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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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+)29日目②:山吹色の間

あれから車を走らせて数時間後

昼前に俺たちは高間自然公園へとたどり着いた


「しかし、覚にしては珍しい行先だよな」

「俺だってたまには花に囲まれたい時あるの」

「しょっちゅう囲んでるじゃないか。あ、ちゃんと普通の花だったりするか?」

「なんだよ夏彦その言い草はよ。なわけあるか。普通の花だよ」


「普通の花以外に何かあるんですかぁ?」

「うぐっ・・・伏兵か。視線が痛い。お前わかってんだろ」

「お前とは失敬な!訂正を要求します!その態度を続けるのなら干物にしますよ!」


りんどうと覚はなぜか仲良し

一緒にいるタイミングは非常に少ないはずなのに、昔からの友人のように言葉を弾ませる

そして、俺と話す時より凄く楽しそうなのだ


「・・・・」


なんだろう。このもやっとした感じは

複雑で、なんだか嫌な感じで気持ちが悪い


「お前、蛇とか食うのかよ!?」

「はっ!意外と淡白で美味しいんですよ!食べたことないんですか!」

「なんか食べちゃダメだろ!お前もとかげ食えんのかよ!」

「昔は食べましたよ!」

「え、とも・・・」

「別物でしょう!?」


二人の言い争う姿を眺め続けていたくない

そう感じた俺は、二人に小さく声をかけてその光景に背を向ける


「・・・少し酔ったのかもな。歩いてくるよ」

「いいでしょう。今度作ってやりますよ!食べてくださいよ!」

「望むところだよ!作ってみろよ蛇料理!」

「フルコースで提供してやりますから覚悟しておいてくださいよ!」

「こいよ。全部平らげてやんよ!」

「・・・聞こえてないか」


早足気味にその場を立ち去る


『いい加減にしなさいよ!なんなのよ、本当に!』

『あの男が選んだだけの低能さだ!それぐらいもわからないのか!』


何か、嫌な光景が頭の中に走る

誰かと誰かが言い争う姿

それを、俺は毎日見ていたような気がする


「・・・聞きたくない」


両耳を塞ぎながら、道を歩いていく

喧騒も、何もかもから目を逸らし続けたまま・・・ただ、ひたすら

ここではない、どこかへ


・・・・・


「・・・あれ、夏彦さん?」

「味にはケチつけ・・・どうした?」


私たちが言い争う中、夏彦さんがどこにもいないことにやっと気がつく


「夏彦さんがいなくって。どこに行かれたんでしょう」

「・・・トイレじゃないか?」

「私、探してきます。なんだか、嫌な予感がするので」

「じゃあ、俺はここで待ってようかな。戻ってくるかもだし。連絡もしてみるよ」

「わかりました!」


覚と役割を分けて、私は自然公園の中に入り込んでいく

休日なのでやはり来訪者は多い

しかし、彼のように特徴的な人物はいないからすぐに探し出せるだろう


「・・・匂いで辿れませんかね」


しかし、彼は香水をつけているわけでもないし・・・使っている柔軟剤の香りが少しするぐらいだ

同じ柔軟剤を使っている人に引っかかるかもしれない


「でも、これしか手がかりはない」


少しだけ残る柔軟剤の匂いを辿りながら、私は前へ進んでいく

その中で一つだけ、おかしな方向に向かっている香りがあった


「・・・自然公園から外れた山の中」


目の前はもう、自然公園ではあるが・・・舗装された道はない

まさかこちらに入ってしまったのだろうか


「・・・行ってみよう」


道なき道を歩き出す

その先から、柔軟剤の香りが強く香ってきた

落ち葉が足場の安定感を奪い、傾斜で何度も足が滑りそうになる

それでも、その先に


「・・・洞窟みたいな場所だ。なんでこんなに都合よく」


私は正直暗いところが苦手だ

あの神宮の先にあった儀式場の光景を思い出させるのなら、尚更

けれど香りはこの中から


「・・・仕方ない。入るしか選択肢はありません」


私は憑者神の姿をとり、軽く炎を纏う

炎はきちんと操れる。何度も特訓したのだから


「夏彦さん?」


洞窟の中に足を踏み入れて、彼の名前を呼びながら探していく

かなり進んでもまだ一本道のようだ。けれど彼は一体どこへ・・・


「夏彦さん、夏彦さん。どこにいるんですか」

「・・・・」


彼の声がうっすらと聞こえる

この先にいるようだ。私の足は少しだけ軽くなる


「・・・」

「ああ。夏彦さん。こちらにいらっしゃったんですね。よかった、帰りま・・・」

「君たちはずっとここにいるのか。そう。何年も、ずっと」

「・・・これは」


洞窟の先に広がっていた光景は、この世のものとは思えないような美しい場所だった

広がるのは、彼の髪と同じ山吹色の世界

雪霞様でも発現することのなかった、神語りが発現させることができる可能性があると言われる現世と常世を繋ぐ「はざまの世界」

村の中に残された神語りの資料でも、発現する可能性があるとだけ、歴代でも発現が確認できなかったと記載されていた力は確かに私の目の前に広がっていた


「何度も、思い出して、繰り返して・・・終わり、戻り、繰り返し・・・」

「夏彦さん」

「それでも、終わらない。悪夢は続いて・・・」

「夏彦さん、戻ってきてください。感情移入するのは悪いことではありませんが・・・それ以上は!」


それ以上にいくと、戻って来れなくなる気がする

もう既に目の焦点があっていない。この神語りも彼が意図して行ったものではないことも

・・・暴走状態にあるのは、明白だ


「熱い、燃えて、灰と炭・・・暗い、狭い、熱い、痛い・・・帰り、たい。寂しい・・・あ、い・・・たい?」

「夏彦さん!これ以上は貴方が常世に引きずられる!意識を取り戻して!」


焦点の合わない目を動かしながら、単語だけを呟き続ける彼の体を揺さぶり、意識をこちら側に引き寄せようと画策するが、なかなか上手く行かない

意識を飛ばしてしまえば楽なのだが、それは同時に、夏彦さんが今話している「お客様」にも隙を与えることになる

意識がなくなれば、夏彦さんの抵抗もなくなる。それは、彼が連れて行かれることと同義だ

このままでは、このままでは・・・!


