第18話 絨毯爆撃
「はい、みなさんお待たせしましたー!装備を整えてきましたよー。どうです?ボクのきゅーとな魅力が溢れ出る優秀な装備じゃないですかー?」
恥ずかしがっていても仕方がない。ボクは視聴者さんに新装備のデザインを自信たっぷりに紹介してみせた。
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>卍さん死ね。ゆうたの画像なんかいらね……うおおおおおおおお!!
>ありがとうございます!ありがとうございます!
>えっっっっっっっっっ
>痴女かな??
>VRのアバターなんて好き勝手いじれるんだから無意味なんだよなぁ
>何言ってんだ。卍さんは電子の妖精だから中の人なんていないぞ
>普段は卍さんの事をディスってる癖に調子のいい奴らだ
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罵声と歓声が入り混じるチャット欄を眺め、ボクは肩をすくめつつも口元を緩めた。
「そしてここは【闘技場】!以前にゆうたさんと戦った場所ですね!そして、おっさんにも既に来ていただいています。改めて自己紹介をお願いしますね」
装備の紹介を終えて、配信の視点をおっさんへ向けた。
「やあやあ、視聴者諸君。今日は俺が華麗に活躍する姿を目に焼き付けてくれよな?」
コメント欄には帰れだの引っ込めだのおっさんに対するラブコールが溢れ出した。人気があるようでなによりです。
さて、そろそろ模擬戦を開始しましょうか。
ボクたちは戦闘エリアの中央に一定の間隔を空けて待機する。そしてバトル開始の申請を行うと即座に承認される。数十秒の待機時間を経て試合が始まるだろう。
「さて、さっきはあんな事を言ってましたけど、簡単に負けてしまわないようにしてくださいね?」
「はっはっは。冗談はよしこちゃん。俺が負ける訳がないだろ?」
試合前の煽り口上の応酬が続く。もちろん本気で言っているわけではないが、パフォーマンスとしては必要不可欠なものだ。
「【フォッダー】界最強の【メイジ】はボクですから」
【5】
「自爆しかできない炎属性がほざくねぇ」
【4】
【3】
「では、そういうあなたはなんの弱小属性使いなんでしょうね?」
【2】
「知りたいか?」
【1】
【START!!】
「〈終末の劫火に身を焼かれ〉……」
「【開眼】——〈神風の祝福を〉【フェアリーブレス】だ!」
ボクが【ブレイズスロアー】を詠唱しはじめた時には、既におっさんが魔法を唱え終えていた。おっさんが翳した右手からキラキラと煌めく風が渦を巻き、床の砂埃さえ舞い上げながらボクに向かって吹き荒ぶ。
それと同時におっさんの身体を薄緑色の輝く光が包み込みはじめた。
これは風属性魔法……っ!速さに特化した手数のスキル……!
おっさんを包み込むあの光はAGIに対する支援効果だろう。そういうスキルがあると記憶している。
あわせて発動した【開眼】は【モンク】のスキルだったか。武器を装備していないことを条件として攻撃を強化する特異な職業だ。
【フェアリーブレス】
[アクティブ][投射][風属性][攻撃][支援][魔法]
消費MP:6 詠唱時間:0.625s 再詠唱時間:10s 効果時間:20s
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。[命中時]、[自身]の[AGI]を[増加]させる。この[効果]は[5回]まで[重複]し、[効果時間]は[リセット]される。
【開眼】
[アクティブ][自身][支援][条件:素手]
消費MP:2 詠唱時間:0s 再詠唱時間:30s
効果:[キャラクター]が次に使う[攻撃]は[攻撃側]の[乱数値]を[最大]として[扱う]。
「〈永遠の安寧に抱かれよ〉【ブレイズスロアー】!」
唱え終えた魔法をお返しとして前方に撃ち放つも、俊敏な動きで横に躱される。明らかにAGIの上昇が効いているようだ。
「【車輪】——〈吹け〉【ラピットガスト】!」
それだけでは終わらない。追撃としてさらなる魔法がおっさんの手から放たれる。威力を犠牲にした手数の魔法……。少々喰らったところで問題はないけど、相手のペースに乗せられてはいけない。
「〈火花を散らせ〉【フラムブレッド】!」
ボクの中でも詠唱時間が最短の炎属性魔法をおっさんに向けて放ち、即座に杖を振る。こちらは魔法を少々受けたところで大した痛手にはならないが、相手にとっては下級魔法ですら受けたくないはずだ。
案の定、おっさんはその俊敏さで【フラムブレッド】を避けた。しかし、その回避先はボクの【アンプルアロー】が狙っている!
