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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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28日目②:巳芳家の罪深き八人兄弟

「・・・お待たせしました、栄太さん」


ロングスカートのクラシックタイプのメイド服

ご丁寧にウィッグや、肩を丸く見せるための服まで用意されていた。そこまで完璧に女装しろというのならこちらだって全力を出したくなる

メイドさんたちに化粧を手伝ってもらい、俺はできることをしたうえで彼の前に紅茶を運んだ


「ひひひひひひひひひひひひひひひひひひこにゃー!」


栄太さんはあふれ出る鼻血を抑えて、一眼レフを構える


「某ゆるキャラの着ぐるみが一番のお気に入りだからって、その呼び方は流石に堪えるのでやめていただけますか、ご主人様」

「どこからどう見ても女の子よねえ・・・うちのメイド部隊の化粧術も素晴らしいわ。これからも精進して頂戴」

「ありがたきお言葉です、奥様!」

「東里ほど幼い見た目じゃねえけど、夏彦の場合顔が整ってるからなあ・・・何やらせても期待値以上のものはお出ししてくるよな。高田。写真を」

「承りました、坊ちゃま」


彩花さんはメイド長、覚は執事長に指示を出す

写真をなぜ撮るのか。それは俺への脅しという訳ではなく、父親への取引材料にするためらしい

今まで脅し目的に女装写真を使われたことがないのは救いだと思う


「・・・」

「りんどうも、興味あるか、メイド服」

「なぜ俳句風に・・・でも、そうですね。あんなフリルが付いている服は初めて見ましたので・・・少し気になります」

「ふふーん。だってよ御袋」

「ここに用意しているわ。どうかしら、メイド服」

「で、では。お言葉に甘えて・・・」

「じゃあ、この隣の部屋でお着換えしておいで。メイド長、着せてあげて頂戴」

「はい。では、行きましょうか、りんどう様」

「はい」


メイド長に連れられて、りんどうは今いる食堂を後にする

それを見送ってから、俺は表情に張り付けていた作り笑顔を剥がして覚を睨んだ


「・・・覚、なんでりんどうも巻き込んだ」

「だって着たそうにしてたし・・・」

「そう言う問題じゃないだろぉ・・・」

「ひこにゃー、おかわり」

「少し黙っててくださいませ、ご主人様!」

「うん・・・ごめんよ」


紅茶のおかわりは執事さんが代わりに注いでくれる

対応が少し雑だったことに申し訳なさを思いながら、やりきれない思いをどこにぶつけるべきか考えた


「・・・しっかり役作りをこなしている。お母さん、満点あげちゃう!」

「満点なんていりません、お母様!あっ間違えた・・・奥様!」

「まあ、お母様・・・ああ、もう死んでもいいわ」


今度は彩花さんが机に突っ伏す。間違えなんて気にしている場合ではないらしい


「・・・お袋も親父も、息子相手の接し方と、夏彦への察し方全然違うな。だからあいつが不満を抱くわけだぞ・・・?」


覚は目の前に置かれた紅茶を口につけながらぼやいた

俺は息を吐いて、りんどうの着替えが終わるのを待った


・・・・・


廊下に出ると、そこには七人の青年が立っていました


「あの、貴方たちは・・・?」

「お前、覚の連れか?」

「・・・いいえ、夏彦の連れです。何か?」

「ああ。すまない。夏彦さんの連れならいいんだ。あいつ以外は、だろうけど」


奥の方にぬいぐるみを抱いて歯ぎしりする少年がいる。話に出ている子はあの子だろう

けれど、青年はそんな少年に目を向けることなく、話を進めていく


「申し遅れた。俺は巳芳敬磨みよしけいま。まあ、お嬢さんたちを連れてきた無能のすぐ下の弟にあたる存在だ」


そして、敬磨と名乗った青年をはじめ、七人の青年は私に膝を立てる


「お会いしたかったです、辰の憑者神様」

「・・・何のことでしょう」

「すっとぼけなくても、巳の家系である我々にはわかります」


私は、彼らの言葉に溜息を吐いてその姿をとる

しばらくは夏彦さんがあの三人の相手をするのだろう。だから、彼らと話す時間は十分にある

嘘をつくのは申し訳ないが、着替えに手間取ったと言えば、追及もないだろうから


覚に彼らと話した事実が漏れることもないだろう

なんせ、敬磨は実の兄を無能といい、そして呼び捨てにしていた

兄弟仲はよろしくなさそうだ。彼らとの会話が、彼に伝わることはないだろう


「・・・それで、私になんのようで?」

「・・・あの無能の事でお伝えしたいことがございまして。お気に入りであり、神語りのお方でもあるあの方にとっても関わるお話でしょうから」


彼の真剣な表情を、拒絶しようとは思えなかった

それに、夏彦さんに影響があるのなら・・・猶更聞いておかなければならないだろう


「聞かせてもらいましょうか。智の末裔」

「ありがとうございます。最近、あの無能は丑の者をご先祖様同様、追っているようで」

「丑を、ですか?」


丑と言えば、この前うちに来た丑光恵さんの事だろう

智の血を継いでいるなあ、と言えばそうだろうけど・・・それの何が


「その影響で、あの男は少しずつ身体に呪詛を取り込んでいます。丑の呪詛の危険性は、同じ時代に生きておられた貴方様なら、わかりますよね」


憑者神にはそれぞれ入り込む神に応じて、能力が使用できるようになる

私が「治癒」を使えるように、卯の東里であれば姿を消すことが出来る「隠密」を、巳の覚をはじめ、おそらくこの七人も蛇を呼び出せる「召喚」・・・それに智が独自に編み出した技も使えるのだろう


