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卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!  作者: hikoyuki
2章 despair 小数点のその果てを!

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第38話 運命変転

「な、何を言って……!」


「優勝賞金1000億円のゲーム、【フォッダー】。その莫大な金額が一体どこから出てきたのか。考えたことはなかったかァ?金持ちの道楽?非営利事業?まあ、雑魚が考えるのはそんなところだろうな。まあそれでも()()()()()()()()()()()()()いい線はいってるぞ?」


 金持ちの道楽で非営利事業。これが半分当たっている。このことから導き出される答えは……。


「金持ちの道楽を利用した営利事業、ですか♥」


「そう!俺みたいな生まれながらに選ばれた存在が、金に釣られてやってきた有象無象(フォッダー)をぶち殺して楽しくなるためのゲームってわけだァ!どうだ?餌に引っかかっちまった気分は?」


「な、何言ってるんですか!そんなゲーム、誰もプレイしませんよ!」


「そうかもな?たしかにプレイヤーは減るだろうな。しかし、0にはならない。優勝賞金という餌がある限り」


 ユーキさんの言っていた意味がようやくわかった。


 ()()()()()()()()()()()()()。それは単なる異常なバグのことではなくて——バグの領域を超越した()()()()()()のことだ。


「さあ、話は終わった。どうする?戦うか?万に一つの勝ち目があるかもしれないな?」


 勝てない。勝てるわけがない。このゲームはこの人が勝利するためだけに生まれたゲーム。勝てる道理がない。


 このゲームはやっぱり最悪のクソゲーだ。ちょっと面白いと思っていたボクがバカだった。


 さっさとログアウトして、ゲームを引退して——。



「おねえさま」



 その時、ボクを呼ぶ声がした。思わず声のする方へ振り向く。



「コメント欄をご覧ください♥」



「あっ……」


 そう言えば驚きのあまりにコメントを全く見ていなかった。配信者として失格だ。


 けれど視聴者もこんなクソみたいなゲームには辟易しているだろう。みんなもこんなクソゲーのプレイ動画なんて見たくないだろうし、とっとと配信終了して——。


----

>殺せ


>卍さんならあんな調子こいてるだけの雑魚は一撃なんだよなぁ


>こんなドヤ顔してる奴が配信中にPKされたらもう恥ずかしくて出歩けないだろうなぁ


>死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね


>クソ課金厨ざまああwwwwwww(先行入力)


>↑無理なんだよなあ……


>無理ってのは嘘つきの言葉なんだぞ。知らないのか??


>無理だぞ!!やめとけ!!ログアウトしろ!!いいか!!絶対だからな!!


>↑フリやめろ


>卍さんがんばえー


>普通は無理な条件下だからこそ、達成時の報酬もでかい。これ常識だよ?


>まあ1000億円手に入れるなら課金厨くらいぶち殺さなきゃな


>卍さん挑戦しないんですか?失望しましたチャンネル登録解除します

----


「——さーて、とっととやり合いましょうか。余裕でぶちころがしてやりますよ、こんなゴミ。明日香さん、サポートお願いしますね?」


「さすがおねえさま、配信のプロですわ♥」


 ありがとう、明日香さん、視聴者のみなさん。おかげで気づけました。


 今この状況が、最高の取れ高チャンスだってことに!


 そんなリーチがかかっている状態で諦めるなんてありえませんよね?誰ですか、そんなこと言ってたの。


 もちろん、負けて当然なんて考えでは挑まない。負ける負けるなんて言っていたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 やるなら勝つ。ピンチの出目こそ勝利のチャンスだ。『ソードワールド』ではそれが常識!


 1を6に、ネガティブをポジティブに変えるんだ。



 だってそれがゲーマーだから!



「——《運命変転》」



 そんな運命、ひっくり返してあげますよ!


