第15話 サブ職業
「……は!」
気がつくと、ボクは【ディスポサル城下町】の噴水前にいた。石畳に跳ねる噴水の水滴が朝日にきらめき、負けイベント直後とは思えないのどかな城下町だった。
周囲を見渡したが、明日香さんもゆうたさんもいない。死亡したときの復帰地点は、いちばん近くの街のランダムな位置だから、おそらく別の場所にいるのだろう。ボクだけが死亡してしまった可能性も考えられるけど。
卍荒罹崇卍 >みなさーん、生きてますかー?
ゆうた >いや、だめだ。街にいる
屠神 明日香 >私も……負けちゃったみたいです……。
やっぱり全員やられてしまったらしい。とりあえずチャットで話すのもなんなので、一度集まりましょう。
「お疲れさまでしたー。いやー、こてんぱんにやられちゃいましたねー」
「お疲れさまでした……。えっと……最後のスキルってなんだったんでしょう……。急に視界が真っ暗になってしまったんですけど……」
明日香さんは肩を落とし、足先で地面をすりながら小さくため息をつく。煽情的だった声音も鳴りを潜めている。
「最後のスキルだが……あれは睡眠魔法だな。一発で全員、眠らされてしまったらしい」
詠唱時間は20秒といったところでしたね。それで3人とも眠らされてしまった、と。
「プレイヤー用のスキルや装備にも睡眠の妨害はありますけど、普通はそこまで確率は高くないはずです。それが3人も一発で眠らされるとなると……」
「確定睡眠、といったところか。睡眠状態にはいくつか対抗策があるが、1人でも目を覚ましていることが前提となっているからな。今回に限っては難しい」
ゆうたさんが言っているのはあのスキルのことだろう。視聴者さんが置いてきぼりにならないように解説を挟んでおく。
「まず、妨害を治療する【ビショップ】のスキル【キュアバレット】。これは通称『任意発動型』と呼ばれるスキルで、詠唱してしまえば5回まで任意タイミングでの発動が可能です。下位スキルの【キュア】はこれのコンパクト版ですね」
【キュアバレット】
[アクティブ][5回][投射][聖属性][回復][魔法]
消費MP:12 詠唱時間:20s 再詠唱待機時間:30s 効果時間:20m
効果:[キャラクター]の[妨害]を[1つ][回復]させる。この[効果]は[詠唱後][5回]まで[任意]の[タイミング]で[発動]できる。
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>詠唱時間長すぎて草
>20秒かけて5個しか治せんのか
>20分間は使わないで溜めておけるから競技以外では強いよ
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「コメント欄でも言われている通り、事前に詠唱しておけば非常に便利です」
とはいえ睡眠に対する対策としては完璧ではあるが必須であるとはいえない。
「睡眠状態は攻撃を受けることでも解除されます。だからわざわざ【キュアバレット】を使わずとも対処しやすい妨害なんですよね——全員が眠らされなければ、ですが」
はっきり言って全員が眠らされるというのは、なかなか想定できない事態だ。1体対象のスキルであれば付与確率が高いこともあるが、複数体を対象にするスキルであれば成功しないのが常と言ってもいい。
「一度かかった妨害に対して一定時間の耐性が発生する『抗体』というシステムもありますし、やはり全員が眠らされるということはあまり想定されない事態。よって対策も限られると思いますね」
解説を終えると、コメント欄ではさまざまな意見が飛び交った。無効化用の耐性装備を確保するというのが最も単純かつ有力な案だが、睡眠効果の発動直前に【キュアバレット】を発射すれば、着弾までのタイムラグによって使用者が眠っていても妨害を解除できる、なんて案もいただいた。力技ですけれど、そういうのもアリですね。
「やはり耐性装備を手に入れるのが無難か。【パーティ】の最大人数である6人分をどこかから仕入れてこようと思う」
「でしたら……私は……レベル上げをしてきます……」
「じゃあボクはスキルの取得をしてこようかな。サブ職業もそろそろ選んでおきたいなーって思うし。あとはメンバーの拡充も必要ですね」
「1人だけサポート役のプレイヤーの見当をつけている。勧誘しておくから、そちらでも候補のプレイヤーがいたら誘っておいてくれないか?」
「わかりました!では、いったん解散としましょう」
そしてボクたちは別れ、それぞれの役目を果たしに向かう。ボクの場合はスキルの取得だ。
実は【メイジ】の職業レベルがつい最近上昇し、新たなスキルを取得できる状態なのです。
