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パラドクスなんて如何でも好い

作者: アロサウルス

満月の夜、眼下に宝石箱を引っくり返したような煌く大都会を見下ろす、山の上に朧げに光る人影「あの人と逢える」

大都会の片隅

僕の名前は、綾部公太 歳は26才、仕事は大手自動車会社の営業、仕事柄、土日の休みは殆ど取れない。

趣味は学生時代山岳部だった影響で、今でも休みの日には近郊の山へ登山に出かけている。

この日も私は、登山をしていた。ところが下山中に濃い霧に遭い道に迷ってしまった。

日も落ち辺りはすっかり暗くなってしまい、私が途方に暮れていると、霧が晴れて微かに月の光が差し込んできた。そんな時、偶然彼女と出会った。

彼女は地元の人で、この山は庭のような物だと言う、さすが地元だけあって迷わず麓の駅まで案内をしてくれました。

私は、助けてもらったお礼がしたいと彼女に話すと、彼女は最初遠慮していたが、私が「どうしても命の恩人にお礼がしたい」そう説得すると。彼女は微笑んで「解りました、そう仰るのなら、私の方から連絡させていただきます」そう言って、私とアドレスを交換した。

最初は一度きり会う約束だったが、彼女と会って話している内に意気投合し、彼女(菜月)と交際し始めて、もう2年になる。

この日も、仕事を終えて帰宅途中の電車に揺られていると、メールを着信。

開いてみると、3年前に疎遠になって、僕は別れたものと思っていた彼女(栞)からだった。

メールの内容は「長い間連絡しなくて、ごめんね。私の勝手な都合で色々あって連絡できなくて本当にごめんなさい。こんな事言える立場じゃないけれど、もし、公太が許してくれるのならメール下さい」と、言う内容だった。

それを読んだ僕は、何を今さら女々しいにもほどがある、迷惑メールよりたちが悪い、そう思い返信を保留した。

私の住むアパート、都会のウォーターフロントと言えば聞こえが好いが、水際の16階建ての集合住宅にすぎず、最上階からの眺めも最初は物珍しいが直ぐに飽きる。

部屋へ入り、いつものように、シャワーを浴びて夕食を食べながらメールをチェックしていると、菜月からメールが届いていた。

内容はと言うと、いつものように満月の日に逢いたいと言うもの、しかし、この日はいつも会っている湾岸沿いのレストランではなく、都心近郊の山の中腹にあるレストランだった。

菜月との約束の場所へ、電車とバスを乗り継ぎ、山の中腹にあると言うレストランへ向かった。 

レストランに着く頃には、夕陽で空が赤く焼けていた。レストランの中に入ると、彼女は先に着いていたらしくテーブル越しに、私を見つけ笑顔で手招きをしていた。

僕が「待たせて御免ね!」そう謝ると、菜月は「あっ、気にしないで、私もさっき来たばかりだから」と、笑っていた。

いつもそうだが、菜月と会って話をしていると、彼女は殆ど自分の事は話さず、僕の仕事の話や近況を嫌な顔を一つ見せず、微笑みながら聞いてくれている。まあ、僕もそんな彼女に個人的な事を無理に聴こうとはしなかった。

食事をしながら、いつものように会話をしている時に、栞からのメールの話をうっかりしてしまった。すると、彼女は少し際しそうな顔をして俯いてしまった、慌てて僕は「あぁぁ、つまらない話をしてゴメン!」僕が謝ると、彼女は全てを悟った様な微笑で「うんうん、全然気にしていないよ」と、その直後

ケイタイの地震速報が、けたたましく鳴り響き、ぐらぐらと次第に激しく揺れ始めた。

僕たちは素早くテーブルの下に入り、揺れが収まるのを待っち、レストランの店長の誘導で非常口から外へ避難した。

外へ出ると、停電していたが、幸いにも満月の月明かりで周囲の様子が良く分かった。

凄まじい揺れで、道路はアスファルトがひび割れ、電柱が傾き所々で落石が起きているのも確認できました。

僕が、この場所に留まっていては危ないから、とにかく麓まで降りることにしようと、菜月の手をとり、麓までひび割れた道路を、月明かりを頼りに歩き始めました。

1キロほど歩くと、谷合に掛かる斜張橋が見えてきた。橋そのものは地震に耐えた様子だったので、僕たちは渡ることにしました。

橋の中ほどまで歩いてくると、突然、激しい余震が襲い斜張橋は水あめの様に大きくうねり傾いた、その時、菜月が僕に抱き着き「怖がらないで、大丈夫」そう聞こえた瞬間、眩しい閃光に包まれ、僕は宙に浮いているような感じがした。

そして、頭の中に電気が走るよな気がしたかと思うと、幼い頃からの記憶が走馬灯のように駆け廻り、意識が遠のく一瞬、菜月の声が「私は、月に導かれてやって来たの、寂しがらないで直ぐに会えるから、パパ・・」

それから、どれくらいの時間が経ったのだろうか、白い霧が徐々に消えてゆくように目を開けると、微かに人の顔のような物が見える、誰かが私の顔を覗き込んで「綾部さん」と、何度か声を掛けながらペンライトで照らしているようだ。

暫くして、完全に意識の戻った私は、自分の周囲を見渡そうと頭を動かそうとしたが首がとても痛くて、思うように見られなかったが、僕は病院のベッドに寝かされているのが分かった。

ベッドの脇で、僕の腕に点滴を調整していた看護婦さんに「すみません、水をください」そう言うと、看護婦は驚いた顔をして「綾部さん、奥さん、ご主人の意識が戻りましたよ」そう聞こえた、奥さん・・?

僕は、赤ん坊を抱いた栞に、今まで起きた事を話すと「呆れた顔をして、あなたね、私たち結婚して3年になるのよ」その話を横で聞いていた看護婦は口を押えて笑っていた。そして「あなた、半年前に山で遭難して、偶然に沢登りをしていた人達によって、奇跡的に発見されて、今まで意識不明だったの」

どうやら僕は、山で遭難したショックで記憶喪失になったようだ。栞が抱いている赤たんのことを聴くと「あなたが、入院している間に生まれたの、名前は生まれる前に性別が分かっていたし、出産予定日が菜の花が咲く季節で、ちょうど満月の日と重なるので菜月と、二人で決めたでしょう」そう話すと妻は笑った。

栞が「ね~困ったパパですね」そう言いながら、僕の顔の側まで菜月を近づけてる来るので、僕が「菜月」と、娘のおでこに手を当てると、頭の中を電気が走り「直ぐに会えると言ったでしょう・・パパ」

夜空には、満月が煌々と輝いていた。


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