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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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+)30日目①:天敵との遭遇

「夏彦、夏彦夏彦夏彦!」


昨日の疲労なんて全く感じさせないテンションな覚が昼休みと同時に俺のところにやってくる


「うるさっ・・・なんだよ覚。今日はやけにご機嫌だな」

「お前今日は外回りも何もないよな!?」

「ないけど・・・」

「じゃあ、今日は絶対うどんな!?外行くぞ!」

「昼間に外食か・・・ってこれ!?」


覚が握っていたのは、近くにあるうどん屋の天ぷら食べ放題券だった

実のところ、高校時代から俺と覚はよくここのうどん屋に通っていた

安くて多い。そしてうまい。学生にも社会人にも優しい設計の店なのだが、そんな店が赤字覚悟である抽選会をやっている

それが、今覚の手に握られている毎月抽選で一名様にあたる天ぷら食べ放題券だ

まさか、伝説とも言っていいこれを目にすることになるなんて・・・夢にも思わなかった


「覚、ついにやったんだな・・・!遂にこの伝説を手に入れたんだな!」

「ああ。喜べ夏彦!一枚で、二名だ!」

「!」

「俺とお前で食いに行こうぜ!」

「おう!ありがとう覚!」


「いいってもんよ。昨日のお礼みたいなもんだ。お袋たちたくさん付き合わせたしな!」

「いや、でも・・・それは流石に・・・」


そのお礼なら非常に受け取りにくくて、少し引き気味になってしまったが、そんな俺を覚の腕は逃さない

肩を組んで、そっと耳打ちしてくる


「悲願だろ。どちらかがあたったら、必ずって約束したじゃないか」

「そうだけど・・・」

「じゃあその約束を果たせよ」

「それなら、まあ・・・」

「決まり!早速行くぞ!」

「今からかよ・・・!わかったよ!」


俺と覚は会社から出て、あのうどん屋へ向かっていく


「・・・先輩たち、いっちゃった」


そんな俺たちを遠目に眺める丑光さんの呼び声は、俺たちには届かない


・・・・・


「丑光さん。夏彦知らない?」

「あ、沖島次長。巽先輩なら、巳芳先輩と外食に・・・」


二人が外に出かけてから少しした頃

昼食を食べに行こうと席を立った私は、廊下で事務の沖島さんに声をかけられた

どうやら先輩に用があるらしい

・・・確か、社長が沖島さんと巽先輩は創業時代から一緒だって言っていた

やっぱり仲良いのかな・・・なんて思いながら、彼女の問いに答えていく

最もそれは、彼女が欲しかった答えではないけれど


「へえ・・・あの馬鹿はともかく、夏彦が外食なんて珍しいわね。どこに行くとか言ってた?」

「確か、うどん屋さん。天ぷら食べ放題とか・・・」

「確か月に一組だけだけど、そんな券をばら撒いているうどん屋があったような。でもまあ、今なら覚に奢らせられるか・・・ね、丑光さん。昼食まだだよね?」

「はい。そうですけど・・・」

「今から私と外に行こうよ。お金は財布が出すからさ」


・・・話の流れからして、沖島さんの財布って巳芳先輩では

一体あの人沖島さんに何をしたのだろうか

本来なら断った方が面倒ごとには巻き込まれないと思うけど

断りにくいっていうのも、また・・・


「行きます」

「そうこなくっちゃ!」


沖島さんに腕を引かれて、私は彼女と共に外へ向かう

行き先は、二人の先輩がいるうどん屋さんだ


・・・・・


うどん屋「小麦家」

学生時代からお世話になっているうどん屋なのだが、実はこのうどん屋で俺たちの馴染みの人物がお弟子さんとして働いていたりする

ここの大将の人格に惚れて、彼はずっと弟子として大将と共に切り盛りをしている


「玲さん、お久です」

「おう。覚、夏彦!席は空いてるから好きに座れ!」

「はーい」


江戸島玲えどじまれい。俺と同い年だが、あの高校に入学したのは一年先なので先輩に当たる人物

俺同様、一馬先輩に世話になった一人でもある


「注文は?」

「俺はべりもりかけ。天ぷら券付きで」


覚は格好つけながら抽選で当たった天ぷら券を玲先輩に差し出す


「今月お前が当選者かよ・・・好きなの頼め。夏彦」

「ありがとうございます」

「ねえ玲先輩。当選者である俺には食えとか頼めとか言わないんですか?」

「覚は食い過ぎだからな。将来ぷよんぷよんになるぞ」

「ごもっともで」

「夏彦はもっと食え。お前昔から一馬さん以上に少食なんだから心配なんだよ」

