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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第三章:過去辿りと激動の35日目
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現世の迷い子、常世の贈り物

「今頃、二人は服を見ている頃かな・・・」


服を選びに行った二人に同行する・・・というのは、なかなかにハードルが高い

なんせ、俺はそういう女性らしいことは全くもってわからないのだ

彼女がいたことは何度かあるが、その全員と俺は「ごく普通の、異性との付き合い方」を主軸に置いた付き合い方をしていなかった

しかも高校時代で時が止まっている。もう十年以上前の話だ。今の恋愛観なんて知ったことではないし、どうでもいいとさえ思うのに

りんどうの前では、そうはいかない


「あー・・・りんどういないし、煙草でも吸いに行くかね」


昔の事を思い出したら、無意識に吸いたくなる。最近は禁煙に成功しつつあるのに関わらずだ

りんどうの監視もないしせっかくなので吸っておこう。一本ぐらい平気平気

昔みたいに一日三箱消化していたわけではないのだ。一本程度どうってことはないはずだ

・・・服に匂いが付いていますとか、怒られそうだけど


そうと決まればフロアマップを思い出す

確か一階の、それこそ入り口付近に喫煙エリアがあったはずだ

俺はそっちの方に足取りを進めていく


二人と別れた場所が場所なので、周囲は女性用の小物ばかり

キラキラしていて、正直目が痛い


「・・・ん?」


その中で、俺はあるものが目に入る

女性用の小物を中心に取り扱う店に一人で入るには正直ハードルが高かった

が、それでも目を引いてしまったのだから、気にせずに向かっていく

俺の視界に映った小さな髪留め。淡い色彩が重なり合った綺麗なガラスがはめ込まれたバレッタのようだ


「・・・りんどうに、よく似合いそうだ」


このバレッタが彼女の青緑色の髪に飾られる光景は想像に容易かった

たったの一ヶ月だが、彼女には色々と支えてもらったわけだし、せっかくだ

少しのお礼として、これを贈ろう


そうと決めたら行動に移すのみ

俺はバレッタを持ってレジの方へ向かっていく

彼女の反応はどんなものになるだろうかと、考えながらする買い物は年甲斐もなく心を弾ませた


バレッタともう一つ、俺は青いリボンを購入した

なんだろう。リボンなんて手芸とかそういうのに使うイメージがあるが、髪留めとして彼女の髪に映えそうだと思ったのだ

その二つをギフト用にラッピングしてもらい、俺は他にも何かないかと買い物を楽しむ


当初の目的を忘れているが、健康的な問題やのちのりんどうの反応を考えると忘れていた方がちょうどいい


その途中で、俺は彼女と出会う

否、出会ってしまった


「・・・きゅう」


一人で椅子に座って落ち込む幼い少女

周囲は迷子なんじゃないかと囁くが、誰も声をかけようとしない

・・・しょうがないと思いながら、俺は意を決してその子に声をかけた


「・・・どうしたの。君」


いつもの口調を封印して、怖がらせないように慎重に

声をかけると同時に、特徴的な容姿を眺めた

茶色い髪に、水色の瞳。外見的特徴が強い子供だが・・・


「ちちが迷子なんだ。探し回って疲れた」


・・・中身も、少し・・・いや、かなり特徴的だった


「君、名前は?」

新橋小夏にいばしこなつ。三歳!お前は?」


三歳にしては流暢だな・・・それにお前って言ったよなこのガキ・・・


「お前って・・・俺は巽夏彦。ご両親は・・・君が言うには迷子なんだよな」

「うん。ついでに弟の小白と妹の小瑠璃も迷子だ!」


その二人は小夏のように特徴的でなければご両親の側にいるんだろうな


「サービスカウンターで迷子のお知らせしてるのかな。行ってみようか」

「行く行く。ちちを呼び出してもらうのだ」

「そうだね。ご両親を呼んでもらおうね・・・」


ずんずんと歩いていく小夏は、ん!と自分の手を俺に差し出す


「夏彦、手を繋げ!」

「呼び捨てか。まあいいけど」


それなら俺も、普段通りに行かせてもらおう

俺は小夏の手を握り、サービスカウンターへと歩いていく


「夏彦いくつだ?」

「初対面でそれを聞くのか。今年の四月に三十になったことにしたから・・・ええっと、三十一だと思う」

「曖昧だなあ・・・妻は?」

「いない」

「ははより老けてるのに・・・・未婚なのか。大変だな」

「全人類結婚できるはずだっていう思考は今のうちに捨ててくれ」


小夏とかいうクソガキ・・・もとい、ちびっ子は遠慮なしに素直な言葉をぶつけてくる

地味に心を抉ってくるというか、無性に腹立つ言葉を並べてくる

ここまでイラついたのはいつ以来だろうか・・・・?

しかし子供に当たるなんて真似は昔の俺でもしたことがない

ここは必死に自分を抑える

大丈夫。一時間以内にはこのイライラから解放されているだろうから


「なあ、夏彦」

「なんだ?」

「お前、トカゲくさいな!」

「なんだその匂い!?」


トカゲくさいってなんだよ。爬虫類の香りか!?


