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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
序章:付喪神との遭遇
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2日目①:竜胆の花籠

掃除が終わったのは昨日の夕方の事


りんどうも「手伝います!」と言ってはくれたが、何よりも気になったのは寅江さんの反応だった

女の子と言っていたし、彼女の前では普通の女の子だったのかもしれない

それもあるが、見た目は女の子。そんな子に重い荷物を持たせるのはどうかと思ったのだ

・・・付喪神に、性別があるのかどうかわからないけれど

軽いものはりんどうに持っていってもらって、大きなものは俺が一階に降ろしていった


夕飯は材料どころか即席で作れるものが何一つなかったので、りんどうとどうするか顔を見合わせた

寅江さんは柳永町の隣にある町に住んでいるらしい。今からはいけない

車に乗ってきていれば、外食や材料の買い出しにはいけただろう


しかし残念ながらここは田舎。近くにコンビニがあるというわけでもないし、交通手段もない

とりあえず、引き出物の饅頭を食べつつその日は凌ぎ・・・明日の朝は我慢して、帰る途中で外食と買い出しをして帰るという計画を立てた

申し訳なさそうにしているりんどうの頭を撫でてから、その日は休んだ


翌日。昼の十時半

寅江さんに挨拶を終えた後、祖父母の家を出て田んぼだらけの道を歩いていた


「こっちですよ!夏彦さん!」

「ねえ、りんどう。無理して前を進まなくていいんだよ。道、わかるし・・・」

「私が「したいから」しているのですよ」

「でも、俺の歩調に合わせて前を進むのはきついでしょう?ほぼノンストップで走っているじゃないか」

「それでも、なんです。私のお役目ですから」

「お役目?」

「いえ、こちらの話ですよ。ほら、夏彦さん!バス停はこちらですよ!」

「はいはい」


嬉しそうに前を歩く彼女の案内と共に、俺はバス停へとのんびり歩く

周囲を見渡せば、秋ということもあり紅葉した葉がこの「柳永町りゅうえいちょう」を彩っていた


この町の前身は、神様の怒りを買って滅んでしまった村らしい

それを・・・確か、錣山てつやまという一族が立て直して、再び村として機能し始めたとか

こんなド田舎の町でも、世間に周知されている名物が「花籠」

特殊な加工を施し、枯れず、そして劣化しなくなった花を敷き詰めた小さな籠で、観賞用としても贈り物としても高い人気を誇っている


「・・・土産に一つ、買っていこうかな」

「どうかされましたか?」

「花籠」

「そ、れが・・・どうされました?」

「土産に一つ買って行こうかなって思ってさ。どこに売ってあるかな?」

「そうですか。そう、なのですか。お店、バス停の近くにありますから寄っていきましょう」


一瞬歯切れが悪くなったり、少し複雑そうな表情を浮かべたり・・・彼女の反応がなんとなく気になる

しかし、なんとなく深く追及しない方がいいだろうと思い、俺は何も触れずに彼女の後を歩いていく


バス停に到着するが、そこを通り過ぎて奥にある花籠の店に向かう

そこが目的地だ


「いらっしゃいませ」


店主らしき初老の女性に出迎えられる

女性は俺とりんどうを交互に見つつ、最初の問いを決めた感じがした


「娘さんに花籠ですか?」

「いえ・・・娘では」

「じゃあ、妹さん?」

「・・・そんなところです」


身内にしておいた方が楽かなと思い、俺はとりあえず彼女の兄という体で話を進める

話を円滑にするなら娘でもよかったかもしれないが、うん・・・なんか嫌だ


「お嬢さん、お好きな花は?」

「私は・・・名前がりんどうなので、竜胆の花が好きです」

「へえ、凄い偶然ね。少し待っていてね」


女性は店の奥に行って、ある籠を取り出してくる

その籠は雪のように白い籠

その持ち手には青いリボンと鈴が付いている


「「りんどう」という名前で、なおかつ竜胆の花が好きな子が来たら、特別メニューがあるんですよ。お兄さん、妹さんにどうですか?」

「では・・・それと、普通の花籠を一つ。りんどうの分は自宅用。もう一つは土産用でお願いします」

