表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第三章:過去辿りと激動の35日目
80/304

初めてのお役目

次の日になる

花籠家の門の前に立って私たちは、互いの体調を確認しあっていた


「雪霞様、体調は大丈夫ですか?」

「そういう鈴こそ、昨日も遅くまで憑者神の力を使い、私を癒していただろう。疲れは溜まっていないか?」

「私は大丈夫です。雪霞様は?」

「私も無理をしない程度に、適度に休憩を挟みながら行けば問題ないだろう。鈴、水筒は持ったか?」


杖を鈴に見せながら私は彼女に大丈夫だと表現する


「はい。水分補給が大事ですからね。用意しています」


鈴は持っていた風呂敷から水筒を二つ覗かせてくれる

それを確認し、私も風呂敷から巳芳から預かったものを鈴に見せた


「昼食も巳芳に頼んで作ってもらった。二人分だ」

「ありがとうございます。私、すっかり忘れていて・・・」

「いいのだ。こういうのは互いで補えばいいのだ。ほら、鈴。早速お役目に出発しよう」

「はい、雪霞様」


私の目はまだぼやぼやで、見えているといっても足元は不明瞭で不安要素の方が多い

だからこうして、かつてのように鈴に手を引いてもらって歩き始める


彼女の鈴の音が前から聞こえてくる

手を引かれているから行くべき道はわかるのだが、鈴の音でより鮮明に行くべき方向を把握してしまうあたり、私はまだ目ではなく耳で状況を把握しているようだ


二十三年間、付き合い続けた習慣がなかなか抜けることはないだろう。けれど、これからは見えることにも慣れていかないと

聞こえる情報だけに頼りっぱなしというのも、今後は止めて・・・見て聞いて、情報を手に入れなければならない

なかなかに、難しそうだ


「雪霞様?」

「・・・・・・」

「キョロキョロしていたら危ないですよ。転んでしまいます」

「すまない鈴。初めて見るものばかりで、たくさん見ていたいのだ」

「そう、ですよね。少しだけ休みましょうか?立ち止まって見た方が安全でしょうし」

「いや、いい。お前のお役目が優先だ。邪魔をしてしまい済まない。最初は西の集落から見るのだったな」

「はい。西はこちら・・・」

「鈴、そちらは東。西は逆だ」

「え、あ!そうでした!」


鈴の手がもどかしそうに小さく握られる

よく見ると、耳元が赤い。恥ずかしかったのだろうか・・・とても可愛らしい反応を見せる


「鈴。間違いは誰にでもあることだ。気にしなくていい。緊張していたのだろう?」

「え、あ・・・はい」

「初めてのお役目だ。仕方ない。私も最初は酷く緊張して・・・鈴?」

「・・・そうじゃないです」

「あ、ちょ、鈴。そんなに早く歩かないでくれ。足がもつれる・・・」


何か言いたそうな鈴は、私の手を全力で引いて西の集落に向かう道を歩いていく

足音が深い。なんだか苛立っている?

何か気に障る事を言ってしまったのだろうか・・・しかし、鈴は何が気に入らなかったのだろう

わからない。神語りで神様に聞くか?

