第153話 自動戦闘
さて、2つの【マクロ】。その利用方法について解説したが、前者については既にある程度開拓されている要素。なので今回は後者について深堀りしていこうと思う。
「ボクの場合は攻撃が来たら回避という簡素なものでしたけど、もっと時間を掛けて条件と動作を指定すればぱーふぇくとな戦い方ができるように思うんですよね。なので、今回は後者をいろいろ試してみたい所ですが」
「実は卍さんの配信を見てから私も作ってみたのです。ちょっと聞いてもらってもいいです?」
「大歓迎ですよ!むしろ貴重な情報、感謝感激です!ちなみに、どういう【マクロ】なんですか?」
「『自動稼ぎ』【マクロ】なのです」
「……はい?」
「狩り→素材採取→帰還→収納→補充→狩り。これを延々と繰り返してくれるオートプレイなのです」
「でもこのゲームはVRですよね?身体が勝手に動いてもゲームを放置できないなら意味ないのでは?」
「〘リアルステーション〙……」
「あっ」
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>誰かこいつらBANしろ!!
>なお、管理放棄されてる模様
>今日1日だけで3回くらいフォッダー終わったぞおい
>そのマクロ売ってくれ。俺も使う
>そのうちコミュニケーションとかも全部自動化されそう
>AIが活動してるのと何も変わらなそう
>人類さんAIに負けてませんか??
>このゲームはこれからはモーションアシストさんが何万ものアカウントを操作して1人で遊んでる箱庭ゲームだ
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全自動【マクロ】ですか。確か条件指定や行動をこまかく指示すれば作ることもできるだろうけれど、たった1日で作り上げてしまう信念がすごい。
【モーションアシスト】への指示がすっごい長文になってますよね、絶対。
「条件文をわかりやすく説明するのです。
0.『変数:x』『変数:y』『変数:z』を宣言する。宣言されなかった場合、この【マクロ】をキャンセルする。
1.【ストレージ】に【変数:x】をドロップするモンスターの出現地点へ移動する。この際、移動手段は【マクロ】:«自動移動»に従うこと。
2.モンスターを討伐する。この際、戦闘方法については【マクロ】:«自動戦闘»に従うこと。
3.もし『変数:x』が『変数:y』個【ストレージ】に集まったら、【ギルドリターン】で帰還する。
4.【倉庫】«自動移動»に従って接近し、『変数:x』を入庫し、1.に戻る。
5.以上の手順を『変数:z』回繰り返す。
こんな曖昧な書き方でも割りと動作が成立するのです。簡単なのですよ!」
フリップを取り出して、笑顔で手順を説明してくれるメグさんだが……。
この文章、動作の中で他の【マクロ】を参照していますよね?そして間違いなくそちらの記載の方が情報量もてんこ盛りですよね?
さすがに最適解で目的地に移動しろ!とだけ書いても【モーションアシスト】さんはそこまで万能じゃないし、戦闘に関してもそう。ボクの使った«ガゼルフット»みたいな条件付きの行動指定がもっと詳細に山のように連なった【マクロ】になっている筈だ。
そして、肝心なそれらの【マクロ】はーー。
「あっ、«自動移動»と«自動戦闘»は有料なのです。私から買って欲しいのです!」
「やっぱりね!買いますよ!ちなみに利用する職業は不問なんですか?」
「大丈夫なのです。所持しているスキルに合わせて自動で使ってくれるのです」
「これからの戦闘ってみんな«自動戦闘»を使ってきますよね?これってゲームなんですか?」
「これからの【フォッダー】はシミュレーションゲーム!最適な行動を指定した【マクロ】を作って相手を超える自動化で勝利!最高のゲームなのです!」
「なるほど!ゲームジャンルが変わっただけですね!」
とりあえずメグさんの作った【マクロ】は実質的に«自動戦闘»が本体なのだろう。早速その性能について確かめるために、【闘技場】に入って戦ってみた。
ボクは手動でメグさんは自動なのだけど、やはり自動化された戦闘は相手の行動に対してほぼタイムラグ無しで対応できるようで非常に手強い。ボクが【テレポート】で後ろに回り込もうとすると、その瞬間に振り返って反応してくるし。かと言って待ちの戦術なのかというとそんなこともなく、こちらが動かないと積極的に攻め込んでくる。
横に飛んで避けようとすると、初動の時点で反応してモーションを切り替えてくるし、積極的に【空神の加護】を乗せるために頭上から狙ってくる。
【ファイアエンチャント】で炎属性に変えて攻撃を無効化しようとしたら即座に武器を切り替えて攻撃してくる徹底っぶり。
距離を取ったら«疾風迅雷»の類似【マクロ】で即座に詰めてきて«五月雨突き»か、あるいは装備を切り替えての〈無限投擲〉を利用してくる。
AWP-002さんなんかよりもよっぽどAI的でかつ反射神経が極まった行動をしてくるので非常に厄介なのだけど、しばらく戦ってるうちに見えてきた事もある。
やはりというべきか仕方ないことなのだけど、同じ状況では同じ行動しか行わないのだ。
その癖を見つけてしまうと後は簡単。相手はこちらの初動を見て行動してくるようだけど、逆にこちらは相手の動きを見る前に行動が読めてしまう。
それから反射神経が抜群であっても回避できないタイミングで攻撃してしまえば関係ない。
バックステッポで後ろに下がり、メグさんが放った攻撃を【守護錫杖】で相殺しつつ【ソウルフレア】で反撃する。【オフセット】の効果を持つ【守護錫杖】はアイテムだから【オートユーザー】を使えばノーモーションで発動できるのだ。
当然だが無動作で唐突に放たれるスキルに対して«自動戦闘»では対策する事は出来ない。【モーションアシスト】による先読みは相手の【モーションアシスト】を読み取る事によって行われるので、最適解を問わずに呼び出されたスキルに対しては見てから対応する以外の術が無いのだ。
あるいは«ガゼルフット»と同じく攻撃の脅威度に対する優先順位の選択も苦手らしく、【アンプルアロー】を連射して追い込んでいくと、わざわざ脅威度の低い矢を避けてボクの【ブレイズスロアー】に命中してしまったり。
これらの欠点は【マクロ】による指示次第である程度改善していく事ができるだろうけれど、同時にどこまで行っても付いてくる問題でもある。
AIと【マクロ】。一見非常に類似しているようだけど、AWP-002さんは情報を収集しつつ戦闘の精度を段階的に引き上げていくのに対し、【マクロ】は戦闘中に成長していくことはできない。やっぱりなんだかんだ彼はすごかったんですね。
マクロその9 『自動戦闘』
攻撃や回避など、ありとあらゆる行動を自動的に行ってくれる【マクロ】です。一見すると«ガセルフット»の上位に見えますが、使い勝手としては主導権が自分にあるか、全面的に【マクロ】に任せるかで異なりますね。
マクロその10 『自動移動』
行きたい場所に行くための移動経路を導く【マクロ】です。壁などを避けてうまい具合に目的地まで向かってくれるみたいですけど、さすがに【コールグループ】などの特殊なショートカットは考慮してくれないみたいですね。【ギルドハウス】のワープや【ホームリターン】は使ってくれるみたいです。
マクロその11 『自動狩り』
自動戦闘と自動移動を組み合わせて全自動で一日中稼いでくれる【マクロ】です。VRMMOなので、本来なら【マクロ】で自動化してもログインしてなきゃいけないので意味がないのですが、〘リアルステーション〙を使えば話は別。とんでもない所でシナジーしましたね。