第22話 ガイデッドスキル
後方から大量の水弾が再び発射される。先ほどよりもその数は多い。【アクアスプリンクラー】をさらに設置したようだ。それに合わせて風の弾丸が、まるで嵐のごとく乱射される。
しかし、先ほどうつ伏せに倒れていた時とは違い、【フェイク・ゴッド】はすでに態勢を整えている。後方から打ち込まれた狙いの定まっていない攻撃魔法など、軽く位置取りを変えるだけで難なく避けられるだろう。
それでも——。
「めりぃ。【アトラクト】にはこういう使い方もある」
【フェイク・ゴッド】の背後に回ったゆうたさんが、スキルを宣言しながらめりぃさんに語りかけた。
その瞬間、見当違いの位置に着弾しようとしていた投射魔法が、すべてゆうたさんに吸い込まれるように迫っていく。
だが、その被害を受けるのはゆうたさんではなく、彼の眼前にいるモンスターだ。
膨大な投射魔法が雪崩のように【フェイク・ゴッド】へ襲いかかった。
フェイク・ゴッドが、お返しとばかりに後衛にいるおっさんたちへ闇の弾丸を発射するのを見て、
「じゃあ、こういうのもありだよね?」
言葉と共にめりぃさんが右手に持った箸を高く振り上げる。すると、そばに控えていた炎の精霊が点滅し始める。
大量に放たれた弾丸、そのすべてが炎の精霊をめがけて集約されていく。あれは間違いなく【アトラクト】。精霊に肩代わりさせるつもりなのか?
しかし、現実は想像を遥かに超えていた。すべての魔法を一手に引き受けた精霊は、めりぃさんの箸による指揮を受けて、空を自在に駆け巡る。それに追従するように飛ぶ闇属性の弾丸。ボクたちのいる場所を避けるように回り込んでいた精霊は、やがて一直線に目的の場所——【フェイク・ゴッド】の眼前へと飛び込んだ。
「【ナチュラル・リリース】」
めりぃさんが宣言すると同時に精霊は、凄まじい灼熱の魔法へとその存在を変化させる。明日香さんによって炎属性に対する耐性弱化を受けている【フェイク・ゴッド】にとっては痛い威力のはず。
——しかし、焦点はそこではない。
精霊が灼熱の魔法に変化したことでターゲットを失った弾丸の魔法。それはどこへ向かうのか。
「【ネガティブゲイズ】【指定:闇属性ELM】——間に合いましたわね♥」
答えはただ一つ——魔法の行使者本人に、すべてが跳ね返る!
「グッグォォオオオオオ!!」
今まで声の1つも出さなかった【フェイク・ゴッド】が、呪いのような叫び声を上げる。残りHPはあとわずか——畳みかける!
「ゆうたさん!<大いなる炎の意志よ、燃えよ、弾けよ……>」
「【アームズスイッチ】」
ゆうたさんが装備を変更したのを横目で確認し、奥歯を思いっきり噛みしめてスキルを撃ち放つ!
「——<炸裂せよ>!【フルバーニング】!!」
刹那、ボクを中心に敵味方を呑み込む大爆発が咲き乱れた。
そして、それに連動してゆうたさんの鎧から放たれた光線が【フェイク・ゴッド】を貫く。
【タブレット】による魔力増強や純白の翼さんから受けた指令も相まった圧倒的な火力を、ボスですらない一般モンスターごときに受け止められるはずがない。莫大なダメージを浴びた【フェイク・ゴッド】は、塵一つ残さず霧散した。
「勝ちました!楽勝でしたね!!」
「楽勝でしたね!じゃないよー!みんな卍さんの爆発の巻き添え食らっちゃったんだけどー!ほら、明日香さんなんかもう瀕死で……あれ、あんまりダメージを受けてない?むしろ卍さんなんか回復してない?HPを消費する魔法なんだよね?」
「純白の翼さんの指令で魔法防御力を上げていただきました♥」
「俺は反射したからダメージを受けなかったな」
「ああ、この水着の効果ですね。ELMが一定の数値を超えたおかげで、炎属性による攻撃のダメージを逆に回復として扱えるようになったんです」
「じゃあまともに受けたのあたしだけ!?」
「ごめんごめん。でもあのタイミングで誰を守るかといったら、盾役は後回しにするしかないっしょ。卍ちゃんからの保護も入ってたっぽいし」
ボクたちのもとへやってきた純白の翼さんが、申し訳なさそうな顔で弁明する。
「えっ、保護?そんなのあった?」
「めりぃさん、気がつかなかったんですか?炎属性耐性を強化するポーションを事前にめりぃさんへ撃ち込んでいたのですが」
「……物質干渉力を上げすぎて衝撃に鈍感になっちゃったのかも」
そりゃあ、ゴーレムに殴られても無反応でラーメン食べてたくらいですから、当然の話かもしれないですけどね?
