第24話 無限投擲
「まずは小手調べといこうではないか。〈深淵に飲まれよ〉【ディープブラスト】」
魔王が詠唱すると、どす黒い闇の弾が杖先から放たれる。射線上にいるのはアリンドさんだ。それに対し、ボクたちは——静観する。
「〈深き水よ、魔の理をその身に刻め〉【マジックアップ】!〈深き水よ、世界の法をその身に刻め〉【エフェクトアップ】!〈自由な風よ、疾風の意志をその身に刻め〉【スピードアップ】!〈大いなる大地よ、堅牢なる加護をその身に刻め〉【ディフェンスアップ】!〈大いなる大地よ、破邪の叡智をその身に刻め〉【レジストアップ】!」
おっさんが次々と付与魔法を唱え、【パーティ】メンバーに付与していく。本来なら対象1人を強化する付与魔法だが、【範囲付与】の受動スキルを取得した熟練の『付与師』型である彼は、その効果を付近のキャラクターすべてに及ぼせる。
「【ヒーリングエリア】〈癒やしの領域にて、長きにわたる祝福を〉【キュアバレット】〈命の歪みを正常なる姿に遡行せよ!〉」
「精霊さんたち、おいでおいでー!」
「【シャープウェポン】【ハードアーマー】」
「【エンハンス】【指定:STR/AGI】【S.T.シンクロ】【指定:卍荒罹崇卍/炎属性ELM】〈生命よ、等しく魔眼王の糧となれ〉【ネガティブゲイズ】【指定:物質干渉力】」
アリンドさんは任せ、ボクたちは各自、準備に入る。ちらっと横目で戦っている2人を確認するが、やはり序盤は放っておいても問題はなさそうだ。高ステータスを活かした回避と絶対的な防御障壁で、千日手に持ち込んでいる。
その間にほとんどの準備を整え、ボクたちはいよいよ本当の戦闘を始めることになる。
「装備は変更しておいた。思いっきりやれ」
「わかりました。では、今回はこちらの魔法で行くことにしましょうか。〈灼熱の業火を身に纏い、天空より顕現せん〉——」
ボクの詠唱開始と同時に、めりぃさんは馬にまたがり、明日香さんは弾丸の如き速度で魔王へ駆け出す。
これはボクが使う魔法の中でも最大級の火力を誇る、炎属性の魔法だ。長時間の詠唱が必要なため、今回の戦いでは使えないだろう。だからこそ、開幕の合図として盛大にぶっ放す!
「【マジックコマンド】!やっちゃえ!」
「——【メテオ】ッ!」
発動の宣言と同時に、頭上から巨大な隕石が落下し、ゆうたさんに直撃する。同時に、鎧から一条の閃光が走り、魔王を障壁ごと貫いた。
「グォッッ……!?」
魔王の顔が苦痛に歪む。明らかに前回よりも効いている。頭上に表示されたHPゲージを確認すると、5%は削れているように見える。
「やってくれたな……まさか我の障壁を……」
「悠長に話している場合がありまして?♥」
後方に回った明日香さんが勢いよく張り手を叩き込み、魔王を突き飛ばす。思わずたたらを踏んだ魔王を、アリンドさんが剣で切り裂いた。
状況を悟り、攻撃を無視して詠唱を始める魔王。そこに、凄まじい速度で武器が飛来する。ゆうたさんによる槍の投擲だ。
「〈永久に〉……ぐっ!」
槍が命中した直後、魔王の詠唱が中断される。恐らくはあの槍に付与された特殊効果。最適なタイミングでの妨害の差し込み、上位ランカーが持つ判断力の賜物だ。とはいえ、投擲された槍は魔王のそばに残る。そう何度も打てる手ではない。
——本来ならば。
「【アームズスイッチ】……」
ゆうたさんがそうポツリとスキルをつぶやくと、魔王のそばに落ちた槍が瞬時に【ストレージ】に回収される。現象を見れば理屈は明らか。そう、彼は装備を変更しただけだ。その手から離れた武器も装備しているという判定は消滅しない。その仕様を活用した無限投擲のテクニック……!
