10.冒険者デビューとパーティー結成
「それにしても、旅人とは珍しいですねぇ。今どきなかなか聞きませんよ」
「ハハ、私たちが住んでいたところにはギルドが無くてね……」
マルカと雑談をしながら森を進む。カオルはどうにか話を合わせてくれているけど、どこかでボロを出さないか心配だ。
「おっと、このゴブリンも。回収し忘れるところでした」
道の途中、マルカはそこらに転がっているゴブリンから耳を剥ぎ取っていた。
「その耳はどうするの?」
「これが討伐の証拠になるんです。ただ報告するだけならいくらでも嘘がつけますから」
「……ああそっか、ちゃんと証明しないと分からないもんね」
僕がミッションをこなすときは常にドローンや衛生で監視されていたから、ついその感覚で考えてしまっていた。この世界では任務完了の証拠をしっかり自分で提示しなきゃいけないんだ。
~~~~〜
「さぁ着きましたよ! ここがアグトスの町です!」
しばらく歩くと森がだんだん開けてきて、そこには明るい町並みが広がっていた。
レンガ造りや石造り、木造の建物が立ち並び、どの方向からも賑やかな声が聞こえてくる。
「これは……時代が入り乱れているように見えるな」
「うん。でも、どれも昔って感じだよ……」
「フッフッフ……よ、喜べユウくん。どうやら君が憧れていたファンタジーの世界に来たみたいだよ?」
また2人でコソコソと話す。なんとなく予想はついていたけど、これはもう確定だ。
崎谷博士は必死に取り繕いながら、ぎこちない微笑を作った。心なしか、ゴブリンに襲われたときよりも動揺しているように見えた。
「いい町でしょう? それじゃ、早速報告に行きましょうか」
こちらの事情なんて知らないマルカは親切に案内してくれる。僕たちも、ひとまず彼女の後を追うことにした。
町中では、ところどころ入り口に看板の付いた建物があって、武器屋だとか宿屋だとか書かれているのが目についた。言葉だけではなく、文字も僕たちの世界と同じものが使われているらしい。
「あれは漢字か……? この世界では誰が文字を発明したのだろう」
「そうだ、あそこのお店は魚料理がすごくおいしいんですよ。良かったら寄ってみてください!」
マルカは僕たちの様子を気にも留めず進んでいく。彼女からすれば、今の僕たちは町の活気に当てられて浮足立っている田舎者くらいにしか映らないのかもしれない。
「さてさて~、ここがギルドですよ」
町の中でも一際大きい建物の前で彼女はそう言った。例の如く看板が付けられ、『冒険者ギルド:アグトス支部』と書かれているその建物の周りでは、武器や防具を身に纏ったいかにもな人々が往来を繰り返していた。
建物の中も当然ながら冒険者で溢れ、中に入った途端、血気盛んな香りに包まれた感じがした。
だけどそんなギルドの中で一番に目を引かれたのは、どの冒険者でもなく、奥のカウンターで仁王立ちし、威風堂々と睨みをきかせている大男だった。
坊主頭とそれに対比する立派な髭が、筋骨隆々とした体によく似合っている。
「うわっ、見てよユウくん、あのおじさんすごく厳つい顔。なんか近寄りづらいなぁ」
僕と同じく彼を見つけたカオルが、失礼な口ぶりで感想を口にした。でも近寄りにくいのは同感だ。あの人、もしかしたらここにいる中で一番強いんじゃないか、そう思うくらいに重厚感のある「気」を放っている。
にも関わらず、マルカはスタスタと彼がいるカウンターへ向かい、一枚の紙と先ほど採取したゴブリンの耳が入った袋を置いた。
「よう嬢ちゃん! 初めての依頼は無事に達成できたみてえだな」
「はい! まぁ、巻き込んでしまった方々もいるのですが」
「あ? 巻き込んだ……?」
マルカがこちらを振り返り、つられて彼も僕たちを見つめる。カオルが気まずそうに手を振りながらカウンターへ歩きはじめ、僕もそれについていった。
〜〜〜〜〜
「ほぉ~、そんなことが……旅人とはまた難儀なことを。まあ何はともあれ、ケガがねえならそれで良し! そんじゃ、ほら嬢ちゃん、報酬だ」
「はい! ありがとうございます」
事情を聞いた彼は、僕たちのことを怪しむこともなく通常の業務に戻った。マルカが言うには彼がギルドのアグトス支部長をやっているそうで、「冒険者よりも強そうな職員」として有名らしい。
