+)27日目:先輩とお昼ご飯を、一緒に
お昼休み
「・・・やっと、お昼だぁ」
「あーあ、今日も見事に伸びちゃって。まだ寝不足続いている感じ?」
「はい。最近、さらに酷くって・・・」
早速と言わんばかりに気を抜いた丑光さんの体調は日を増すごとに悪化していた
「流石にこれ以上は放っておけないよ。病院に相談してみたら?」
「行ったんですけど、心療内科勧められて・・・今はそこに」
「「意味なさそう・・・」」
「先輩方・・・」
俺と覚が同時にそういうと、丑光さんもですよねと言わんばかりの表情を浮かべる
相談程度で解決できていたら、今頃丑光さんは以前のように元気に過ごしていたはずだ
「あ、でもですね。大学時代の友達に相談したら、もしかしたら息抜きで治るかもって言われて・・・先週末に遠出したんですよ」
「へえ。どこに行ったの?」
「高陽奈です。高陽奈動植物園に連れていってもらいました」
「あ、俺も昨日行った。残念だったよね。植物園」
「え?色々な花が咲いて綺麗でしたが・・・」
「俺が行った時は、全部枯れていて全部緑」
「枯れたって・・・本当?」
なぜか、覚が話に食いついてくる。動植物園なんて興味ないと思っていた
こいつの家の庭はそんじゃそこらの植物園以上の規模があるし・・・
でも、気になるのなら話してあげたほうがいいだろう
植物園に、どんな人物が出入りしていたのかも・・・事細かに
「ああ。三波さん・・・植物学者とか、大社から派遣された人とかいたみたいだ。呪いがどうとか言ってた」
「呪い・・・ですか。何があったんでしょうね」
「・・・そろそろかなぁ」
丑光さんが怯える横で、覚が楽しそうに笑う
悪趣味だな・・・と思いつつも、彼が告げた言葉は俺も丑光さんも上手く聞き取ることができなかった
「覚、何か言ったか?」
「なんでも。ところでお二人さん、そろそろお昼でも」
「そうですね・・・先輩は、りんどうちゃんのお弁当ですか?」
丑光さんが俺の弁当の包みを覗き込んでくる
その目は少しだけ輝いて見えた
「うん。一口あげようか?」
「いいんですか!?」
「もちろん。それじゃあ、食堂へ行こう。覚もいくだろう?」
「俺はこれからちょっと用事」
「外出予定あったか?」
「いや、実家の方。昼に一度連絡を入れろって言われててね。明日、実家に行くからさ」
「もう明日か・・・早いな」
「明日は頼むぞほんとに。まあそういうことで俺は今日一緒にお昼できないんだよね。お二人でごゆっくりー」
覚の背を見送った後、俺と丑光さんは食堂へと向かっていく
俺が先に空いている席をとって、その間に丑光さんは定食を受け取りに食堂の列に並ぶ
「あ、夏彦だ」
「良子か。久しぶりだな」
声をかけてきたのは沖島良子
東里に声をかけられてこの会社に勤める俺の同期だ
もちろん事務課に所属している
この会社で、俺が覚と東里を除けば砕けた口調で話せる唯一の存在かもしれない
「久々よ久々。どう、インフル」
「もう一週間近く前のことだぞ。元通りに決まってるだろう?」
「それならいいのよ。そういえば、あのバカは今日いないわけ?いつもあんたとワンセットだから」
「覚か?あいつは今から外だってよ」
「ちっ。昼飯奢らせようって思ったのに」
「そこまで切羽詰まってるのか?」
「いや全然?あいつ従わせるの楽しいから」
「左様ですか・・・」
良子と覚の間には、並々ならぬ因縁があるのだが・・・二人とも詳しく話してくれないので詳しくは知らない
ただ、覚が大学時代に慰謝料を払うことになった一件には・・・良子が絡んでいるとだけ
・・・なかなかに複雑らしい
「あれ、沖島次長?どうかされたんですか?」
「へえ。今日は営業のホープとか。バカと違ってちゃんと面倒見てるわけね。じゃあ、その弁当は?あんた料理できないわよね?遂に彼女でもできたの?」
