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24.合体

 スライムを探しながら、ダンジョン踏破へ向けて地下道の中をひた歩く。


「思ったよりショボいなぁ~、スマホのライトよりちょい明るいくらいじゃないか? これ」


 自身の周囲を漂う光の球を見ながら、カオルがそう呟いた。その言葉に、僕は今まで完全に頭から抜け落ちていた機械のことを思い出した。


「そうだよスマホ! それがあった! 今は持ってないの?」

「あ~残念だが、ラボに置きっぱなしだ。この世界で電力が確保できるか分からなかったし、万が一のハッキングにも備えて、不用意に持ち出すのは避けていたんだ。まあ実態は電力以前の問題だったが」

「そっか……なら仕方ないね、このまま行こう」


 確かに、スマホは便利だけどバッテリーが切れては元も子もない。

 前の世界では、彼女の発明によって世界中の発電に革命が起こった。でもそれは大規模な機構の話であって、小型のパーソナル端末などの蓄電システムはあまり進化しなかった。スマホの平均的なバッテリー容量を考えると、彼女の判断は正しいと言える。


(それにハッキング……はは、耳が痛いな)

 僕はラボに潜入した時のことを再び思い起こし、少し頬をかいた。――それはそうと、この世界でハッキングを行える相手はどれだけいるのだろうか。


 一番疑わしいのは……元老院。いつの時代から転生してきたのか、何人いるのかは分からないけど、こちら側の機械のプログラムを理解できる可能性は高い。そして、ギルドにあるあの水晶、もしあれが元老院によって作られたのだとしたら、彼らは魔法という、デジタルでもアナログでもないやり方でネットワークを構築・干渉できるということになる。

 カオルの発明品はこの世界で生き抜くための切り札になると思ったけど、相手によっては最大の弱点になるかもしれない。


(元老院そのものが敵か味方かハッキリしない以上、カオルの言う通り、不用意にスマホを使うのは危険か)

「あの~、スマホとは……?」


 僕の不安は、マルカの発するのんびりとした疑問によって収まっていった。

 少女を置いていくことなく、カオルがフォローに入る。


「なんて言えばいいのか……そうだ、ラボで薄い板みたいなのを触っただろう? スマホはそれを小さくしたものだよ」

「ああ~! ユウくんがいっぱい映ってたアレですか! 小さいのもあるんですねえ」

「アッ、ウン……ソウダヨ……」


 カオルは質問に答えると同時に、盛大に墓穴を掘った。恐る恐るこちらを振り向く彼女とあえて目を合わせないようにして、僕は先を急ぐフリをする。


「ま、待ってユウくん。その、本当に魔が差して……」

「大丈夫、気にしてないよ」


 セクハラばかりの淫魔に灸をすえるため、わざとツンとした態度を取ってみせた。

 涙目で後をつけてくるカオルを見て、少しゾクゾクしてしまったのは内緒。



 ~~~~~



「別れ道が多いな……ここは本当に初心者向けのダンジョンなのか?」

「普段はモンスターがいないというだけで、構造自体は難易度が高いのかもしれませんね……」

「シッ! 2人とも静かに」


 またも汗だくになりながら中を進んでいると、暗がりの向こうで何かが(うごめ)いている気配を感じた。

 奥を指差し、カオルに「あそこを照らせない?」と聞くと、彼女は少し戸惑った後、意識を集中させるかのように手をかざし、闇の中を見据えた。


 それを合図に、光の球は空中を泳ぎながら奥へと向かい、地面を這い回る軟体生物を照らし出す。

 やはり奴は、あの瓦礫(がれき)の下を脱出していたらしい。

 とうとう僕たちは、探し回っていたけれども、できれば見たくなかったモンスターとの再会を果たしてしまった。


「スス……スライムです!」

「よっしゃあああ! ここであったが百年目! お姉さんの威厳を失いかけた恨みを晴らしてやる!」


 カオルは意気揚々と尻尾を振り伸ばしながら、目前の仇を打ち倒すべく駆けていく。


(まずいな、ここじゃ危ない)

 こんな狭い道で触手を出されれば、一網打尽になるのがオチだ。

 僕はカオルを落ち着かせるため、顔の前でヒュンヒュン唸っていた尻尾を掴んだ。


「ひゃううんっ ちょっ、どこ触ってるのユウくん!」

「こ、このままじゃ危ないから、場所を変えよう」


 彼女の予想外に甘い声を聞いて、僕は思わず顔が赤くなった。だけどすぐにそれを隠し、もっと広い場所で戦うように彼女を(なだ)める。


「そ、そうですよ、一旦引きましょう」


 マルカも僕と同じように彼女を(さと)す。そして最後にボソッと、「カオルさんの今の声、かわいかった……」と漏らした。


 少しきまずいやり取りが終わった瞬間、スライムは敵を認識したのか、あの時と同じように2本の触手を見せ威嚇した。


「くっ……」


逆に、カオルは光を自分の側に戻し、来た道を振り返る。


「覚えてろー!」


僕たちは三流悪役のサキュバスを連れて、壁に開いた部屋を探して走り出した。



