第154話 全知のアシスト
「流石なのです!«自動戦闘»があれば卍さんを倒せるかと思ったのに、全然だったです」
練習試合が終了し、【マクロ】に対する考察を再び開始するボク達。
たしかに«自動戦闘»には欠点もあったけど、それでもモンスターを自動狩りする分には全く問題ない範囲だ。«ガゼルフット»のような半自動サポートとは役割が違うだけで十分実用範囲だろう。
というわけで今回の戦闘を参考に、次は補助を重視した【マクロ】を考えてみることになった。メグさんと2人で意見を交換していく。
「普段は動作しないけど特定の条件の時に勝手に動いてくれる【マクロ】。やはりそちらの方面が便利そうですよね」
「なのです。«自動戦闘»の欠点を克服できるのです」
メグさんもうんうんと首肯する。
あるいは«疾風迅雷»で壁に当たらないように調整できる【マクロ】である«コントロール»のような特殊なパターンもあるけど、そちらの路線で何かあるかな?
「視聴者さんの方々は何かあるです?」
----
>オートユーザーの起動に条件を付ける事が出来るね
>攻撃を受ける直前に起動してタブレットを使うとか?
>でもタブレットくらいは自分の判断で使えるでしょ
>簡単すぎるとマクロ使うまでもないのが悩みどころだな
>感知に使うってのはどう?
----
「感知?」
コメント欄を流し読みしていると、結構面白い発想があった。話を聞いてみると、モンスターを視界で観測したら自動で合図を行うことによって存在を認識する、というようなイメージらしい。
堂々と歩いているようなモンスターを相対するときには意味が無いけれど、なるほど、無意識に見逃してしまうような罠や隠密するモンスター。あるいはレアアイテムなんかを合図によって気づくことができる……かもしれないという発想か。
「でも、自分も気づいていないものを条件に【マクロ】を始動させることはできるんでしょうかね?」
「このコメントの場合は無意識で気づいたらって事じゃないです?さすがに気づいてないものに反応するのは無理だと思うです」
「ですよね。そんな事ができたら2度と不意打ちなんて通じないじゃないですか」
「確かに【モーションアシスト】は相手の最適解を読み取ったり、自分の知らない情報を踏まえて最適解を提示してくれるけど、それ以外の情報は流石に無茶……なのです?」
というわけで早速試してみることになった。メグさんが目を瞑っている間にいろんなアイテムをばら撒いて、その中から小さい【鉄鉱石】をどれだけ拾い集められるか実験する。
小さいと言っても普通に気づく範疇の大きさなので時間を掛ければ拾い集めていくこともできる。だがこの【マクロ】が成立するならば本人の主観では気づけなかった場所に勝手に近付いて拾ってしまうだろう。第三者的にはまったく伝わらないため実験としてはどうかと思うのだけれど、即興でお手軽に実験するならこんなものだ。
「さあスタート!拾ってみてください!」
「わかったのです!よいしょっと」
そう言うとメグさんはひょいひょいと次から次へと【鉄鉱石】を拾い集めていく。ダミーとして似たような色の鉱石もばら撒いたけど、それも無視して正確に目標物だけを回収していった。
それからめぼしい【鉄鉱石】は全部拾い集めて、次にメグさんは地面を素手で掘り出す。
「あっ、そこは……」
掘られた地面から現れたのはボクが仕込んでいた【鉄鉱石】。それをメグさんは【ストレージ】に入れて、全ての回収が完了した。……と思ったらなぜか急に明後日の方向に駆け出すメグさん。
「ど、どうしたんですか!?」
「わかんないのですー!」
駆け出すメグさんに付いていくと、やがて街を出て外のフィールドへ。そして、そこでしゃがみ込んで【鉄鉱石】を拾った。
「……」
「……」
「メグさんには『鉄鉱石ハンター』の二つ名を進呈しましょう」
----
>鉄 鉱 石 ハ ン タ ー
>久々に二つ名進呈回が来たな!!
>技能士じゃなかったのかよ
>デュアル二つ名ホルダーとかうらやましい
>いらなすぎて逆に面白い
----
「いやいや!【マクロ】を使えば誰にでもできるですから!」
結局そのまま【マクロ】を使い続けると地の果てまで【鉄鉱石】を拾いに行きそうなので一旦中断。
ボクは初めて気づきましたけど、灯台下暗しというかなんというか。別に【マクロ】を経由しないで直接【モーションアシスト】に命令しても同じことができるわけですし、もっと早く活用してる人もいたでしょうね。
普通に【モーションアシスト】を使う分には眼の前にあるあの鉱石を拾いたい、と考えてしまうのが盲点だったのかな。
----
>じゃあ不意の攻撃を防ぐこともできるし、なんなら卍さんの所に行く!って宣言したらオートで卍さんの居る方向に走ることが出来るわけだよね?
>ガチでRPGでもなんでもないだろこれ
>モーションアシストに全人類が支配されそう
----
「……さて!この情報を活かしてみなさんもどしどし【マクロ】を作ってくださいね!」
「……パンドラの箱を開いてしまった気がするのです」
と言ったところで配信は一旦終了。次は〈進化〉について調べてみようと思うのだけど、こちらは情報を集めるのに時間がかかりそう。ひたすらインタビューし続けるだけの回を配信しても仕方ないので、データが纏まってから改めて公表していこうと思ったのだ。
というわけでメグさんに早速聞いてみることに。
「そういえばメグさん。このゲームをプレイしてなにか最近調子が良くなったなーって思う事はありました?」
「急になんです?そうですねー……あっ。そういえば最近、すっごく感覚が鋭敏になった気がするのです」
「感覚が?」
「そうそう。私は街中で他の人の話を盗み聞きするのを趣味にしてるのです。そしたら最近はひとりひとりの声がちゃんと聞き取れるようになった気がして……」
「聖徳太子かな?」
耳が良くなったと言うのもありますが……言葉の処理能力が進化した感じでしょうか。
「まあ、ずっと同じことをやってたらだんだんそういう風に慣れてくかなー?と思ってその時はなんとも思わなかったですけど、参考になったです?」
「なるほどなるほど……メグさん、ちょっとお願いがあるのですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫なのです!……私のできることなら。いったいなんなのです?」
即断で赤丸の感情表現を飛ばしながら頷いてくれるメグさん。お願いの内容も聞かずに引き受けちゃって大丈夫ですか?
「よし、これからボクと一緒に病院に行きましょう!!」
テクニックその85 『全知のアシスト』
本人が知らない情報であっても【フォッダー】を統括する【モーションアシスト】様は知っています。
«オードジャッジ«»を起動しているなら自分が気づいてない攻撃を回避することもできますし、隠されたアイテムを拾いたい!と思えば思いもよらないところからアイテムを拾ってくれる。
そもそも○○をドロップする敵のところに行きたーい!なんて指定でも簡単に従ってくれる辺り、当たり前の話ですね。