「邪魔をするなぁ!〈呪縛の雨に狂え〉【サミダレ】!」
魔王の杖から闇属性の針が連続的に発射される。その数は24発。そのターゲットはゆうたさんだ。詠唱を妨害されたのが、よほど気に障ったらしい。それを、めりぃさんの精霊が【アトラクト】で受けきる。
【人馬一体】によってHPが共有された精霊のダメージは、めりぃさんが背負う。そのため、あらゆる行動を放棄してラーメンをずるずるすすることでHPを回復し続けるのが、めりぃさんの基本型だ。しかし……。
「あうっ!やばいかもっ、このスキルー!」
めりぃさんがラーメンをずるずるとすすりながら、異常に気づき叫ぶ。
どうしたんだろう?HPゲージを見ると、HPも満タンに見えるけど……。
「チョベリバだ。あれは盾役に対する最悪の天敵スキルだね」
「どういうことですか、おっさん?」
「最大HPを削られたんだ。だからダメージを回復することができない」
ゲージの表示上ではHPが減っていないように見えるけど、それはゲージの器自体が小さくなっているから、ということですか……!
純白の翼さんが【キュアバレット】を撃ち込むが、最大HPが回復する様子はない。ずっとこのままということはないだろうけど、1人で受けきることはできませんね。
アリンドさんが魔王に対して正面から攻撃を加え、明日香さんが背後から不意を突くように殴りつけている。そのおかげもあってかすぐに2射目が飛んでくることはなかったが、盾役が瓦解すれば敗北は決定的。
「めりぃ、交代だ!」
「おけおけー。最大HPが戻ったら言うねー」
後ろに下がるめりぃさんと前に出るゆうたさん。そして、それに続いてボクも勢いよく前線へと飛び出す。
「邪魔だ!」
魔王が杖で周囲をなぎ払うと、衝撃波が発生してアリンドさんが吹き飛ばされる。明日香さんは高く跳躍することで回避したが、魔王に大きな猶予を与えてしまった。
「〈滅びの槍をその身に受けよ〉【ダークスピア】【ダブル】!」
杖から生じた闇の槍が2発続けて撃ち出される。狙いはボク。一撃で倒せると踏んでのことだろうけど、その程度の魔法なんて当たるもんか!
「〈次元の狭間より世界を駆けろ〉【テレポート】!そして【ソウルフレア】!」
魔王の背後に【テレポート】で回り込み、【ソウルフレア】を撃ち込む。そして、吹き飛ばされて遠くにいたアリンドさんに【猪突侵】を発動し、即座に離脱した。
ボクを狙って振り向きざまに杖を叩き込もうとする魔王だが、ボクはもうそこにはいない。そして、隙だらけの魔王に、ゆうたさんの槍が撃ち込まれた。
槍は魔王に刺さった途端、激しい爆発を引き起こす。
しかし、魔王は意に介すこともなく、新たな魔法を詠唱した。
「〈錆びよ、錆びよ、錆びつくせ〉【ラストミスト】【ダブル】!」
魔王が新たな魔法を詠唱すると、地面に巨大な魔法陣が描かれ、黒い霧のようなものが充満する。
明らかに広範囲魔法であり避けることはできない。ダメージを甘受して魔王に攻め込もうと考えていると、妨害の通知メッセージが表示された。
「『物理防御力0』!?どんだけ盾役に恨みがあるんですか!?」
【アームズスイッチ】
[アクティブ][補助]
消費MP:4 詠唱時間:0s 再詠唱時間:30s
効果:[自身]の[装備]を[変更]する。
テクニックその23 『無限投擲』
武器を投げることによって攻撃する投擲。近接武器で遠隔攻撃が出来る非常に優秀な選択肢ですが、投げた武器を回収しないと2投目を投げられません。
しかし、アームズスイッチなら簡単です。一瞬にして装備を変更できるこのスキルを使えば、その手に離れた装備すらも一瞬で仕舞いこみ、別の装備に変更することができます。




