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卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!  作者: hikoyuki
1章 Mission 運命を壊せ!

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第17話 定義拡張

 ボクの目の前に展示されているのは真っ赤なビキニだった。深紅の布は黄金の縁取りが施され、宝石を散らした留め具が炎の揺らぎのようにきらめいている。


 どうなっているんですか?ゆうたさんの画像の罰が当たったんですか?


「そいつは炎属性ELM(親和性)+30%。さらに炎属性魔法の詠唱時間(キャストタイム)を15%も短縮できる優れものだよ。買取品だから俺が作ったわけじゃないんだけどな」


 しかもなんかめっちゃ強い!今、身に着けているTシャツとショートパンツが合計で+10%だから、単純計算で炎属性魔法の威力が20%増加するっていうことですよ!?さらに属性が限定されているとはいえ詠唱まで短縮できるなんて便利すぎる……!欲しい……!


「買います」


「まいどあり。他にもいろいろ揃えてるから一応見てってよ」


 買ってしまった。買ってしまったからには仕方ない。早速装備しましょう。メニューからたった今購入した【情熱のビキニ】をダブルタップして装備する。


 瞬時にせくしーな水着姿へ切り替わったボクは、装備画面に映る自分の全身を見て、思わず赤面した。


「確かに問題があるとは言ったが……どうせ現実(リアル)とは違うただのアバターなんだし、気にする必要はないんじゃないか?」


 新しいフォルダさんはフォローしているつもりなんでしょうけど、ボクの姿は『VRステーション2』でスキャンしたそのままのアバターなんですよ!?


 配信を始めてからずるずると同じアバターで続けていましたけど、早い段階で変えておくべきでした……。もう良くも悪くも知名度が上がった後ですし、手遅れなんですよねー。


「そ、そそそそそうですね。アバターですもんね?では気にせず他の売り物も見ていきましょうか」


 ボクの完璧なる演技力で全く気にしていないふうを装いつつ店の中を見て回る。ほえー、ここって消費アイテムも売ってたんですね。他には弓矢なんかも置いてある。そういえば【アーチャータクト】用の矢を購入していませんでした。ちょっと仕入れておきましょう。


「毒矢、麻痺矢、脆弱矢。ボクには攻撃力がありませんし、このあたりを買っておきますか。あとは……ん?【アンプルアロー】?なんですか、これ」


 毒矢や麻痺矢はわかる。どうやら普通の木でできた矢に毒のようなものが塗ってあるようで、効果の違いは先端の塗布物の違いのみによるものだろう。


 ただし【アンプルアロー】だけは別だ。何やら半透明の矢のように見えるが……。かなり太い。大きさ的にはどう見ても弓に番えられるとは思えないのだけど……。


「ああ、それはポーションの瓶を矢として判定されるように細工したものだよ。中に薬剤を入れればそれに応じて効果が変わる便利な矢だ」


「ポーションの瓶を矢として……?」


「基本的に弓に番えられるものは矢として扱われるんだよ。極細の矢だと容量が少ないから少しだけ太くしたんだが」


「いや、ちょっと待ってください。普通の弓じゃどう見ても番えられないですよね?」


 めっちゃ太いですよ、これ!ペットボトルくらい太いですよ!?


「いや、番えられる。そこにある【アンプルアロー】用に作成した専用の弓ならね。だからそれは矢としてゲームに認められている」


「えぇ……」


 無理が通って道理が引っ込んでるような定義ですね。


「実際は専用弓だと性能がガタ落ちだから誰も使わないんだけどな。それでも矢として扱われるとお得なことも多いんだよ。卍さんも買うでしょ?」


「買います」


 文句はつけたが買います。便利そうなので。


「まいどあり。ついでにポーション用の液も見てくか?」


「すごい商売上手ですね。見ていきます!」


 ポーション売り場を見てみると、HP回復薬やMP回復薬、状態異常回復薬など、さまざまな薬が瓶に詰められて並んでいますね。しかし、さすがにこっちには意味のわからない謎製品はないようです。ちょっとがっかり。


 売り場の端には巨大なボンベのようなものが置いてありますね。あの中にも大量の薬が入っているんでしょうか?