「では、この半分はあなたたちに」
報酬の中身をいくつか取り出した後、唐突に、マルカは銅貨のようなものが入った袋をカオルに差し出してきた。
「え? どうして……私たちは何も関係ないんじゃ……」
「関係ない人を巻き込んでしまったからです。それにゴブリンのうち一匹はユウくんが倒してくれたみたいだし……これはその配分と迷惑料だと思ってください」
「気持ちは嬉しいが、そう簡単に受け取るわけには……私たちが襲われたのはただの偶然だし、むしろこっちがお礼をしなきゃいけないくらいなんだ」
さすがにカオルも遠慮気味だ。僕だって、ここまで案内してもらった挙げ句お金まで貰ってしまうのは気が引ける。
(けどお礼と言っても、僕たちがマルカにしてあげられることって何も無いしな)
「受け取ってもらわなきゃ気が済みません! それにここで引き下がったら私が格好つかないじゃないですか!」
「いやだから……と、というか格好つけたかったのかい?」
一人考える僕の前で、袋が行ったり来たりする。カウンターの前で騒ぐ彼女たちは大いに目立ち、周りの人もなんだなんだと寄って来てしまった。
「姉ちゃんよ、ここは初依頼達成の冒険者様を立ててやんな。どっちにしろその金は誰かが受け取らにゃならねえんだ」
「う……分かったよ……」
しびれを切らした支部長が仲裁に入ってくれた。人だかりの中で呆れ顔のおじさんに窘められるという状況に赤面しながら、カオルは袋を収めた。
ただ彼女にも大人としてのプライドがあるのか、チラチラとマルカを見ながら考えあぐねている。
「だ、だけどこのままじゃ……」
「はぁ、アンタも頑固だなぁ……そうだ、どうしても礼がしたいって言うなら、嬢ちゃんとパーティーを組んでやりゃいい。ちょうど仲間を探してたみたいだしな」
(ああ、その手があったか)
支部長がなかなかに良い提案をしてくれた。カオルが読みを外して予想とは全く違う世界に来てしまった以上、僕たちは完全にゼロからのスタートだ。早々に協力者を得られるのは有り難い。
「なるほど、よしそうしよう! 私たちもただの旅人のままではこの先苦労するだろうし、これからは3人で冒険者パーティーを組もう。うん、それが良い!」
「えぇ⁉ でも、それだとお二人が危険に……いえ、一緒に来てくれるなら嬉しい……ですけど」
「遠慮しない遠慮しない! 駆け出し同士仲良くしようじゃないか! うちにはユウくんという最高に可愛いお供もいるぞ!」
銅貨のお返し、いや仕返しと言わんばかりにゴリ押しでパーティーを結成する。可愛いお供という紹介には男として異議を唱えたい気持ちも無くはないけど、今はとにかくマルカのような親切な人と手を取り合えるのが嬉しい。
「ん? お供って……坊主、お前も冒険者になるのか? いくらなんでもお前は若すぎると思うが」
「大丈夫です! ユウくんはすごいんですよ、こんなに小さいのに一人でゴブリンをやっつけたそうです!」
自分だって戦えるとアピールしようとしていたところ、代わりにマルカが何故か誇らしげに答えた。まあ僕が説明する手間が省けたし、自分で言うよりも彼女が証人になってくれた向こうも信じるだろう。
「へぇ、ガキのくせに大したもんだな。それじゃ姉ちゃんと坊主も登録するから、こっちに名前を書いてくれ」
渡された紙には「冒険者一覧」と銘打たれ、様々な人物の名前が書かれていた。カタカナで記されているものが多く、所々に漢字やひらがなが見える。町の風景は洋風なのに、こういうところはやけに日本式が優遇されている気がする。
(というより、たまたま日本がこっちと同じ文字を使っていただけか)
一番下にあったマルカの更に下に、僕たちの名前を書く。日本人風に書いても良かったけど、先にペンをとった彼女が「カオル=サキヤ」と書いたので、僕も習って「ユウ=サキヤ」と記した。ムッフ―と荒い鼻息の音が聞こえてもそれは気にしない。
「はいよ、これでお前らも今日から冒険者だ。せいぜい嬢ちゃんと仲良くしてやりな」
「あのあのっ! ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!」
こうして途轍もない勢いで、僕たち3人のパーティーが誕生した。




