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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第三章:過去辿りと激動の35日目
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芽生えた後悔

お役目をこなす多忙な日々は、瞬く間に流れていき・・・

気が付けば、季節は秋になっていた


秋になっても私たちの生活は変わらない

私は神語りを行い、村に関することを神々に聞く

そして鈴たちは憑者として神様と共に村の繁栄のためにお役目に従事する日々だ


今日もまた、私は神宮で神語りを行っていた


「忘れるな、雪霞」

「忘れないで、雪霞」

「危機はすぐ目の前に。どうか、無事でいて」

「・・・わかっている」


神語りの内容はほぼ「夏の神語り」から変わりはない

村に病が流行る事。その原因が私にある事

何もかも、変わらない神語り。変わることと言えば、天気のことぐらいだと思う


そんな神語りに若干うんざりしつつも、私は一息ついて神様との対話を終える

それを見て、宮司が私の後ろで神語りを控える体制となった

今日はなぜか宮司である。神主ではない

・・・若干緊張するが、まあ、いつも通りにしておいていいだろう


「・・・花籠様」

「しばらく秋晴れが続くらしい。急激に寒くなるから気を付けること」

「左様ですか」

「ああ。それと、山の幸が例年以上に実っているらしい。腐り落ちる前に山に採取へ向かってくれ」

「承りました。今日の神語りはこれで?」

「ああ。それ以上の情報はなかった」


病の事は私の胸に留めておく

私の言葉は、私が思っている以上に力がある

私の口から、余計な混乱を与えるべきではないと思って口を噤んだ


「いえいえ。十分すぎますよ。本日もありがとうございます」

「それより、そろそろ秋の祭典の時期だが・・・今年は何を?」


秋の祭典・・・と適当な名前が付いているが、一応この村の唯一の祭りみたいなものだ

・・・収穫祭とも言ってもいい。美味しいものが食べられると鈴が言っていた

私は今まで健康状態が悪かったこともあり、神宮の神語りとしても、一村人としても参加したことはないが、今年こそとは考えている

今年は、鈴の案内を受けながら色々なものを食べて過ごしていきたい

そんな小さな夢が、今年の私には芽生えている


体が元気になったからだろうか。色々とやりたい事が多くなっているのを自分でも感じている

これも何もかも、鈴のおかげだ

ここまでしてくれている彼女に何か返すことができたらいいのだがと常々考えている

・・・秋の祭典の中で、何かお礼ができるようなことがあればいいのだが


「ええ。秋の祭典で、現在お役目を遂行して頂いている憑者神の「神堕とし」を行おうと思いまして」

「神堕とし・・・なにやら不穏な言葉だが、何も問題はないのだよな?」

「ええ。憑者神を元の人へと戻す儀式でございます」

「そう、なのか」


再び人として智と祝、そして鈴と過ごせる

お役目で多忙な生活を送っているため、最近は智と祝にも顔を合わせることができておらず、疎遠になっている

巳芳と錣山とも最近は話ができていない

まともに話しているのは鈴ぐらいだろう・・・もし、三人のお役目が終われば、私はまだお役目が残っているが、前のような生活が送れるかもしれない


それに人に戻る儀式であれば、これまで神として頑張ってくれた鈴に対するお礼にもなるだろうか

聞いてみないとわからないが・・・そうであれば、嬉しい


「ええ。その件で、花籠様には重大なお話が・・・」

「私にか?」

「ええ。神堕としの儀式には神語りのお力が必要となります。そして、その儀式で・・・」

「・・・え」


宮司から聞かされた話は、とてもじゃないが簡単に受け入れられる話ではなかった

それが真実だと思いたくなかった。悪い夢、悪い冗談だと信じたかった

だからこそ、私はもう一度その事実を復唱する


「・・・神堕としの儀式で、私は命を落とすのか?」

