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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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+)30日目②:本日は厄日なり?

「しかし、こんな見つけにくいところにこのうどん屋さんがあったのね。お値段もかなり良心的」

「学生時代から世話になっていたんだ。二人の対応をした店員さんも、俺たちの先輩だ」


二人と相席した後

メニューを見てどうするか考える二人と会話をしつつ、昼の時間を過ごしていく


流石に覚の隣に良子を添えるわけにはいかないので・・・俺の隣に良子がいる

正面には項垂れている覚と、どうしたらいいか思案する丑光さん

・・・昼休みが終わるまではこの状況を覆すことはできないだろうな


「しかし、あんたの先輩といえば沼田の・・・あ、でも「九重教室」に属していたならあり得るか」

「沼田?九重教室?」

「九重教室は、筋金入りの不良高校であった沼田高校にかつて存在していた、勉強をする教室のこと」

「いや勉強は当たり前じゃ・・・」


丑光さんのいうことは最もだ

それを遮るように、お茶を持ってきてくれた玲先輩が俺たちが言いたかったことを代弁してくれる


「あの高校はそんな当たり前がなかったんだ。それを俺や拓実を懐柔して・・・力をつけてあの教室を作ったのが一馬先輩。九重教室は、彼の苗字が九重だから、それをとって九重教室と俺たちは呼んでいた」

