第4話 巨大な疾風の如き英雄
【メテオ】によって破壊されたゴーレムは、その身体を粒子状に変化させてボクたちのもとに集まり、【ストレージ】へドロップアイテムとして回収されていく。
「いやー、やっぱり【メイジ】がいると楽だよねー。あたし1人だと、殴り合いにかなりの時間を費やすことになってたよー」
めりぃさんが星型の感情表現を散らしながら喜びを爆発させる。
やはり普段はここまで早く決着がつくことはなかったようだ。戦闘行動を精霊に一任する彼女の戦闘スタイルは、負けないがゆえに勝つ、というものなのだろう。
「ボクも前衛がいると安心できますね!1人の時とは安定感が違いますし」
【メテオ】は詠唱時間が20秒……【高速詠唱】込みでも15秒程度の詠唱を必要とする。普段は動画映えのためにも『近接対応』な戦い方を重視しているボクだけど、ゲームでは【パーティ】内で役割を決めて戦うことも多い。ソロ活動では使いづらいスキルだが、他者との連携を考慮するなら覚えておくと損はない優秀なスキルだ。
「今日は【ディバインゴーレムの石】を集めに来たのー。長期戦を見込んでいたけどすぐに終わりそう!」
「何かのクエストですか?ボクの分のドロップアイテムもお渡ししますよ」
「ただの生産用の素材集めだよー。でも卍さんにとってはオイシイ話かも?」
どうやら何か特殊な事情があるらしい。めりぃさんはにやにやと笑いながら「どうしよっかなー?」「教えてあげよっかなー?」「でもなー?」とじらしてくる。すごく気になる。
「えー、教えてくださいよー?」
「しょうがないなー。じゃあ、もう少しゴレ石集めたら一緒に行こっ!」
「わーい!頑張っちゃいますよ!」
めりぃさんのためにも、面白いネタのためにも、全力でゴーレム狩りだ!
——【メテオ】!
天から降り注ぐ星の威光がゴーレムを破壊した回数は、すでに2桁に達している。
「そういえば【メイジ】もペットを召喚できるって噂を聞いたんだけど、本当なの?」
安定した戦術で討伐が進むので、めりぃさんや視聴者さんとの雑談も弾む。
「ありますよ!不死鳥とか出せるんですよね。召喚時間はたったの10秒ですけど」
「おお!そんな強そうな召喚モンスターが……って、10秒?」
「システム上では精霊の召喚と同じカテゴリなんですけど、使い勝手は単発の能動スキルと同じようなイメージですね」
「うーん、それはあたしの趣向とは違うかなー?でも、ちょっと見てみたいかも!」
そんな世間話をしながら、ボクたちは薄暗い荒野を2人で探索する。めりぃさんが必要としているゴーレムの素材はあと1体分といったところ。
【ディバインゴーレム】は非常に巨大で、常にきらきらと光り輝いているため、見つけやすいモンスターだ。にもかかわらず最後の1体がなかなか見つからない。そこで雑談に花が咲いたのだけれど……。
——見つけた。
めりぃさんがそう口にした瞬間、ボクも視界に捉えた。1体の巨大なゴーレム——そしてその周囲には6体もの白い狼、【セイクリッドファング】が集まっている。その中でもひときわ大きな狼がこちらに目を向けた。
「ずいぶん集まってますね。勝てますか?」
「わからないけど……もう気づかれてる」
巨大な狼が吠えると、他の狼たちやゴーレムもボクたちの存在に気づき、一斉に駆け出した。
「1匹置いてくねー」
めりぃさんは青い精霊を1匹だけボクのもとに残し、残りの精霊を引き連れて前線へ向かう。もちろんラーメンをすすりながら——ズズッ、と軽快な音が戦場に不釣り合いに響く。
彼女の行動に合わせてボクも詠唱を始めた。この距離なら接敵までに一発ぶち込めるはず!