「そんな無茶な・・・」


玲先輩に無茶振りを言われつつ、ふと考える

これでも昔よりは食べるようになったのだ。りんどうのご飯は、美味しいからつい食べすぎてしまうようになって・・・今じゃそれなりに食べていると思う

せっかくだし、どこまで食べられるようになったのか試してみようと思う


「それより夏彦。注文は?」

「俺はきつね。通常で」

「・・・ミニじゃなくていいのか?」

「・・・食べてみせます」

「わかった。焚きつけた手前、こういうのもなんだが・・・無茶はするなよ」


注文を控えた玲先輩は厨房へと戻っていく

それから俺たちはのんびり昼食が来るのを待っていた


「いやあ、常連しか相変わらずいないですなぁ」

「知るぞ知る人の名所だからな・・・」

「まあ、場所もわかりにくいし・・・なかなか新規客が来ないというか」

「だなー。あんなに美味いのに周知されてないのが残念・・・でも、知られたら知られたで複雑というか、なんというか・・・わかんないよな?」

「なんかその気持ちわかるぞ。知られたいけど、知られたくない。そんな複雑さ」

「なんだろうな、この気持ち」

「さあ・・・」


二人で他愛ない話をしつつ、暖かい緑茶をすする

外の寒い空気にさらされて震えていた俺たちを内側からあったかくしてくれるそれは、心までほっとさせてくれる


「十一月にしては、寒いよな」

「今年の冬は厳しくなるかもよ」

「そりゃあ困る。俺、変温動物だし」

「人間は恒温動物じゃなかったか?」

「よく覚えてんじゃん。そうだよ。恒温動物」

「試したのかよ」

「たまにはな」


いたずらが成功した子供のように、無邪気に笑うそれは高校時代から変わらない

最も、この笑顔が来た後は例外なく厄介ごとの始まりなのだが・・・


「らっしゃーせ!何名様ですか?」

「女二人。あ、そこにいる頭黄色の男の組と相席で」

「席、空いていますが」

「相席で」


有無を言わせない声は、とても馴染みのある声

振り返らずともわかる。覚の表情だけでもわかる


「・・・夏彦。覚。相席頼めるか?」


申し訳なさそうに、玲先輩が俺たちに声をかけてくる


「・・・知り合いですから、大丈夫ですよ」

「覚が震えてるのは珍しいな・・・なんで?」

「覚の天敵なんですよ。仕方ないです」

「こいつの天敵たあ・・・あの女の子たち一体何者なんだよ・・・あ、こちらです。どうぞ」

「ありがとう」


案内でやってきたのは予想通りの人物

最も、その同伴者は意外な人物だったが


「・・・良子。せめて来るなら連絡とか入れてくれれば」

「いいじゃない。サプライズよ。このアホに向けてね」

「連絡は処刑宣告の間違いでしょ・・・」

「何か言った?脳みそ下半身」

「・・・なんでもございません」


良子に頭を掴まれた覚はもうされるがまま。暴言すら笑顔で受け入れるしか道はない


「・・・あの、先輩」

「丑光さんも災難だね・・・ほら、こっちに避難しときな?」

「ありがとうございます・・・しかし、巳芳先輩、沖島さんに何を」

「・・・覚は昔、良子の知り合いに手を出して大事に発展したことがあるんだよ」


控えめに言えば、こんな感じ

正確には、覚が良子の妹を孕ませて色々と大変なことになったと言う話

流石に、そこは丑光さんに話すことはできない

もし、彼女が真実を知る日が来たとするならば、それは覚自身が話した時だ


「えぇ・・・」

「当時もかなりボコボコにされて・・・その他にもやらかした影響か、覚は良子に逆らえなくなっている」

「大変ですね、沖島さんも・・・」

「本当だよ。良子、一番忙しい時期にその案件に遭遇したからさ。稲穂ちゃんのケアも大変だっただろうね・・・あ」


ふと、口が滑ってしまう。悪気があったわけではない

しかしその一言は隣にいた丑光さんにはきちんと聞こえていた


「ほう。女絡みですか・・・それは恨みも凄まじいかもですね」

「・・・聞かなかったことには?」

「・・・先輩の頼みなら。でも、そうですね・・・今度、りんどうちゃんのご飯ください」

「君もなんだかんだで餌付けされてるね。いいよ。一週間俺の弁当と引き換えだ。それでさっきの口滑りは忘れてくれる?」

「わかりました。それで」

「助かるよ」


りんどうのご飯の代わりに、しばらくは食堂生活になりそうだな・・・なんて思いながら、密かな取引を終える

そうして、俺たちの天ぷら祭り・・・じゃなかった。昼休みは賑やかに幕を開けた

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