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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第三章:過去辿りと激動の35日目
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記憶の終わり

もう両目がないから、昔のように暗闇だけが私の前に広がっている

その中で、腹を貫く鋭い痛み

五感のほとんどを神堕としで失った私には、その痛覚は鋭く鮮明に私の意識をかき乱した

その痛みと共に意識を手放してもよかった

けれど、私にはまだやるべきことがある


雪霞様、と呼ぶ声に向かって手を伸ばす

癒さなくていい。私はお前の与えてくれたものをすべて手放す覚悟でこの場に立ったのだ

それを手放した私に、彼女に癒される権利はない

それでも身体が少しずつ軽くなっているのを感じる。ああ、彼女はこんな私でも、治そうとしてくれているのか


本当に、申し訳ない。お前にこんな苦を強いて・・・私はもう、こうすることでしか彼女に何も返せない

だから、最期に私はお前のお役目を終わらせると・・・・・


「まだ生きていらっしゃるのですか、義兄様。早く死んでもらわないと困るのですよ」

「・・・なぜ、ですか。貴方が今この場にいるのですか!」

「なぜって・・・神宮から直々に、義兄様を殺すように依頼されたからです。鈴、お前が憑者神でなくなる前に」


ああ、なるほど。私の中ではすべて答えが繋がった

神宮が儀式の順番を変えたのも、この場に修治を呼んだのも・・・すべて

元より死ぬかもしれないと言われているから私自身、死ぬ前提で考えていた


しかし、その前提は間違っていた

私は儀式で命を落とすものと考えていた。この出血だ。きっと失血でと頭の中では思っていたのだ

しかし、実際は神宮の手にかかり、命を失うのだ

修治は私を容赦なく殺せる人材として召集されたのだろう。私に恨みを持ち、なおかつ消えることを願っている人間など、義弟と継母ぐらいしか思い当たらない


しかし、なぜ神宮は私を殺すのだろうか

鈴の憑者を落とす前に殺さなければならない理由までは、流石にわからなかった


「竜胆様。貴方には神に至ってほしいのです」

「神へ、とは?それよりもなぜ、雪霞様を・・・・!」


宮司が鈴へ理由を説明してくれている

私は意識を集中させて、その会話に聞き耳を立てた


「花籠様は供物なのですよ。貴方の一番大事な人物は彼でしょう?」

「・・・だから、なんなのですか」

「彼が死ぬような危機に陥れば、貴方は力を最大限に使うと予想しました。竜胆様は歴代の憑者神の中でも大きな願いを抱き、強大な治癒能力を持つ。貴方であれば・・・もしかしたら」


鈴の小さな悲鳴が聞こえる

それでも私を守るように、彼女は私の手を握って傷を癒し続けていた


「彼が死んだとき、貴方は彼を蘇生できるのか・・・気になりましてね」

「・・・ただ、それだけの為に?」

「はい。その為にです」


信じられない。信じたくない

それだけの為に私は殺されて、鈴は憑者神としての運命を強いられる

こんな馬鹿馬鹿しい、私欲にまみれた話があっていいのか


「人を蘇生できれば、憑者神は紛い物の神ではなく、真の神に至れると考えたのです」

「あ、ああ・・・・」

「さあ、竜胆様。もうすぐですよ。彼は死にます。どちらにしても代償で助かることはありません・・・治癒はもう意味がないのですよ」


その言葉を聞いて、彼女の動揺が手のひらから伝わった

暖かい感触が消える。彼女の治癒が消えたのだろう・・・それほどまでに、その言葉は彼女の心をかき乱す

それでいいのだが・・・これから起こることだけは止めなければならない

私はまだ、死ぬわけにはいかない

けれど自分の限界も理解している。だから、最期に、やるべきことを


「く、う・・・・・」

「雪霞様?」


自分の身体を必死に動かして、彼女の尾を掴む

私の最期のお役目を、続けよう。続けなければ・・・せめて、私が死ぬ前に彼女をお役目から解放しなければ・・・!