「というわけで、やってまいりました。【神殿】です。ここでは職業の変更やスキルの取得ができます!」
【神殿】は真っ白い壁に覆われた厳かな場所で、【フォッダー】のいろんな街にまったく同じ建物が存在している。
中央には巨大な神っぽい像があり、これに祈ることによって専用の操作画面が現れる。
「神様、お願いします!スキルくださいー!」
と、適当に祈りを捧げると【メイジ】のスキル取得画面が現れた。ボクは即断で、以前から目星をつけていた炎属性魔法を取得する。
「今回取得したのは【フルバーニング】という命を燃やす系の範囲魔法ですね!今まで後回しにしてたんですが、この前の狼たちとの戦いで範囲魔法の重要性を思い知らされました。この魔法があれば、狼どももネームド以外は一撃ですからね」
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>まーた卍さんが炎属性魔法を覚えたのか
>フルバーニングって産廃スキルのエースだったような……
>クソみたいな自爆スキルだからな
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「ネガキャンやめてください!!【フルバーニング】は最強ですよ!!自分を中心に周囲を炎で燃やし尽くす魔法という都合上、前線で使わないと敵を巻き込めないとか、そもそも味方が一番巻き込まれるとか、さらに言えば炎属性耐性がないと確定で自分も巻き込まれるとか、そんな事実はありませんから!!」
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>まごう事無き糞魔法じゃねーか!!
>誤爆無効っていうパッシブを使えばフレンドリーファイアは無くなるけどね
>酷すぎる……命を燃やすなら威力自体も高いんだよな……
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「【フルバーニング】の最強っぷりがわかったところで、次に行きましょう。次は念願のサブ職業取得ですね!」
今までは【メイジ】のレベル上げを重視してメイン職業のみで戦っていたが、サブ職業を取得するとやれることが一気に増える。めりいさんも複数の職業を組み合わせて効果的な戦いをしていたし、これを機にボクも【メイジ】の運用に最適な職業を選ぶ予定だ。
とりあえず再び適当に祈って職業選択画面を開く。
「【ナイト】、【ビショップ】、【メイジ】、【シャーマン】、【サイキック】…………えっと、ノリで来ちゃったんですけど、【メイジ】にぴったりの職業ってどれなんですかね?」
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>事前に考えてきてねーのかよ!
>そりゃ魔法職なら同じ魔法を使う職が安定でしょ
>近接重視ならナイトという手もある
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「だってどれもピンと来ないんですよねー。どうせボクは炎属性の魔法をメインにして戦っていく予定ですし、耐久を高める【ナイト】や補助面で有効な【ビショップ】というのも悪くないのですが……やはり火力を追求したいというか」
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>ご覧ください、これが火力の暗黒面に堕ちたメイジです
>そんなに火力上げたきゃダブルメイジでもしてろ
>↑そういうのできるの?
>できるよ、特定の職業で使えるスキルを網羅したいって場合は選択肢に入る
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「ダブル【メイジ】なんてもってのほかですよ!だってもうめぼしい炎属性魔法ないですもん」
視聴者の意見を次から次にはねのけていくが、かといってサブ職業を決めないわけにもいかない。
「……決めました。ここは視聴者さんに頼ることにしましょう。コメント欄に『すたーと』と書き込みますので、そこから5つ下の職業を選びますね」
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>ぶん投げてきたな
>メイジ
>バード
>サイキックいいよ
>ナイト
>すたーと!
>何選んでも直接炎属性の強化はできないけど、何選んでも外れにはならないからな
>アサシン
>アーチャー
>バード
>アイテムマスター!!!
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