤爆無効】で対策しましょう。それを切り抜けても今度は『後衛で使っても仲間しか巻き込まない』という事実が待ち受けています。