「長々と決意表明をしてくれたところに悪いけどよォ……これで終わりだ」


 二度目の時間停止が飛んでくるようですね。ですが、種が割れている奇術を恐れることはありません。


 相手の【黄金の才(ユニークスキル)】発動に合わせて取っておきのアイテムを【ストレージ】から取り出し、前方に設置する。


「【『クロノス』】……な!?」


 スキル発動の宣言と同時に世界が停止する。しかし、今度は先ほどのようにミサイルが飛んでくることはない。


 ボクの目の前に鎮座する()が物理的な障壁となっているからだ。


「チッ」


 男は家を避けるように回り込み、ミサイルを放つ。しかし、そのわずかな手間が命取りだ。その攻撃がボクに当たるその直前で——世界が動き出した。


「【エアジャンプ】!」


 その刹那、大きく横にステップすることでミサイルを回避する。いつものボクなら、今の攻撃は避けられなかっただろう。


 だけど、今のボクのボルテージは最高潮!すべてのアシストの出力が最大限に引き出された状態のボクならばあの程度を避けるのは容易いことだ。


 以前、ボクは【モーションアシスト】について考察したことがある。


 『速い』という言葉には出力の定義がない。だからこそ、『弾丸の如き速度』で走る方が速いという理論だ。


 では、〈装飾表現〉のない『速い』の出力はどのようにして算出されているのか?


 答えは簡単だ。それは人の感情であり、曖昧な意志の反映。


 淡々と思考する『速い』よりも、燃え上がる情熱の込められた『速い!!!!』の方が速いんだ!


 今のボクはすべての出力が最大限を突破している。だからボクは()()()()()()()


 全力で勝利を確信しているボクに対して、勝利への道筋をシステムがアシストしてくれる!


「【猪突侵】!」


()()()()()()で男に接近し、ボクはすべてを圧殺する破壊力で杖を振るう。


「ぐがっ!?」


 【メイジ】の常識を覆し、物質干渉力を貫き、物理で相手を地面に叩きつける。


「【ソウルフレア】!」


 そして杖から生じた白い炎が男を焼きつくす!


「てっ、【テレポート】!」


 そのまま追撃コンボをぶち込んでやろうと思ったのだけど、残念ながら【テレポート】で退避される。どうやらクラスは【メイジ】らしい。あと1つは【アーチャー】と言ったところか。


有象無象(フォッダー)のくせにちょっとはやるじゃねェか……だが、その程度で」


「【ブレイズスロアー】!」


 会話なんてさせる暇はない。ひたすら魔法をぶち込み続ける!


 さっきの攻撃も、【『クロノス』】を使えば簡単に抜けることができたはずだ。それなのにやらなかった。つまり、答えは簡単。【黄金の才(ユニークスキル)】にも再詠唱時間(リキャストタイム)が存在する!


 案外穴だらけですね、【黄金の才(ユニークスキル)】さん!


 男はボクの放った炎弾を横に避けるが、それすらも読んでいる。避けたその位置には明日香さんが【キネシス】で操作した剣が待ち伏せているッ!


「ふふっ♥地味ですが、削らせていただきますよ♥」


 遠隔操作された剣に無防備の状態で斬り裂かれた男は、HPをさらに大きく減少させるが……地味にしぶといですね。HPに補正でもつけてるんでしょうか?


「ハッ!だが、これで終わりだ。先の障害物は射線にはない。クロノ——」



「《SANチェック》です♥。無課金に圧倒される気持ちはいかがでしょう?」


 唐突に放たれる絶対的な恐怖に反射的にスキルの発動を中断してしまった男。その隙を明日香さんが見逃すはずはなかった。


 瞬時に男の前に接近した明日香さんは、その身体に鋭い張り手を打ち込む。


 それですべてが終わった。


 男はまさに弾丸の如き速度で後方に吹っ飛ばされ、地面に転がり落ちた衝撃ですべてのHPを失い、消失していく。


「あら、私がとどめを刺してしまいましたか♥おねえさまにやってもらいたかったのですが」


「いえいえ、最高のシーンが撮れましたよ!」


 課金勢なんて思ったよりチョロいですね。なんであんなにビビってたんでしょう?


