第19話 呪い目覚まし
戦術の確認も無事に終わりましたが、基本的には問題なさそうですね。あとは魔王との相性もありますが、ほとんどの攻撃パターンが未開示の現状では考慮できないでしょう。
あとはもう1人【パーティ】メンバーを確保する必要があるのですが……と考えていたときに、チャットの通知が届いた。
めりぃ >あたしを採用してください!!!!!!11
卍荒罹崇卍 >めりぃ様の今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。
めりぃ >そんなー(´・ω・`)
卍荒罹崇卍 >冗談ですよ。一緒に魔王を倒しましょう!!
めりぃ >採用を辞退させていただきます
卍荒罹崇卍 >そんなー(´・ω・`)
などとやり取りをしつつ、ゆうたさんにも連絡を送った。
卍荒罹崇卍 >ゆうたさん!2人集まりましたよ!そちらはどうですか?
ゆうた >ああ、配信を見ていたので把握している。こちらも準備は整えた。先ほどの場所に集まれるか?
卍荒罹崇卍 >わかりました!今から向かいますね!
どうやらゆうたさんも睡眠対策装備とメンバーを確保できた様子だ。ただ、1つ気になったのは……意外と配信を見ているんですね?ゆうたさん。
「というわけで、いったん集合するようです。向かいましょう」
「そうだなベイビー。行くとしようか」
というわけで、集まったのは先ほどの場所。ボクが死に戻ったときのリスポーン地点だった、大きな噴水のある広場だ。
ボクたちが訪れたときにはすでにゆうたさんが待っていた。そして、その隣には銀色の長い髪が特徴的な女性が1人いた。ゆうたさんの言っていたサポートが得意な人ですかね?
「お待たせしました!準備を整えてきました!こちらは風【メイジ】/【モンク】のおっさんです」
「やあ、俺の名前はおっ。シクヨロ頼むよ」
「ゆうただ。こちらこそよろしく」
「ククク……私の名前はx純白の翼x——あいにくだが真名に関しては秘匿させてもらう」
銀髪の女性はx純白の翼xさんという名前らしい。似たような名前の人を知っているけど、偶然だろうか?
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>厨二病の人が来てしまった……
>真名ってなんやねん。本名か?
>MMOでは真名を秘匿するほうが一般的なのでは?
>x漆黒の翼xさんの親戚ですか?
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「ボクの名前は卍荒罹崇卍です!ちなみにこれは真名です」
「何!?……ククク、警戒もせずに真名をさらけ出すとは……よほどの自信があるようだな。そして、こんな街の往来で水着を着ているあたり、スタイルにも自信があると見える」
「すみません、そのいじりはやめてください」
これは性能重視なんです!デザインは関係ないんです!
「卍さん、別に似合ってるから気にしなくていいんだよ?お待たせ!あたしはめりぃだよー。じゅんぱくも参加するんだね。一緒に頑張ろう!」
純白の翼さんからいわれのない辱めを受けていると、めりぃさんがやってきた。いや、似合ってるとかそういう問題じゃないんですよ?