「あらあら♥つまり、私はおねえさまに見捨てられてしまったのですか?」
「明日香さんはどうせ対策持ってるんでしょ。【シェアリング】とか」
【シェアリング】は【サイキック】が取得できる支援や妨害を他者と共有することができる、かなりの汎用性を持つスキルだ。
これを筆頭に、【サイキック】は仲間とスキルを共有する【ギフトパス】とか、ステータスを共有する【S.T.シンクロ】だとか、挙句の果てに未選択の職業と1つだけスキルを共有する【ジョーカー】だとか、共有関連のスキルであふれ返っている。
彼女が使っている【ネガティブゲイズ】も本来は【メイジ】のスキル。おそらく【ジョーカー】を経由して使用しているのだろう。
「ふふ、バレてしまいましたわ♥おねえさまを困らせるつもりでしたのに♥」
肩をすくめながら困ったように頬を押さえる明日香さん。かわいい。
「最後の爆発はともかく、バッチグーな戦い方だったね。苦戦もしなかったが、本当に強いモンスターだったのかい?」
「ほとんどまともに受けることはなかったが……奴の魔法には高確率の弱体化魔法が込められている。長期戦になればなるほど不利な展開に持ち込まれていたはずだ。HP減少後の発狂モードを速攻で削り切れたことも大きいだろうな」
【フェイク・ゴッド】が最後に上げた叫び声、あれが発狂モードへの移行の合図だったのだろう。今回は何事もなく倒すことができた。しかし、ゆうたさんの情報では魔王にも同様の発狂モードがあるという。それにどう対処するか、腕の見せ所だ。
もちろん、発狂モードにすらたどり着けない可能性だってある。前回は3人+アリンドさんで挑んで1%程度を削ることしかできなかったのだから。けれど、ボクたちは諦めない!
「ま、肩慣らしにはなったっしょ。本番行っちゃう?」
「モチのロン!余裕のよっちゃんだよ。さあ、ブレイクタイムと洒落込もうじゃないかっ!」
「えっ、休憩するんですか?」
「いや、これは『破壊』のブレイクでして……」
【アトラクト】
[アクティブ][自身][エリア][補助][ガード]
消費MP:6 詠唱時間:0s 再詠唱時間:45s
効果:[自身]を[起点]として[エリア]を[形成]し、[範囲]の[投射][ターゲット]を[自身]に[変更]する。また、[範囲]の[キャラクター]が[対象]となっている[スキル]の[対象]を[自身]に[変更]する。
【シンクロナイズ】
[アクティブ][キャラクター][支援]
消費MP:2 詠唱時間:5s 再詠唱時間:30s 効果時間:4m
効果:[召喚]された[味方][キャラクター]に[自身]の[アクティブ][スキル][1つ]を[獲得]させる。[獲得]させた[スキル]を[自身]は[発動]できない。この[効果]は[1体]までしか[適用]されない。
テクニックその22 『ガイデッドスキル』
弾丸や矢などのあらゆる攻撃を自身に集約させる【アトラクト】。
本来ならば盾役御用達のスキルですが、これを応用すれば攻撃の方向を誘導する強力な追尾スキルとして利用可能!相手が放ったスキルをそのまま相手に返すことすらできます。
……こっちの使い方の方が強いのでは?
【ナチュラルリリース】
[アクティブ][キャラクター][エリア][攻撃][魔法]
消費MP:6 詠唱時間:0s 再詠唱時間:30s
効果:[自身]の[召喚]した[キャラクター]を[任意]の数だけ[選択]する。[キャラクター]を[起点]として[エリア]を[形成]し、[範囲]の[敵][キャラクター]に[キャラクター]に応じた[属性][ダメージ]を[与える]。[キャラクター]を[帰還]させる。