「はい。ありがとうございます。準備してくるから待っていてね」


思わぬ出費だが、まあ、彼女もなんか嬉しそうだし、お近づきの印として買うのも悪くないかもしれない


「・・・いいのですか?私も」

「お近づきの印ということで受け取ってもらえると」

「では、ありがたく・・・」

「しかし、なぜ竜胆が特別メニューになるんですか?」


ふとした疑問を女性に問いかける

女性は花籠を用意しながら俺の問いに答え始めてくれた


「私の曾お爺様はねえ、昔、この土地に住んでいた花籠という家の使用人をしていたらしいのよ」

「じゃあ、貴方は錣山の・・・」

「ええ。今じゃ、村を立て直した一族だって言われてはいるけれど、実感はないわ。曾お爺様は、使用人としての事しか語らなかったから」


一つ目の花籠が出来上がる

普通の花籠。土産用の方だろう

女性は今度、鈴が付いた白い籠を手に取った


「昔、雪の結晶の名前を持つ儚いお方に仕えた曾お爺様。その方には後二人、御付の方がいらしたそうなの」

「御付・・・使用人ということですか?」

「そう。一人は蛇の青年。その方の唯一無二のご友人だったそうよ」

「へえ・・・」

「そして、もう一人が竜胆の名を持つ、鈴を持った女の子。その子はある事情でこの土地を離れてしまったらしいのよ」


ある事情、か

現代であれば引っ越しとか考えるが、使用人という立場ならその線はほぼ薄いだろう

女性もどうやらその事情に関しては知らないようで、そのまま話は進んでいく


「他の使用人もみんなバラバラになって、曾お爺様だけがこの土地に残ったの。みんなが帰ってくる場所でありたいからって」

「なんだか、いい話ですね」

「ええ。私もそう思うわ。この特別な花籠はね、その竜胆の名を持つ御付の子がここに戻ってきた時に渡したいと思って作っていたそうよ。はい、特別な方もこれで完成」


白い鈴の花籠は、りんどうに直接手渡される

彼女の髪に隠れた鈴と籠につけられた鈴が共鳴するように鳴った


「竜胆の花は、その方が生前好きだった花らしいわ。その竜胆ちゃんという女の子もその方はとても大事にされていたようよ。貴方も、お兄さんに沢山大事にされますように」

「ありがとうございます、店主さん」


「いいえ。それとね、りんどうちゃん。少しだけ、手伝ってくれるかな?」

「何をでしょうか?私にできる事なら、なんでも仰ってください」

「簡単な事よ。おかえりなさい」

「っ・・・・!」

「この花籠はね、その子が帰ってきた時におかえりと言って渡したかったって曾お爺様が言っていたの。別人だけど、いつか私が叶えてあげたいなって思ってね」

「そ、うですか・・・いい話、ですね」


花籠を抱きしめながら、喜んではにかむ彼女の目を盗んで、会計を済ませておく


「まいどあり、お兄さん」

「こちらこそ、ありがとうございました。貴重なお話も、面白かったです」

「いえいえ。あ、お兄さん。そろそろバスの時間になるわよ」

「あ、そうでした!教えてくださりありがとうございます。りんどう、行こう!」

「はい!夏彦さん!店主さん、ありがとうございました!」

「ええ。またのお越しをお待ちしているよ」


俺たちは花籠を手に慌てて店を出て、バス停の方に向かう

バスが道の先に見える

丁度いい時間だったようだった


「間に合ったね」

「五時まで待たなくて済みそうですね」


二人して安堵しながら息を整え、バスが来るのを待った


「・・・・」


その間、りんどうはずっと花籠に顔を埋めていた

とても気に入ってくれているようでよかった


「・・・錣山さん、生前の貴方に再び会おうとせず申し訳ありませんでした。まさかこんなメッセージを残してくれているとは思っていませんでした」

「・・・ただいま。今、戻りました。我儘かもしれませんがどうか、これからも私と雪霞様の生まれ変わりを智と共に見守っていてください。今度こそ、守るために」

「りんどう、バスついたよ?」

「ああ、そうですか。では行きましょう」


花籠が気に入りすぎて、バスのことに気がついていなかったりんどうに声をかけて俺たちはバスに乗り込んだ

自宅までの道のりはまだまだ遠い

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