いや、そんなホイホイとしていいことではないし・・・自力で考えなければならないだろう

困ったな・・・


「雪霞様、西の集落に到着しました」

「ああ、そうか・・・ここが、西の」


考えている間に、西の集落に到着したようだ

お役目に私情を持ち出すわけにはいかない。気持ちを今は切り替えておこう

私は軽く周囲を見渡してみる

どこも変わりないのだが、ここは特段住居が多いと感じる


「・・・あの方が、花籠様。神語りのお方なの?」

「人とは思えない美しい容姿だ・・・噂に聞いていた通り」

「髪も、稲穂のように美しい。瞳も海の藍色・・・」

「ねえ、母上。あのお方は、神語りのお方?」


村人の声が周囲から聞こえる。どうやら、すべて私の噂のようだ

今日は鈴が主役なのだが・・・注目されているのは私ばかりだ


「やはり、雪霞様が注目を集めてしまいますね。やはり、村に貢献している神語りのお方でございますし・・・興味があるのでしょう」

「そうだな。宮司もこれを知っていたのだろう。鈴、手を引いてくれるか?」

「勿論でございます。村人の元へ行きましょう」

「よろしく頼む」


鈴に手を引かれて村人たちの方へ歩いていく

今まで知らなかった世界へと、彼女に導かれて進んでいく

すると、私たちの前に、女性が立ちふさがる

怯えた表情を浮かべて、今にでも背を向けて逃げだしそうな彼女は恐る恐る口を開いた


「あの・・・申し訳ございません。本日は、何用で?」

「・・・ああ、済まない。神宮から通達は来ているだろうか?」

「いえ。何も・・・何か、あったのでしょうか」

「神宮からお役目を賜り、この場に来たのだ。私は花籠雪霞。君は?」

「と、尊き神語りのお方、で、ございますか。わ、わたくしは・・・・いねと申します。無礼な、態度で、申し訳ありません!」


稲は心から申し訳なさそうに、頭を地面に擦り付けた土下座をする

私は何とも思ってはいないが・・・彼女はどうやら自己評価が異様に低いようだ

しかし、丁度いい


「気にしなくていい。それより稲。顔を上げてくれ」

「は、はい・・・」


予想通り、彼女の額からは赤い線が一つ

あれだけ勢いよく擦れば、当然と言えば当然かもしれないが


「額から血が出ているな。鈴、早速お役目を果たす時が来たぞ」

「はい。雪霞様」


鈴は私の指示ですぐさま憑者神としての姿をとる

その瞬間、稲からも、傍観していた村人からも驚きの声が上がった


「私の御付である鈴は、神宮から憑者神として、怪我人や病人の治癒のお役目を拝命している。その力は、私と・・・・」


稲の額に光が灯る

そして、瞬時に彼女の額の傷は、何事もなかったかのように元に戻った


「え・・・」

「彼女の額が証明しよう」


それを見た村人たちは騒ぎ始める


「神宮から通達が来た、辰の憑者神で間違いないだろう」

「雪霞様は寝たきりだと聞いていた。ここまで起き上がれるというのなら、あの力も・・・」

「額が瞬時で治ったよ。凄いね」


・・・第一印象はばっちりのようだ

後は、すべて鈴の仕事だ。私はついていくだけ。しかし、初めてのお役目なわけだし、もう少し手助けしてみようか


「この集落にいる他の病人や怪我人を把握させて欲しい。治癒のためだ。情報を提供してほしい。取り返しがつかなくなる前に」

「あの、憑者神様・・・私の、祖母が病に」

「私の旦那が腰を・・・」


次々に声を上げるものが出てくる


「え、ええっと・・・一覧を作るので、一人一人お話を聞かせてください」

「依頼がある者は私たちの元へ集まってくれ。順番は守るように」

「あ、あの・・・雪霞様、憑者神様・・・私にも、何か、お手伝い・・・できますか?」


私の横で、額が治ったことに驚いていた稲が声をかけてくれる

彼女なりの一歩だ、しっかり受け止めよう


「助かる。道案内は頼めるか、稲?」

「は、はい!」

「雪霞様。一折まとめ終わりました」


鈴は紙に、依頼人の一覧を書き込んだのだろう

今回は十人。多いような、少ないような・・・微妙な人数だ


「わかった。では、鈴・・・お前はどう回る?」

「どう、とは?」

「軽度から重症まで範囲はある。お前はどちらから見る?」

「決まっています。重症の方からです」

「なぜ?」

「一人でも多くの人を救いたいからです。では、行きましょう。最初は寺田のお爺様のようです」

「ああ。稲、道案内を頼めるか?」

「は、はい!こちらでございます!」


こうして鈴の初めてのお役目は幕を開けた


それは初めてにしては順調に進み、日が暮れる頃にはお役目は終えていた

最後の方は疲れ果てていたが、彼女は達成感で満足げに笑っていた

それでも私たちは歩いて花籠の屋敷に帰らなければならない

へとへとになっている鈴の手を、今度は私が引いて花籠の屋敷を目指した


「ん・・・?あれは?」


見知った二人を、私は視界にとらえる

二人は慌てて、森の中に入っていく

追うことも考えたが、今は鈴を早く休ませたいと思い、私は帰路を歩き続けていった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