「〈終末の劫火に身を焼かれ、永遠の安寧に抱かれよ〉……【ブレイズスロアー】!」
炎弾が飛翔し、1体の狼に命中。だが大きな狼が遠吠えを上げると、周囲の狼たちの身体に青白い光が宿り、ダメージを負った狼はじわじわと回復していく。
「やっぱりあの大きな狼がリーダーのようですね!」
「回復される前に仕留めるよー!」
めりぃさんの精霊たちが集中砲火を浴びせ、ダメージを負った狼は倒れる。しかし残る5体の狼がめりぃさんに飛びかかった。
噛みつかれても姿勢を崩さずラーメンをすすり続ける彼女だが、HPはみるみる減っていく。
「【ファストリカバー】!」
ボクは杖先から赤いオーラを送り込み、瞬く間に彼女を回復させた。狼たちは回復を厄介に感じたのか、めりぃさんを無視してボクのもとへ駆け出してくる。
「【タウント】!」
めりぃさんが敵対心を誘導するが、英雄狼の咆哮で統制が戻り、再びボクを狙う。さらに後方から現れたゴーレムの豪腕と黒い鎖のエフェクトが彼女を捉えた。
「ごめん、【アンカー】受けちゃった!ちょっと待っててー!」
後衛職であるボクが接近戦を強いられる——本来なら絶望的だが。
「大丈夫ですよ。『てくにかる』な戦い方は、ボクの得意とするところですからね?」
狼は瞬く間に距離を詰め、ボクを取り囲むように散開する。
「〈次元の狭間より世界を駆けろ〉——【テレポート】!」
背後へ回り込み、杖を背中にこつんと当てて——
「〈魂を燃やせ〉【ソウルフレア】!」
対価としてボクのHPを4分の1消費し、狼をきらめく炎で瞬時に焼き尽くした。混乱する残りの狼たちに【フラムブレッド】を撃ち込むが致命打には至らない。
ひとまず次の発動までの20秒前後、どうにかして時間を稼がねば……。そう考えた矢先、英雄狼の目が緑色に輝いた。
「風……っ!?」
地面から強烈な上昇気流が吹き荒れ、ボクは上空へ高く跳ね上げられた。落下を始めるボクの真下で英雄狼が口を大きく開けて待ち構える。
「【エアジャンプ】!」
空中を足場にして横へ跳び、落下地点を大きくずらす。
「〈終末の劫火に身を焼かれ、永遠の安寧に抱かれよ〉——【ブレイズスロアー】!〈火花を散らせ〉【フラムブレッド】!」
炎を重ね、1体の狼を燃やし尽くす。そのままボクは狼たちから少し離れた場所に墜落する……はずだったが、柔らかいクッションが衝撃を和らげ、落下ダメージを最小限に抑えてくれた。
足元を見やると、青い光を放つ球体状の不思議な生き物——精霊がふわりと浮かんでいた。
「精霊さんって実体があったんですね。それになんだか大きくなってないですか?」
【エアジャンプ】
[アクティブ][補助]
消費MP:2 詠唱時間:0s 発動回数:1
効果:[滞空]時に[ジャンプ]を[強制][発動]させる。
[接地時]に[発動回数]を[回復]する。
卍荒罹崇卍の一口メモ
再詠唱時間が存在せず、独自の再発動条件を持った全職共通の汎用スキルですね。地面に着地することで発動回数が回復するという事は空中ジャンプは一回までしかできないという事です。
使い方としては多岐に渡りますが、ボクは主に相手との距離をとるために使用していますね。
しかし、今回のような緊急時にも活用できますのでとって損はありません。全職共通スキルはだいたいみんなそんな感じなのが悩みどころなのですが……。
【ソウルフレア】
[アクティブ][接触][炎属性][攻撃][魔法]
消費HP:25% 詠唱時間:1.25s 再詠唱時間:30s
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。
卍荒罹崇卍の一口メモ
【メイジ】業界においては常識破りの発動方式『接触』。当たり前の話ですが、これを使うならば接近戦に臨む必要があります。前衛職業との複合で使用するのがベター……と思いきや実は純魔法職業での採用も少なくない様子。理由は簡単。やむを得ず接近戦に持ち込まれた時の切り札としての運用です。能動的に使うつもりが無いなら強いってことですね。