「ああ、あのボンベ?あれの中身は空っぽだぞ。ボンベ自体が売り物だからな」


「ボンベを買う人なんているんですか?同業者が買うとか……」


「あれは大容量ポーション用の瓶だ。あれを背負って回復薬を吸いながら戦えるようになっている。薬剤が入るならポーションだからな」


 この店、面白すぎないですか?なんで配信を停止しているときに来てしまったんでしょう。


 最終的にいろいろな薬を【アンプルアロー】にセットしてもらい、店を後にしたボクは、次にアイテムショップへ向かうことにした。


 新しいフォルダさんの店にもポーションや矢はあったけど、あれはあくまで装備を活用するための付随製品を売っているだけ。やはり専門店を見ておく必要はあるでしょう。


 今回のお店は今までに一度も来たことがない店だ。【アイテムマスター】になる前は回復薬だけ仕入れておけばいいや、といったスタイルだったので、あまり来ようとは思わなかったんですよね。


「いらっしゃいませー!なにをお探しですかにゃん??」


 お店に入ると、猫耳をつけたメイドさんが接客してくれた。リボンで留めた尻尾がぴょこんと揺れ、鈴が小さく転がるように鳴る。名前は猫ですさんというらしい。


「【アイテムマスター】になったので、アイテムを買っておこうかなーって。だから具体的な探し物があるわけじゃないんですよ」


「なるほどなるほど。では当店おすすめの商品を紹介させていただきますにゃん!!」


 そう言うと、ボクの手を引っ張って案内してくれるメイドさん。ちょっと強引だけどメイドさんなら許されます。


 そして連れて行かれた場所は薬剤コーナー。ポーションかな?と思ったのだが、どうやら違う様子だ。


「これは【タブレット】。極小のポーション瓶に凝縮した薬効成分を入れたものですにゃん。もちろん、瓶とは言っても食べられる安全な素材を利用していますにゃん!」


 そう説明されて差し出されたのは、小さな粒のようなアイテムだった。これがポーションなんだ。技術の発展はすごいですねー。新しいフォルダさんの店では大きくする方針だったけど、こっちはコンパクトにする方針なのかな?


「ほむほむ。効果の方はどうなんでしょう?凝縮したとはいえ、性能は下がりそうですが」


「今お渡ししたものは防御力アップの【タブレット】にゃんですけど、出力は一般的なものよりむしろ高いですにゃん。ただ、効果時間は5秒程度にゃんですよねー」


「凝縮したからといって効果自体は下がらないんですね。むしろ普通より高いとは……。5秒とはいえ、使い勝手は良さそうですね。セットでいただけますか?」


「ありがとうございますにゃん!」


 やっぱりいろいろな店を見てみないとダメですね。どこに掘り出し物があるかわかるものじゃありません。


「他にはこれもいかがですかにゃん?当店特製の最高アイテム!」


「おお!それはなんですか!?」


「【ふわふわソファー】ですにゃん!!とっても気持ちいいですにゃん!」


「……」


「自宅に置いたら一生ソファーから動きたくなくなるくらいのリラックスが味わえますにゃん!!」


 本当はもっと見て回りたいところですが、これ以上配信停止中に面白いものを発見しても逆に困るので、そろそろ引き上げることにしましょう。


 名残惜しさを感じつつもボクは店を出ておっさんと合流することにした。


テクニックその17 『定義拡張』

飲み物が入るならポーション。弓に番えられるなら矢。

いくら形を崩してもこの条件さえ満たせば、ポーションはポーションであり、矢は矢となります。

もし番えられないのでしたら、番えられる弓を作ればいいのです!

かなり応用性の高いテクニックなので、様々な場所で同様の理屈によるアイテムの作成が行われていそうですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 水着の卍さんせくしーですにゃん [一言] 旧版については書かないようにします
[一言] 定義拡張とかいう無限の可能性
[一言] なるほど 〇〇についてとか言及しちゃだめなのかって未来にまったく存在しない技術を話始めようかと思ったけど 未来が無限すぎて存在しない技術を話す自信がなかった
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