「辰の憑者神ってくさいんだなー。父に教えよ」

「・・・憑者神つきものがみ?それに、辰って・・・・」


聞き覚えのない単語に、耳を傾ける

付喪神ではなく、憑者神


それに今、小夏は「辰」と言ったか

思い描くのは、バレッタを贈ろうと考えている少女

ドラゴンの置物の付喪神を自称する少女の事だった


「なあ、夏彦」

「今度はなんだ?」

「お前、戌にも好かれているのか?」

「犬?」

「あいつあいつ」


小夏が指さす先にいたのは、フードを深くかぶった誰か

性別はわからない。けれど体格は少し丸さを感じさせるし少女・・・だろうか

それに違和感はまだ消えない

周囲にいたはずの人間が消えているのだ

さっきまで、たくさんの人がいたはずの空間はあっという間に誰もいない空間と化していた


「会いたかったよ、花籠雪霞の生まれ変わり」


フードの少女は、牙を連想させるような二つの短剣を握り締める


「辰を神へと至らせるための供物と未熟な狼が一匹・・・半分だけど、あの夜ノ森の子だし、力は強いはず。美味しい供物になれる。絶対に。一緒に狩る」


フードの少女の狙いは俺だけではないらしい

俺と手を繋ぐ小夏もまた、標的のようだ


「えーマジー。供物にするなら小白の方がおいしいぞ。だって小白は次期長だし」


こんな時に言うのもなんだが、さりげなく弟を進めたなこいつ


「「ゆうじゅーふだん」ってやつだけどな。でも」


小夏の目配せで自分がやるべきことを把握する

彼女が気を引き付けている間に、俺はいつでも出られるように整える


「でも!弟は大事なのだ!なんせ私は姉なのだから!絶対に守るのだ!」


その瞬間、小夏とフードの少女の間には暴風が吹き荒れた


「夏彦!」

「おう!」


小夏の合図で俺は彼女を抱きかかえてフードの少女と距離を取るために駆ける


「おおう、夏彦早いな!加速していい?」

「向こうの減速で頼む!これ以上は俺が転ぶ!」


さりげなく指示を出しているが、暴風を出したり・・・この子は一体?


「りょ!いけ!「かまいたち」!」

「ちぃ・・・」


フードの少女は小夏の出した視界で捉えることが出来ない空気の刃で攻撃を受ける


「夏彦「向こう」でちちが待ってる!」

「向こうってどこだよ!」

「走り続ければつく!」

「了解!信じるからな!」


彼女の言葉を信じ、壁にぶつかりそうになっても減速せずに進む

すると・・・・・


出た先は、先ほどまでいたショッピングモール

人通りもあるが、俺が戻ってきた場所は従業員の出入り口があるような、人通りが少ない場所だった

そして、出た先には左右の目の色が違う男性が待っていた


「小夏」

「ちちぃ!」

「お前何やってんだ。常世に行くなんて・・・」

「誘われた!」

「誰に」

「犬!」

「ほう・・・あの先祖返りの一人か。全く、人を厄介ごとに巻き込むんじゃねえよ・・・」


どうやら小夏の父親のようだ

俺からするりと落ちて、小夏は父親の方に駆け寄った

随分若く見えるが、どこか貫禄がある風貌を俺はじっと見つめていた


「まあ、誘われたのは小夏じゃなくて「龍のお気に入り」の方だろうな。おい、怪我はないか?」

「い、いえ・・・あの、その呼びってどういう・・・」


また奇妙な呼び方だ。この人は何か知っているかもしれない


「話をしたいのはやまやまなんだが、俺も人を待たせてるし、あんたもその、電話だったかな。なってるし」

「あ」


腕につけている端末が着信を知らせる。相手は丑光さん。買い物が終わったのだろう


「時間がある時にうちに来てくれればちゃんと教えるよ。娘を助けてくれた礼もしたいしな」

「いいんですか?」

「ああ。お前の都合で新橋神社に来い。そこで俺は待っている。できれば日中がいいな」

「常識の範囲内でお伺いします。名前をお伺いしても?」

「ちちは小影だ!」

「小夏・・・ちち呼びはともかく、呼び捨てはダメだろ・・・」


父親の方に問うと、素早く小夏が質問に答える

父親まで呼び捨てにしているのか・・・と若干ヤバさを覚えながら、改めて父親の方を見る


新橋小影にいばしこかげ。まあ、よろしく頼むよお気に入り。それじゃあ、またな」

「え、はい。また・・・」

「またな、夏彦!今度は沢山遊ぼうな!」


瞬きをした瞬間に小影さんと小夏はどこにもいなくなっていた

一体何だったんだあの親子・・・と考える前に、思考は別の方に向けられる


鳴り続ける電話

その存在を思い出して、マズいと思った俺は急いでその電話に出た


・・・・・


フードの少女は常世で二人の様子を伺った

長の狼がいる。出ない方がいい。まだ、死ぬわけにはいかない

それに新橋小夏は本命ではない。わざわざ殺して、長を刺激するのも悪手だろう

しかし、まだチャンスはある


少女は「それ」を拾う

贈答用に綺麗に包装された小さな箱

まだ、巽夏彦を襲撃するチャンスは、ある

自分の運の良さに、少女は歪に笑いながら、現世で慌てて電話に出ている夏彦の様子を伺った

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