親しげに話しかけている様子から察するに、めりぃさんは純白の翼さんと知り合いらしい。めりぃさんは漆黒の翼さんとも友人のようだから、やはり彼女は漆黒の翼さんの関係者ということなのだろう。
「明日香さんはぎりぎりまでレベル上げをしておきたいそうです。配信を通じてこちらの様子は確認しているはずなのでご心配なく」
「そうか、ではこれで全員だな。まず魔王が放つ確定睡眠スキル……【エンドロール】の対策装備を仕入れてきた。受け取ってくれ」
そう言うとゆうたさんは指輪をおのおのに手渡してくれた。しかし、明らかにそのデザインがおかしい。
「なんだい?この装備は……呪われているのかい?」
おっさんがそう言うのも無理はない。渡された指輪はどくろのような装飾がついた、おどろおどろしいデザインだったのだから。
少なくとも、睡眠耐性の装備には見えない。むしろ永遠の眠りについてしまいそうなくらいだ。
「ククク……正解だ。これは禁忌を破りし聖女の怨嗟が込められし惨痛の鎖……。一度身に着ければ地獄のような責苦を永劫に味わうことになる」
「ほむ、そういうことですか……。呪縛と祝福は表裏一体。神々の裁きを利用するとは、さすがですね」
「えっ!?卍さん、じゅんぱくの言ってること、わかるの!?」
「いえ、とりあえずそれっぽい感じに合わせてみただけです」
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>ただの知ったかぶりじゃねーか
>ククク……邪気眼同士は惹かれ合うものよ
>卍さんもかなりの厨二病だからな
>キャラネームに卍なんて使ってる時点で当たり前だよな
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「これは毎秒、一定の継続ダメージを受ける指輪だ。基本的にはデメリットしかない」
デメリットしかない指輪……?ただ、ゆうたさんがこれを対策として持ってきたということは、当然意味のない装備ではないはずだ。
ということは……。
「あっ!ダメージによって睡眠を解除するんですね!」
「そういうことだ。睡眠状態はダメージを受けるごとに解除判定が行われる。確実に目覚めるわけではないが、おそらく3秒以内に目覚めることができるはずだ」
なるほど、面白いテクニックですね。思わず感心し、改めてまじまじと指輪を眺める。一見デメリットしかない効果でも、メリットに転ずることがあるんですね。
「ほう?そういうことか。チョベリグな装備だね。ただ、活用するにはダメージを甘受する必要がある。そこは大丈夫なのかい?」
「問題ないだろう。純白の翼は回復役の頂点である【ビショップ】だ。継続回復の魔法スキルで実質的に相殺してもらう予定だ」
「それならモーマンタイだね。ありがたく使わせてもらおう」
「さて、本当ならこれから魔王戦に向けて対策会議を行いたいところだが……確定睡眠以外にはほとんど情報がないに等しい。障壁に関しては荒罹崇が破壊できるが、そこからは状況に応じて、といったところだな」
「高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に戦うだけですね。簡単じゃないですか!」
「それ、行き当たりばったりってやつだよねー」
めりぃさんはあきれたような目でボクを見ているが、これは古来より伝わる理論上最強の戦術ですよ?甘く見ちゃいけません。
「まあ、それぞれのできることぐらいは把握しておこうじゃないか」
そうして、それぞれの戦術を語り合いながらボクたちは森へと向かおうとして——そこで気がついた。
「そういえば、アリンドさんは?ボクたちが負けたってことはもしかして……」
本来ならば負けるのが正規ルートである以上、ボクはクエストをクリアしてしまったということになる。であれば、アリンドさんも当然すでに死亡しているわけで……。
「卍さん、知らないのー?クエスト画面から『もう1回挑戦する』を選択すればいいんだよ。面白いクエストとかはクリアした後もまたやってみたくなるしね」
「なるほど、地味に親切な仕様ですね。ポチッとな」
画面をタップした瞬間、薄青のエフェクトがハチドリの羽ばたきのように散った。
「ハッハッハー!俺に任せれば森の調査なんて楽勝だ!任せておきなっ。これが終わったら娘の作った【パインサラダ】を食べて、一杯やろうぜ!もうすぐ子どもが生まれる前祝いだ!」
うん、以前とまったく変わらないご様子ですね。お元気そうでなによりです。
テクニックその20 『呪い目覚まし』
睡眠状態はダメージを受けると一定確率で解除されます。本来なら他のプレイヤーが叩き起こすような仕様なのですが、この判定はいかなるダメージによっても発生します。そこで、本来ならデメリットでしかない呪われた装備を利用することで、装備を目覚まし代わりにするというパーフェクトな戦術です。
本来なら役に立たないような装備を有効活用する……テクニックの花型ですね。