 しかし、それは油断だった。


 HPをすべて失ったはずの男は、突如として体の再構築がなされ、むくりと起き上がる。


「やれやれ、俺の負けだ。やるねェ、アンタ」


「……【パインサラダ】ですか」


 死亡時にHP1で即座に復活することのできる料理。すっかり存在を忘れていました。追い打ちをかけなかったことが悔やまれる。


 とはいえ聞きたいことがある。結果的には生き残ってくれて感謝すべきところかもしれない。手痛いミスが頭を冷やしてくれた。


「まず1つ聞きたいのですが——手加減してましたよね?」


「なんのことだ?俺は全身全霊を込めて戦っていたぜ」


「時間停止なんてものがあるならば、初見の初撃で2人とも仕留めることもできたはずです。それ以降の戦いも、本当はもっとうまいやり方があったのでは?」


 すっとぼけたようなことを抜かす男にボクは苛立ちを覚える。たとえ奴が本気で戦っていたとしても、それに真っ当に対抗できる自信があった。


 けれど、奴は戦うことを拒み、あえて敗北することを選んだんだ。


「『そんなゲーム、誰もプレイしませんよ』さっきはそう言っていたな。たしかにそう()()()と思うぜ」


 唐突に前言を翻すようなことを言う彼の意図も、ボクには察しがついている。


「だが、今はどうだ?【黄金の才(ユニークスキル)】は努力と叡智で簡単に覆る程度のもの。弱点もあるし、無敵でもない。圧倒的な優遇を得ていることは確かだが——勝てないわけではない」


「そうですわね。あなたがたとえ本気でも、私たちの勝ちでしたもの♥」


「ゲームの格言にはこういった状況にふさわしい言葉があったな——『確率は0%と表示されるが、このゲームでは小数点以下を切り捨てているため、実際は小数点以下の確率で勝てる』……どうだ?本当に誰も挑戦しないと思うか?」


 ネットでまことしやかに囁かれる、有名なワードの改変だ。知らない人からすれば、諦めなければ可能性はある、そういった希望に満ちた文脈に見えるかもしれない。しかし、その話にはオチがある。


 元ネタで語られていた事象の成功率は、実際には0%だったという話だ。


 たとえこいつに勝てたとしても、大会ではさらに多くの【黄金の才(ユニークスキル)】保持者が現れる。たしかに戦いを1戦ごとに切り取って考えるならば勝てる確率は0ではないだろう。


 しかし、そのすべてをなぎ倒して一般ユーザーが栄光を手にするのは難しい。不可能と言ってもいい。最悪の出来レースだ。


 けれど、机上論の可能性としては絶対的に不可能というわけではない。こいつはそれを証明させる撒き餌としてこの戦いを利用したんだ。


 そのことをボクは視聴者に説明する権利を持っている。みんな騙されるな、これは罠だって。


 でもそんなことはできない。したくない。なぜならそれは課金者様に対する()()()()()()そのものだから。


 それにそんな説明をしなくてもわかっているだろう。可能性が低いってことくらい。挑めばバカを見るってことくらい。


 それでも、こんな傲慢な態度を取る糞ったれの成金の鼻を明かしてみたい。逆境だからこそ勝つことは至高の誇りとなる。夢を追いかけたい。さまざまな理由でみんなはこのゲームを続ける。


 ならば、ボクの答えは1つだけ——配信者として、みんなの模範を示す!


「——ならばボクが検証しましょうか。無限の試行を繰り返し、夢幻の夢を追い続け、()()()()()()()()()!」


テクニックその31 『感情反映』

強い思いの込められた魂の言葉が理外の力を及ぼすならば、感情がシステムに影響を与えるのは当然の帰結。

勝ちたい、勝てる、心の底からそう願う事ができるなら勝利への道筋は自動で刻まれます。

もちろん、勝てるに値する強さの証明が無いと、心の底から勝てるとはそう簡単に確信できないため、現実は甘くないのですが。


黄金の才(ユニークスキル)その1 『クロノス』

ゲーム全体を停止する究極の迷惑スキルです。

相手が止まっている以上、使用者の攻撃は絶対に命中しますし、なんなら複数の攻撃を同時に当ててコンボすることもできます。

あるいは単純に詠唱時間を短縮するのにも使えるでしょうね。

これらの停止は他のプレイヤーにも観測する事ができるため、本質的に瞬間移動は行えない筈なのですが……。まだ全ての力が明らかになったわけではないということですかね。

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― 新着の感想 ―
[一言] こうして【VR】KAKI-N は生まれたのだった
[一言] …うん、世知辛い。 (餌になる無課金が死滅したら、チートの殴り合いになって結局課金の旨み無いもんね。
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