ブッシュドノエル
完全に空想なので、実際にブッシュドノエルにこのような伝説はないことを予めご了承ください。
ノエルとステラは王室育ち、幼少期から友達同士のお嬢様です。2人は隣国で育ちましたが、小さい頃から両国の交友が盛んで、2人はよくお互いの国を行き来しては仲良く遊んでいました。
ノエルは活発で太陽のように明るい女の子で、「生命の誕生」を最も素晴らしいこととして慈しむ、バース王国の次世代執権者でした。
一方、ステラは星のように静かに輝く女の子で、「星や月」を神と同等の存在として崇め奉る、スター王国の次世代執権者でした。
やがて2人は成人し、皇位継承の時期がやって来ました。ノエルとステラは、それぞれ生まれ育ったバース王国、スター王国の姫になりました。お互いが姫になってからは、公務が忙しくなり、なかなか会えずにいました。
そんなある日、ノエルの元に小包が届きました。
「あら、ステラからだわ」
中を開けてみると、美しいリップが1つ、そして手紙が1枚入っていました。
"Dear ノエル ごきげんよう。貴方に出会えて幸せでした。このリップは私とお揃いのもので、貴方を幸福へと導いてくれるわ。私だと思っていつもそばにおいてください。Your friend ステラ"
まるで一生の別れのような手紙を突然貰ったノエルは、何が何だか状況が分からず、ただ呆然としてしまいました。そしてようやく頭が働き出した頃、じわじわと悪寒がしました。
「ステラに何かあったのかもしれない」
そう思ったノエルはお母様にお許しを貰って、ステラが治める隣国のスター王国へ行くことにしました。手紙の通り、リップは握りしめて持っていくことにしました。
徒歩でもすぐに着く距離にあるスター王国は、何やらお祭り騒ぎ。国の中心部にある教会には、人だかりができていました。ノエルが教会まで走っていくと、辺りの人々は一斉に声を上げました。
「あ!!あれはノエル姫!!なぜこんなところに!?!?」
護衛の者たちも囲いを作ろうとし始めました。
それを押しのけてノエルは教会に響き渡る大声で叫びました。
「わたくしは隣国のバース王国を治めるノエルよ!!この国の姫、いいえ、わたくしの大親友、ステラに会わせてちょうだい!!彼女は一体どこにいるの!?」
すると守衛の1人が耳打ちしました。
「…ステラ姫なら、あそこに…」
指さした先を見ると、教会のなかで一番目立つ、大きな大きな天秤の片方に、ボロボロになったステラが横たわっているのが見えました。
「ステラ!!」
変わり果てた友人の姿に、涙を堪えきれず泣き叫びました。
「来るな!!それ以上近づいたらこいつの命はない。」
突然邪悪な声が聞こえました。天秤のもう片方に誰かがいます。
よく見ると顔は猛獣のように牙が鋭く、例えるなら狼が二足立ちしているような生き物でした。
「俺は元々人間だ。だがな、ある日突然こんな姿にされちまったんだ」
「何が"星や月は神様"だ。俺の両親は星の位置と月光を頼りに航海に出たら、遭難して死んだんだ。だからそんなもんは信じねぇ。とにかく元の姿に戻って復讐してやる!!」
「この小娘…ステラと言ったか。てめぇのような王族の血を飲めばこの身が復活するとどこかで聞いてだな…ちょうどいい、試してみようか…」
「冗談じゃないわよ…!!ステラは私の友達なのよ…!!指一本も触れさせないわ!!」
その声に気づいたステラがかろうじて声を上げました。
「ノエル…聞いて…この狼さん…元はきっと善良な国民よ…私が今ここで死んで…その血液を飲めば…他の国民に危害を加えたりは…しないわ…」
「でもステラがいなくなるのは嫌だわ!!」
「ノエル…」
そしてノエルは狼の方に向き直って言いました。
「貴方さっき、王族の血を飲めば復活すると言ったわね。」
「わたくしは…バース王国の姫よ。」
そう言うと、手に持っていたリップが光り出し、みるみる形を細長く変えていきました。やがてそれは1本の剣になりました。
「スター王国の未来は貴方に任せたわ。バース王国とも仲良くやるのよ。そして、私の一番の友達でいてね」
「親愛なる、ステラ」
矛先を、自分の胸へ刺しました。
12月25日。各家では、両国を救った勇者を讃え、ブッシュドノエルを頂くのです。