「じゃあ、店員さんも?」

「そう。俺はあの教室出身で、こいつら二人の先輩。今はうどん屋の弟子をしている」

「玲―、その二人は馴染みだからいいけど、連れの女の子口説くなよー」


流石に仕事中の私語が多かったのか・・・玲先輩が大将から声をかけられる

なんだか申し訳ないことしたなと思い、謝ろうとすると、大将の話はまだ終わっていないようで続いていく


「今回は会社の後輩と同期みたいだが、覚の連れは警戒しろっていうだろうが!こいつの連れはやめとけって!裁判沙汰になるぞ!」

「それもそうっすね!肝に命じておきます!」

「まあこの男だし、ロクでもないことに巻き込まれそうになるわよね」

「メンヘラ事件は忘れない・・・」

「恵ちゃん以外扱いが酷い!」


覚の抗議は俺たちには届かない

そんな中、丑光さんは覚の肩に手を置く


「・・・日頃の行いですよ」

「一番心にグサってきたかなぁ・・・」


丑光さんが無自覚にトドメを刺したことで、覚から何かが抜けてしまった気がした

それをゲラゲラ笑うのが大将と玲先輩、良子の三人

・・・今日は覚にとって厄日かもな


「お嬢さん方ノリがいいね!天ぷら食べ放題つけてやるよ!覚も、今度酒好きなだけ飲ませてやるから許せ!」

「その言葉絶対後悔させるからな大将!帰る時に証明書寄越せよ!」


前言撤回。なんだかんだで運の良い日らしい

ある意味不幸と幸福のバランスが取れた日というのが正しいかもだけど


「ほれ、証明書。無期限だからいつでも使いに来い」

「どうも」


さっさと書かれた証明書を受け取った覚の表情は完全に悪い顔だ

もちろん大将も同じような顔

・・・何かがおかしいような。まさか


「・・・大将よかったんです?」

「何がだ?」


大将が妙にニマニマしているのを見た俺は、彼がある勘違いをしているのではないと思い一応聞いてみる

・・・忘れているのか。それとも、逆に覚えているのか


「覚にそんなものを渡してよかったんですか?」

「大丈夫だって。あいつ全然飲めなかっただろ?」

「・・・全然飲めないのは俺ですよ」

「あ」

「・・・マジか」


「やっぱり。そうだと思ったんですよね。覚はとんでもない酒豪ですよ。いくら飲ませても酔わない・・・覚悟しておいた方がいいかと」

「そっちだったか・・・」

「あー・・・」


玲先輩も大将も忘れていたみたいで、同時に頭を抱え始める

渡した手前、もう取り戻すことはできない


「・・・お二人さん。そろそろ注文決まった?」

「あ、私わかめうどん。丑光ちゃん何にする?」

「私は月見うどんでお願いします」

「大将、お願いします」

「わかったよ・・・あー・・・やっちまったー・・・」


大将は厨房の奥に戻りながら、注文を受けたうどんを作りに行ってくれる

それを見送った後、覚が楽しそうに声をかけてきた


「夏彦。お前も人が悪いな。渡してから指摘するなんて」

「あんなに早く渡されるなんて思ってなかったんだよ。それで、もしかしたら俺と覚の飲み具合を間違えて覚えているのかもなって思って・・・」

「そうだよな。お前いつも烏龍茶オンリーで攻めてたな・・・だからよく飲んでる記憶しかないのか・・・」


玲先輩の記憶している俺は相当飲んでいる印象だったようだ。まあ、ソフトドリンクをガブガブ飲んでいた自覚はあるけれど


「それをいうなら一馬先輩もカルペスオンリーじゃないですか」

「一馬先輩は病弱だし「あいつにアルコール飲ませたら絶対死ぬぞ」が俺たちの共通認識だから覚えてたんだけど、お前はすっかり忘れてた」

「忘れないでくださいよ。俺、少しでも酔うんですから」

「・・・酔いますね。凄く」

「・・・思い出しただけで頭が痛いぞ、撫で彦」

「・・・?」


玲先輩に向けた抗議のはずなのだが、丑光さんと覚が反応を示す

おかしいな。ここ最近アルコール類を飲んだ記憶はないんだが・・・それに撫で彦ってなんなんだ


「しかしまあ、覚。お前何飲むの?夏彦の言う感じだと、相当飲むみたいだけど」

「日本酒が一番好き」

「わかった。発泡酒な」

「なんか全然違う単語に置き換えられてるんですけど、なんでです?」

「仕入単価の問題。持ち込み大歓迎だ。その券使う前日ぐらいに飲む分輸送しろよ。保管はしとくから」

「店側から一本も出さない気だこれ!」


覚は悔しそうにバンバン机を叩きながら「せめてうどんはタダにしてくれよぉ・・・」と情けない声で項垂れる

一方、その横では・・・あ、これは見てはいけない奴だ


「先輩、タオル」

「・・・あいよ」


小声で玲先輩にお願いした後、行く末を察した俺と良子は目を閉じる

それが、今の丑光さんにできる俺たちなりの配慮だ


「・・・巳芳先輩」

「天ぷらぁ・・・」

「項垂れるのは結構ですけど、ワイシャツにお茶がかかったんですよね」

「ほー。つまり今の恵ちゃんは濡れすけワイシャツってやっーーーーーー」


覚の声がしなくなったと同時に、鈍い音が俺と良子の耳に入る

そして俺の背後で先輩が頼んでいたタオルを渡してそそくさと戻っていく音がした

それをそのまま良子に渡し、経由で丑光さんに渡してもらう


「丑光ちゃん。そろそろ目を開けていいかな?」

「はい。どうぞ」


良子の問いの後に、俺たちは目を開ける

丑光さんの隣には顎を押さえで悶える覚の姿があった


「殺ったのか・・・いや。でもあの発言じゃ仕方ないと思う。ちゃんと受け入れとけよ、覚」

「同感。しかし綺麗に殺ったわね・・・丑光ちゃん。ううん、恵ちゃん」

「すみません。つい・・・手が」


丑光さんは意外と手が出るのが早い

意外な一面だったが、仕方のない話だと思う

タオルに覆われた上半身・・・それに隠されたワイシャツのことを思えば、尚更だ


「・・・ひょうは、ひゃ、くひぃ・・・」


顎を押さえて痛そうにしているが、うどんが来る頃にはだいぶマシになっていたようで、きちんとうどんは食すことができた

しかし、お目当ての天ぷらはかなりキツかったようで・・・覚自身食べ放題券を持っていたけれど、その券をちゃんと使うことはできなかった


「・・・キツネうどん多・・・い」

「頑張れ夏彦。後一口だ。お前にしては頑張った方だ!食べる量も十分増えた!」

「大将。夏彦が普通のうどん食べきれそうです!」

「まさかこんな日が来るなんてなぁ・・・!」


高校時代からミニサイズのうどんしか食べられなかった俺は、ついに普通サイズのうどんを完食しきった

それに、昔から見守ってくれた覚や玲先輩が喜び、大将が泣いたのは少し面白い話


「あんた相変わらず少食ね・・・うどん一杯でお腹いっぱいになるなんて成人男性にしてはかなりレアよ」

「・・・先輩、私より食べないんだ。うらやま・・・げふん」


「夏彦。汁は流していいから、どんぶり持った状態で写真撮るぞ」

「何するんですか、玲先輩」

「一馬先輩に、夏彦が普通サイズのうどん食べ切りましたって連絡する」

「そんな子供じゃないんですから・・・」


そう言われつつも、俺は玲先輩の指示通りに写真を撮られる

どんぶりを持って、完食しましたと報告するような写真


「よし、そうし・・・ってはや!?返信超早い!?あの人今担任持ってんだろ!?給食時間じゃねえのかよ!?ええっと・・・『夏彦!ちゃんとおうどん食べられたんだね!おめでとう!これから少しずつ食べる量増やそうね!』だってさ」

「子供じゃないんですから、自分の適量だけ食べますよ・・・」


先輩に子供扱いされつつも、俺は無事に普通サイズのうどんを一杯食べ終わることができた

りんどうとの食生活の影響か、少しずつ食べ過ぎたのが蓄積して・・・ここまで食べられるようになったようだ

最も、これでも成人男性にしては少ない食事量と言われるのだが

これからも、少しずつ頑張っていけばいいだろう


少しの変化と成果を得た意外な面々で過ごした賑やかな昼

騒がしくもあったが、食後は穏やかにゆっくりと過ぎていく

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