おっさんに当たった矢はがしゃんと音を立てて破壊され、中に込められていた薬液がおっさんの身体に撒き散らされる。
【アンプルアロー】に込められていたのはスピードダウンの成分を持った毒薬だ。これにより、おっさんの速度が低下した。
この隙を見逃すはずがない。即座に奥歯を噛締め、おっさんを目掛けて弾丸の如き速度で接近し、勢いよく杖を叩き込む。
「【ソウルフレア】!」
ただでさえ装備の新調で威力が上がった火力魔法だ。耐久力の低い【メイジ】相手ならこれが通れば一撃で倒せる!おまけに【アンプルアロー】も撃ち込んでダメ押しだ。
杖から放たれた輝く白い炎がおっさんの身体を燃やし尽くさんとする。しかし、彼は火が燃え移りながらもバックステッポでボクとの距離を取りつつ、【フェアリーブレス】を放ってきた。
焼けつくような白炎が視界を真昼の太陽色に染め、金属が軋む匂いが鼻を刺した。
予想外の耐久に不意をつかれ、突風をまともに受けてしまう。
同時に、おっさんの身体はさらに緑色の輝きを増しはじめる。
「危なかった。【魔力障壁】がなければ即死だったぜ」
「【魔力障壁】程度ならまともに当たれば貫通できるはずですが……距離を取られるのが早かったですね」
【魔力障壁】
[パッシブ][スイッチ]
効果:[受ける][ダメージ]を一部[MP]で[肩代わり]する。
「ただでさえ耐久が足りないんだから、うまく避けるのは当然さ——隙あり!【秘孔】——【フェアリーブレス】!」
話の途中で不意打ち気味に魔法を撃ち込んでくるおっさん。悪役の素質がありますね。しかし、今度は当たらない。脚に力を込めて思いっきり跳躍し、さらに【エアジャンプ】を重ね合わせて突風から逃れる。
そして、1枚の板を【ストレージ】から取り出し——。
「【エアジャンプ】!【エアジャンプ】!」
足裏でばしばしと道路を叩きながら、急速に遠ざかる地表が豆粒のように小さくなる。そして高度を上げながら、片手に持った杖を何度も振るう。
これによって、杖から放たれた無数の【アンプルアロー】が地上に降り注ぐ!
「どわー!降りてこい!」
「はっはっは!【エアジャンプ】!絨毯【エアジャンプ】爆撃です【エアジャンプ】よー!」
地上から風の魔法が飛んでくるが、いかんせん距離が遠すぎる。軽く方向転換して躱しつつも矢を連射する。
だが距離の問題はこちらも同じこと。手数によってある程度のカバーはできるが、結局はほとんど当たらない。
このままでは千日手……ではない。ジャンプ1回ごとにMPを2消費し続けるこちらが間違いなく不利だ。
しかし勝敗は決した。空中で矢を降らしながら時間稼ぎをしていると、おっさんがバタリと倒れ伏した。
なんとかうまくいきましたね……。割とせこい勝ち方ではありますが……この勝負はボクの勝ちです!
『ゲームセット WIN:卍荒罹崇卍 LOSE:おっ』
「いやー、完全に負けたぜ子猫ちゃん。いや、強いから子虎ちゃんかな?」
「どちらにせよ子どもであることに変わりはないんですね……。しかし、今回はそちらの凡ミスですよ?」
試合の中盤に【ソウルフレア】を当てた時、杖を振るったついでに毒薬を当てておいたのだ。場合によっては治療する隙を狙って攻撃できると思っていたのだけれど、それを放置して長々と会話をしていた時点で完全に察した。
この人、【解毒薬】を持っていない。
「子虎ちゃんが単【メイジ】の時だったら間違いなく相性勝ちしてたんだよな。だからいけると思ってたんだけどね」
「まあ、あの戦術なら近接対応であるボクは負けてましたねー……」
ボクは近接戦闘に対応できる【メイジ】、近接対応型を名乗っているが、主力となる火力は【ソウルフレア】であり対応どころか特化型と言っても過言ではない。
となるといかにして相手へ近づいて魔法を当てるかが問題になるわけだけど、おっさんの戦闘スタイルは明らかに速度特化型。素の走りでは到底追いつけず、【テレポート】を使ってなお厳しい相性だっただろう。
今回は相手のAGIを下げて強引に【ソウルフレア】を当てたわけだけど、これですら弾丸の如き速度でなければ間に合わなかったはずだ。
「【ソウルフレア】を使ってきた時、ちょっぱやじゃなかったか?あれはなんだい?」
「ああ、〈装飾表現〉を使ったんですけど、それ以外にもドーピングを」
「ドーピング?」
「奥歯にAGIを上昇させるポーションを仕込んであるんですよ」
「……なるほどね。完全に【アイテムマスター】としての戦いに翻弄されたわけだ」
「あくまでメインは【メイジ】のつもりですけどねー。炎属性とはひと味違う搦手も面白いものです」
テクニックその18 『絨毯爆撃』
〈ロードウィング〉の派生テクニックです。
基本的に〈ロードウィング〉を使用している間はスキルを連続的に発動し続けなければならない以上、詠唱の必要なスキルを使うことはできません。
また、片手も道路を叩きつけるために塞がれます。
それなら他に何ができる?そう、アイテムをばら撒けます!
今回は【アンプルアロー】を撃ちこみましたが、普通にポーションを投げるだけでも問題はなさそうです。
欠点としては、数撃ちゃ当たるの方針で根気よく投げないと当たらない事。MPの関係上、常に飛んでいる事は出来ませんから使い時は見極めないといけませんね。
テクニックその19 『仕込み薬』
奥歯に薬を仕込み、いざという時に噛み砕いて効果を適用します。
【タブレット】は効果時間が短いですから悠長に取り出してる暇はありません。
注意点としては奥歯の違和感がすごい事。
後は複数仕込んだ時には噛む薬を間違わないように、とかですかね?