『意識を保ちなさい、夏彦。全く、お前は何度鈴を泣かせれば気がすむのだ』

「・・・え」


彼と同じ山吹色の髪を持つ男性は、小さく笑いながら前へ進む

そうだった。ここは、現世と常世の間。彼がいても、おかしくはない


「せっ・・・」

『君はここに縛られているのだな。寂しいのはよくわかる』


夏彦さんの目を覆い閉ざし、それから彼をそっと後ろへ押し出す

力なく倒れた彼の代わりに、半透明のあのお方が、先ほどまで夏彦さんと対話していた誰かと話し始めてくれた


『しかし、私も彼も、まだこの世でやることがあるのだ。一緒に行くことはできないが・・・私が、次へ向かう道を切り開く。君はその道を真っ直ぐ進んで、その先に待つ人たちと合流しなさい』


彼がその誰かの手を取ると、その誰かの輪郭が浮かぶ。どうやら私より幼い少女のようだ


『お兄ちゃんは?』

『私はまだまだ、この厄介な来世を見守る必要があるからな。ほら、行きなさい。向こうで君のお母さんが待っているだろうから』

『わかった。ありがとう、お兄ちゃん。それと、一つ頼んでもいい?』

『なんだろうか』


少女は彼にあるものを手渡す

小さな金属の板。それには小さく番号と名前が彫られているようだった


『これはね、私を助けてくれた軍人さんの認識票。俺には必要ないからって。なんか将来いい女になったら返しにこいって言ってたけど、死んじゃったから返せなくて』

『その軍人さん女癖悪そうだな・・・いいぞ。私が代わりに返しておこう』

『ありがとう。お兄ちゃん!』


お礼を告げた後、少女は背中を向けてその先へと旅立っていった

それを見守った後、彼は眠る夏彦さんの胸の上にその金属板を置く


「どうして、ここに・・・」

『・・・まだ、話す時ではない。時が来たらきちんと話すから』


私の口に指をのせた彼は、いつもの笑顔でそう告げながら消えていく

智が出てきたのだから、可能性はあると思っていた

けれど、こんな唐突とは思わなくて、私も動揺していると思う

同時に、再び出会えたことが

再び言葉を交わせることが、心から嬉しく思うのだ


「時がきたら、きちんとお礼と挨拶をさせてくださいね・・・」


消えた彼がいた場所に会釈した後、私は眠る夏彦さんの側へ駆け寄る

穏やかな寝息を立てている彼を起こすのは、流石に気が引ける

それに無意識の神語り。そして暴発・・・かなり体力を消耗しているはずだ


「・・・覚を呼びますから、しばらく休んでいてくださいね」


頭が流石に地面についたままなのは痛いだろうから、鞄の中からタオルを取り出して頭の下に敷いてあげる

それから覚に連絡をとって、位置データーなるものを送った後、私は彼の側で夏彦さんが送るのを静かに待つ

胸に置かれた認識票が邪魔そうだったので、私が預かっておこう


「・・・いち瀬朔也せさくや星月博人ほしつきひろと。両方違う人物の認識票じゃないですか。あ、もう一枚ある。朝比奈巴衛あさひなともえ・・・全部違う人物の認識票じゃないですか!」


あまりにも難題でぶん投げそうになるが、あの方が受けたことだ。御付の私が叶えなければいけないことだと思う

その認識票を鞄の中に入れた後、覚が来るまで小さな火を灯す

自前の炎だ。火力の調節は難しいが、それでも・・・これは私にできることだから

きっともう、あの子は行くべきところに行ってしまっただろうけれど

迷うことがないように、まっすぐと道を照らし続けた


・・・・・


「・・・ん?」

「やっと起きたのかよ。夏彦。今日はお前、随分寝すぎだな・・・」

「覚か・・・りんどうも・・・というか、ここどこ?」

「覚えてないのかい。まあ、動けそうなら肩貸してやるから早く出ようぜ。寒い」

「へくち!・・・確かにな。りんどうは?」

「私はこれぐらい・・へくち!」


大丈夫と言おうとしたりんどうも隣で小さなくしゃみをする

その光景に、俺たちは面白がって笑いが溢れるが、覚は若干呆れた視線をこちらに向けていた


「あー・・・二人揃って鼻水たらしてー・・・ばっちーの」

「しょうがないだろう・・・外で寝てたんだから」

「はい。夏彦さん。ティッシュですよ」

「ああ。ありがとう」


りんどうからティッシュを受け取って、俺たちは同時に鼻をかむ

それから鞄の中から三角に畳んだビニール袋を取り出す

それを開き、ゴミを入れて結び・・・それを持ち運ぶ


「まあ、結構冷えたしさ・・・昼時だし何か食べに行く?」

「何かって・・・この辺り何があるんだよ」

「まあそれはドライブしつつ探すとして・・・とにかくここから出ようぜ」


覚の意見に頷きながら、俺たちは来たらしい道を戻っていく

なぜ俺はあんなところで寝ていたのだろうか

とても気になるのだが・・・

その疑問には、二人とも答えてくれそうにない

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