 ~~~~~



「部屋は……部屋はどこだ……」

「あっ! ありました! 部屋!」

「でかした!」


 触手に追いかけられながら、ワーワーと道を引き返していると、壁面に大きな穴が開いているのが見えた。

 3人揃って息を切らしてそこに入り、それぞれで己の武器を構える。


「せめて、自分が今どこにいるか分かればやりやすいんだが」

「ここまで入り組んでいるとは思わなかったもんね。――来るよ!」

「今度はこっちが先手を打つぞ!」


 ズリズリと這う音が近くなっていく。間違いなく、スライムはこちらを認識して追いかけてきている。


 入り口の方に青いシルエットが現れるや否や、カオルは再度突進した。


 しかしスライムは突然跳ね上がり、彼女の、そして僕とマルカの頭上を越えて、部屋の中へと飛び込んできた。さらに、僕たちには目もくれず、奥へと無我夢中で這っていく。


「え……」


 咄嗟に目で追い、スライムが向かった先を注視する。そこには、先程まで奴を封じ込めていた瓦礫の山があった。

 ずっと走っているうちに、僕たちは元の場所に戻ってきていたんだ。


「な、何をしているんでしょう……」


 マルカの声で我に返り、スライムの様子を観察する。

 奴は、自分が入っていた瓦礫を必死になって退()けていた。


「なぜ今更……だが、これはチャンスだ。ここで仕留める!」


 カオルも相手の行動を不可解に思っていたようだけど、先手必勝とばかりに突っ込んでいく。

 でも、途中で急ブレーキをかけて止まった。

 その理由を探ろうと、僕は瓦礫の下へ視線を移す。



 ――そこでは、広がった水のような液体と、その中心にある赤いコアがぷるぷると震えていた。



「そういうことか……スライムは『2匹』いたッ!」


 一匹がある程度の瓦礫を取り除くと、もう一匹は完全に元の形を取り戻し、ペアを作って隣に並んだ。


 2匹が同時に触手を出すのを視界に捉えたカオルが、一気に後退し、僕たちの前へ戻ってくる。


「これはヤバいかもな……ユウくん、マルカ、もしもの時は私が(おとり)になるから、さっきみたいに頼む」

「了解」

「そんな、囮なんて……いえ、分かりました。」


 現状、それが最善策だった。逃げてもスライムは追ってくる、なら倒すより他に無い。カオルが囮となって触手を押さえてくれれば、少しは勝率が上がる。


「さあ、存分に触らせてやるぞ。いつでも来い!」


 カオルが覚悟を込めて2匹を(にら)む。

 だけど、伸ばされた4本の触手はカオルには向けられなかった。


「……あれ?」


 苦笑する彼女の前で、スライムたちは何やら珍妙な動きをしだす。


 一度外側に向けた手を上から回しながら、互いに近寄ったかと思えば、平行になった手を横に動かし、もう一度外側へ向ける。そして今度は触手同士を合わせるようにして、互いの間に円を作った。


(この動き、見たことがある!)

「嘘だろ……まさか……」

「えっ、なに⁉ まさか(なん)ですかカオルさん⁉ 」


 カオルも何かを察していた。絶対に、これはヤバい。

 慌てふためくマルカの前で、2匹のスライムの体はどんどん繋がっていき、そして大きくなっていく。


「こいつら、合体(フュージョン)しやがった!!!」

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