「・・・別にいいだろ。ほら、人空いたんだからそろそろお前も定食取りに行ってこいよ」
「はいはい。お邪魔虫は退散と」
「そうは言ってないだろう。そうは」
俺と良子の会話に入り込めない丑光さんは、お盆を持ったまま、俺と良子を交互に見つめる
その視線に気がついた良子はきちんと退散してくれるらしい
「それじゃあね。夏彦。今度詳しい話聞かせてよ」
「わかったよ・・・」
「ごめんね、丑光ちゃん。ごゆっくり!」
嵐のような勢いで去っていった良子を見送りつつ、丑光さんに席に座るように促す
「先輩、沖島次長とは・・・」
「唯一の同期。創業時、俺と東里と良子の三人で切り盛りしていたんだ」
「そうだったんですね・・・凄く、仲が良さそうだったので」
「仲はいい方だけど、悪友みたいな感じかな。家でもあの調子だと思うと、旦那さんは大変そうだ」
「・・・ほ」
「?」
「い、いえ!先輩、ご飯食べましょう!ご飯!」
「ああ。うん。いただきます」
「いただきます」
丑光さんが慌てた理由はわからずしまい。話を切り上げられて、そのまま食事へと移っていく
「丑光さん、どれが食べたい?」
「どれも美味しそうなんですけど・・・先輩、羨ましいです」
「じゃあ全部ひとつずつね。これとこれは冷凍食品だから。この煮物とポテトサラダ、お魚フライはお手製だよ。お皿に置くね。味噌汁はどうする?」
「ありがとうございます。いただきます。味噌汁は、器は・・・」
「先に出された味噌汁飲んじゃいな。その中に入れるからさ」
「わかりました」
以前覚にしたように、俺はお弁当の一部を丑光さんに分け、そのまま食事をしていく
それから丑光さんは味噌汁を飲み、空になった器を俺に差し出してくれた
その中に、俺はりんどうお手製の味噌汁を半分注いで、これで完了だ
「私からは唐揚げを二つ。たくさんもらったので」
「ありがとう。なんだか久々だな」
俺の弁当の中に丑光さんの唐揚げが二つやってくる
お弁当の中にお肉があるという光景は初めてだし、唐揚げを食べるのも久しぶりだ
「りんどうちゃん、唐揚げ作らないんですか?」
「りんどうの得意料理が和食だから。お肉料理は特訓中だってさ」
「あんなに美味しいのに・・・カレーもあれが初めてだったりしますか?」
「みたいだよ」
「凄いですね・・・」
丑光さんは煮物のじゃがいも箸で掴み、それを口に入れる
「うわぁ・・・出汁がしっかり聞いて、ホロホロと崩れて最高ですね。毎日頂きたいです」
「それはよかった」
それから、俺たちは無言で食事をとっていく
それからしばらくした後、食事を終えた俺たちは食堂から出て、仕事場へ
その間、色々と会話をしながら進んでいく
「そういえば、巳芳先輩がこう言っていました。先輩はかなりのヘビースモーカーだったと」
「そうだな・・・落ち着いたのは高校時代の先輩が呼吸器の病気になったタイミングで、完全にやめられたのはりんどうが来たタイミング。たまに吸いたくなる時あるけどね」
「やはり食事とか、ストレスとか関係があるのでしょうか」
「あるかもしれないね・・・」
丑光さんの寝不足は全然治らない
どうしたらいいのだろうか
「そうだ。半年経ったし、今度、思いっきり有給取ってみたら?そこで一週間ぐらいゆっくりしたら疲れも取れるかも」
「そうですね・・・試してみます。先輩、ありがとうございます。色々と話を聞いていただいて」
「これぐらいしかできないからね。また何かあったら相談して。俺ができる範囲で協力するからさ」
「ありがとうございます」
「さて、そろそろお昼休憩も終わり。午後も頑張ろう」
「はい!」
仕事場に戻り、俺たちは午後の仕事に戻っていく
明日は土曜日。今日を踏ん張ればまた明日はのんびりできるだろう
少しでも彼女の寝不足が改善されるようにと願いながら、俺は仕事に意識を集中させた