なんせ、巳芳家は憑者神の直系なのだ

東里や丑光さんのように、憑者神であった人間の血筋ではない

憑者神のまま祭典の終わりを迎えた智の直系である彼らは「神様の子」だと言った方が正しいだろうから

覚以外にも、その能力が使えてもおかしくないのだ

だからその力で覚を監視していたのかもしれない

そして、丑に辿り着いた


「・・・ええ。数多の人間を再起不能にし、死をもたらした「魂壊しの呪詛」。その危険性は目で見てきました」

「・・・覚が呪詛吸いを行い始めたことは?」

「いいえ。何も・・・覚は智の行動をなぞっていると考えてもいいのでしょうか?」

「そう考えてもいいです。あの男は神語りに近い位置にいる。もしもの事があるかと思い、お知らせに参りました」

「・・・御忠告、ありがとうございます。私の方でも気をつけましょう」

「お気をつけください。辰の憑者神様」


「ええ・・・ところで、敬磨さん」

「なんでしょうか?」

「・・・彼らのお名前をお聞かせくださいますか?私、貴方たちの事を何も知りませんから」

「それはそれは・・・そうですね。自己紹介をしなければいけませんね。気づかず申し訳ないことをしてしまいました」


そう告げると、七人の青年は立ち上がり、恭しく振る舞う


「改めまして、次男、巳芳敬磨と申します。以後、お見知りおきを」


先程まで私と話していた青年が先陣を切る。傲慢な青年は、私を神として敬うふりをしつつどこか見下していた


「かったるいけど、んぐんぐ、やろうかね。三男、巳芳喰みよしはみだよ。ご飯をくれるなら、問題事も協力してやっていいよ」


次に、ひたすらパンを貪り、肥えた身体を揺らす青年。暴食気味な青年は、挨拶の礼儀すら欠き、ひたすら食欲に従い続けた

けれど、ご飯が取引に使えるのなら、いい手駒になりそうだ。一つ、覚えておこうと思う


「夏彦の連れと言葉を交わすなんて嫌だけどね。四男、巳芳暮みよしくれ。よろしくしないから・・・」


次に、ぬいぐるみを今にでも裂きそうな勢いで少年のような青年は名乗る

憤怒に飲み込まれそうな勢いを持つ彼は、両親に愛されたいのだろうけど・・・きっと、それは叶わない

彼が、巳芳家の後継ぎ候補である以上、望むものは得られないのだろうから


「五男、巳芳幾里みよしいくり。ねえ、辰の方。この後俺の部屋でいいことしない?」

「六男、巳芳憂衣みよしうれい。幾里、マジで女連れ込んで俺の邪魔すんの勘弁してよ。鬱拗らせて死にたくなるから」


ノリが軽く、覚とよく似た雰囲気を持つ青年は、頭が色欲で埋め尽くされているようだった。彼に近づくのはやめておこう

そして、彼と同じ顔を持ち、隣で溜息を吐き続け頭を抑える青年は、憂鬱そうに目を細めて、瓶の中から錠剤をいくつも取り出して、一気に飲み込んだ


「兄様たちは本当にダメダメですね!七男、巳芳輝基みよしてるきです!よろしくお願いいたします!」


兄たちのダメダメ具合を一蹴した、礼儀正しい少年

しかし、彼こそ一番、彼らに劣っているような気がする。強さを、虚飾しているのだろうか。そんな印象を抱いた


「ふわぁ・・・八男。巳芳睡みよしねむ。もういいでしょう、寝かせてよ・・・」


そして、巳芳家の最年少である八男の彼は、面倒くさそうに瞳を閉じる。その睡眠欲、いいや、怠惰っぷりは見てられないほどだった


以上が、智の子孫たち。そして覚の弟たち

とても個性的な弟たちは挨拶を終えたら、そそくさと帰っていってしまった

私はその背を見送ってから、当初の目的を果たしに行く

これから起こる、不吉な予感を胸に留めながら・・・・


・・・・・


「着替え終わりました」


しばらくすると、りんどうが戻ってくる

俺と同じ、ロングスカートでふりふりのメイド服に着替えた彼女は、いつもと違う髪型で食堂に戻ってきた

青緑の髪を両サイドで三つ編みにして・・・それを揺らす

鈴も、カチューシャに付属して揺れていた


「化粧をしてくれたのね」

「はい。初めてだということで」

「そうなの、りんどう?」

「はい。化粧には縁がなかったもので・・・」

「メイド長!一式まとめたものを手土産の中に入れておきなさい!」

「承りました!」


彩花さんはメイド長にそう指示し、メイド長は早速行動に移してくれる


「覚!衣裳部屋行くわよ!こんなのじゃ足りないわ!」

「・・・あいあいさー」

「りんどう」

「はい、夏彦。どうでしょうか、こんな服、初めて着るので」

「とっ「ひこにゃー!どにゃー!並んでー!こっち向いてー!」

「「少し黙っていてください!」」


叫ぶ栄太さんに一声かけて、彼女の姿を俺は眺める

少し変わった姿の彼女が現れたのを皮切りに、栄太さんと彩花さんのスイッチが入ってしまったようで、俺たちはこれから様々な着せ替えをされて写真を撮られる


それが終わるのは、食事の休憩を挟んで・・・・彩花さんと栄太さんの熱が眠気と入れ替わった頃

それこそ、日付が変わる頃だった

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