「・・・おやくめ、だけは・・・おわらせる」

「・・・修治」

「はい。宮司様」


宮司の声掛けで、再び修治が矢を射る

それは次々と私の背に刺さる。痛みが走る。それでも、それでも・・・


「すず」

「・・・雪霞様!」

「・・・おもいどおりに、させて、たまるか」


尾を抜こうとする。しかし力が全然入らない。それでも私は必死に歯を食いしばってそれを抜こうとする

しかし、その尾は拒絶するかの如く微動だにしなかった


「修治、とどめを」

「はい」


そして、その声を合図に、その矢は私の胸を貫いた

手から力が抜ける

手だけではない。全身から力が抜けて、私の身体は血だまりの中に落ちてしまった


「雪霞様!」


鈴がすぐに私の身体を持ち上げてくれたから、血の海でおぼれることはなかった

しかしぎりぎりそれているとはいえ、心臓付近を射抜かれたからには、もう・・・

私が、最期のお役目を果たすことはもう、叶わない


「す、ず・・・」


瞼の裏に焼き付いた、彼女の姿を思い出す

青緑色の、美しい髪を持つ少女

幼少期は本当におかしなことばかりしていたけれど・・・言い聞かせればきちんと理解を示してくれていた

献身的で、常に私を案じてくれていた優しい少女

私のせいで、不幸にしてしまった少女

これから先、終わらない業を背負わせた少女


こんなことになるぐらいならば、あの日私は、お前に出会わなければよかった

そしたらもっと、違う人生があったかもしれないのに


「・・・ごめん、な」


沢山の物をお前は私に与えてくれたのに、私はお前に何も返すことができなかった

憑者神から人に戻してやることも叶わなかった


だから、私は最期にこれだけは成していこう

・・・お前に向かう、これからの不幸は全部私が持って行こう

そして「あるもの」を隠した場所を示す場所を伝えよう


最期の神語りを、実現させる


鈴に懐へ忍ばせていた一枚の紙を押し付ける

その紙に書かれている場所に眠る「それ」は誰よりも大事で、これからも一緒にいたかったお前へとできる

私の、最期の恩返しだ


今まで誰も知らなかったお前の出生は神語りで調べあげた。その秘密をかつて出会った場所に隠している

それはきっと、この村を揺るがす大きな秘密になるだろう

同時に、智に苦労をかけそうだが・・・


力が抜けていく。ああ、もう私は、ここではないどこかへ行ってしまうのだ

鈴、本当に申し訳ないことをした

もう、声にすら出せないから・・・彼女に届くことはないけれど


私と共にいてくれてありがとう


それを言うこともなく、私は・・・・・・・・・・


・・・・・


ぷつり、と音を立てて動画の再生は終わる

途切れた記憶のテープだと、俺はそれを表現するだろう

必要なところだけ鮮明に、後は端折られた記憶の旅路はここで終わる


なぜ、りんどう・・・いや、鈴というのか

彼女目線の記憶が再生されたかはわからないけれど、きっと治癒の力を通して彼女の意識が花籠雪霞と、俺に作用したから起きた現象かと思う


これから、りんどう達がどうなったかは知らない

なんせ、目線であった花籠雪霞はここで死んでしまったのだから、後の事など何も知らないのだ


しかし、確実に言えることが三つある

一つ目は、彼女は憑者神のままであること

二つ目は、彼女が力で花籠雪霞を生き返らせることはなかったということ

そして三つ目は


「・・・俺なら、神堕としで彼女を人に戻せるのだろうか」


見えざるものが見える。声が聞こえる

神語りと呼ばれていたそれは・・・俺の隠していたい特殊体質と同じ

相違がなければ、俺が持つこの不快な力は神語りであり、彼女を人に戻せる唯一の方法のかもしれない


もし、彼女が望むのなら・・・俺はは神堕としをしてあげたいと思う

きっと、昔の俺もそう願うだろうから


俺は振り返って、元来た道を歩き出す

早く現実に帰ろう。そして、ここで得たことを話そう

そして今後、どうするべきか話して、実行しよう


色々な事を考えていたおかげで、俺はそれに気が付くことなく、前を進む


そして俺の意識は、来た道を間違えて進んでしまい・・・・


俺が蓋をしていた過去へ―――――――――――――向かっていく

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