「はい。憑者神に憑いている神を、神語りと共に天に帰す・・・それが、神堕としでございます」


もう一度、同じことを宮司は告げる

受け入れなければいけない。これから私自身に待ち受ける運命を

せっかく鈴が治してくれたこの身体を、私は・・・失わなければいけないのか

これでは、何の為に彼女が憑者神に成り、私を治したのか・・・意味が残らないではないか

彼女が治してくれたこの身体で、彼女に、そしてこの村に恩を返していきたいと考えていたのに死ぬことで貢献することしかできないなんて、何も・・・


「・・・もし、もし神堕としをしなければ、今の憑者神はどうなるのだ」

「そうですね、例えば貴方の使用人の三人・・・撫子様こと丑光祝。彼女は人並みには生きれるでしょうが、呪いは血に刻まれ、子孫に憑者神の性質が受け継がれます」

「・・・智は」

「柳様こと巳芳智・・・彼は蛇でしたね。彼は特に影響はないでしょうが、能力の使い過ぎで蛇になられるかも」


呪いが永久に続き、能力の使い過ぎで人から蛇になる

奇跡の代償を痛感し、そして彼らの未来を案じる

そして、何よりも・・・誰よりも私は彼女の可能性が気になった


「・・・彼女は。鈴は、どうなるのだ?」

「竜胆様こと二階堂鈴。龍の特性を保持し、不老不死でこの世を彷徨うことになるでしょう」

「・・・そんなの」


彼女は老いることなく、周囲だけが老い、彼女を置いて逝く

時が止まった彼女の理解者などいないだろう。ずっと独りぼっちになってしまう

そんなの、ただの地獄ではないか


「・・・私が、あの時大人しく死んでいれば、鈴をこんな目に遭わせることはなかったのか?」


鈴だけではない。智も、祝も・・・そして今代の憑者神たちも

誰も憑者神になることはなかったのだろう

私のせいだ。私の、せいで・・・彼らにとんでもないものを背負わせてしまった


「後悔していらっしゃいますか?」

「・・・・・・」


宮司が耳元で囁く

その言葉は、一つ一つ、私の心の中にしっかりと刻まれていく


「貴方が、神堕としを実行してくださるのなら、彼女は人として天寿を全うできます。貴方はその後悔を祓い、神の元へ向かえるでしょう」

「・・・少しだけ、考えさせてくれ」

「辛い選択だと思いますが、お待ちしております」


私はゆっくりと立ち上がり、神宮を出るために足を進める

異様に足が重い。顔色もあまり良くはないだろう

・・・神宮の前で待っている鈴に、会いたくない

それでも、入り口にはすぐに到達してしまう。なんせ、そこまで距離はないのだから


「雪霞様」

「・・・鈴」


一番会いたくなかった彼女は、心配そうに私の元へ駆け寄ってくる

私が、あの時大人しく死んでいれば

私が、元より健康であれば

そして何よりも、あの日、鈴を御付として拾わなければ

彼女は、憑者神になんて、成らなくて済んだのではないか


全て、私のせいだ

彼女という最後の欠片が揃ったことで、儀式が始まったという

智も祝も・・・そして他の全員も、私のせいで


私がいたから、みんなおかしくなった


「・・・お顔の色が優れません。今回の神語りで不穏なことが予見されたのでしょうか」

「・・・ごめんな、鈴。私のせいで、こんな。智や祝にも、申し開きができない・・・私のせいだ」

「雪霞様?」

「・・・少しだけ一人にしてもらえないか。考えたいことがあるんだ」

「そんなわけには・・・一人の時に襲われたりでもしたらどうしますか。それに今の雪霞様を一人にするわけにはいきません!何かあったのですか?どうか聞かせてください。力になれるかもしれませんから・・・!」

「・・・いいから、一人にしてくれ!」


私が纏う暗い空気を取り除こうとのばされた彼女の手を振り払う

誰かの厚意を否定したのも、そして彼女の悲痛な表情を見るのも・・・初めてだった


私は初めて道を駆けていく

足は重い。胸も痛い。何よりも呼吸が苦しい


「ダメです!いいから止まってください!」


鈴が再びのばしてくれた手は、私の腕を掴むことはなかった

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