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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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+)26日目⑥:重なる一つの波

一方、植物園

仕事に戻る前に、俺はある人物に連絡をしていた


「もしもし。一馬兄さん」

『どうしたの、三波。薫さんに何かあった?』

「二人揃って元気だよ」

『それはよかった、で、なんで三波は僕に連絡をしたのかな?』

「なんでって、なんでだろう・・・久々に、声が聴きたかったとか」


自分でもわけのわからない行動をした自覚はある

それを告げると、電話越しの一馬兄さんは面白そうに笑っていた


『可愛いねえ。その可愛さ、絶賛思春期な司に分けておくれよ』

「あいつ、今大丈夫なわけ?」


兄弟たちはどんどん成人して、それぞれ九重家から出て一人暮らしをしたり別の家庭を持っていたりする

かという俺も、実家を出て一人暮らし。大きなおまけがついてきたが・・・まあ許容範囲内だ。今も一緒に暮らしている

まだ未成年の奏と司は実家に暮らしている


最も、奏の奴は双馬兄さんのところに居座っているみたいなんだがな・・・兄さんもよく許すよ

・・・俺だったら蹴って追い出すのに


まあ、話の話題は末っ子の司のこと

高校に進学したはいいが、絶賛思春期で会話は以前に比べて少ないらしい


『司もなんだかんだで、難なく色々とできちゃうからね・・・第二の双馬ができたらどうしようって不安の方が大きいよ』

「あれはない。双馬兄さんみたいに拗らせることはないから」

『断言するね。なんで?』

「何か拗らせたら俺が殴り飛ばしに行ってやるから」

『暴力的なことは苦手なんだけどな・・・』

「ばーか、兄さん。たまにはさ、こういうのも必要だろ?」

『・・・怪我しないようにね』

「わかってる」


兄さんから許可を得たので、今度家に帰って驚かせてやろう

そしていうのだ。反抗的な態度を取るのは勝手だが、飯食わせてもらってる一馬兄さんの手だけは煩わせるなと

どうせその反抗心を剥き出しにするのならば、俺だけに向けろ

ああ、もちろん全力で受け止め・・・るわけねえよな。かかってきたと同時にへし折ってやるから、と


それを言った時の司の反応は気になるが、まあ・・・九重家は強いて言えば深参兄さんがやんちゃ気味。俺がわりとおかしくなっていた時期が少し。清志が生粋のクソ野郎だったという特徴はあるけれども・・・他は総じていい子ちゃんなのだ

それは司も例外ではない


ただ、俺たちには両親がいない。父さんがいて、母さんがいて、その庇護下で過ごす

そんな普通の家庭環境というものを、俺たちはともかく、物心つく前に両親が死んでしまった司は知らない

だからこそ、兄弟姉妹で手を取り合って俺たちは普通に近づけるように頑張ってきた

わからないなりに、自分なりに


一馬兄さんは今後もいい父親役であるだろう

しかし、なかなか叱らない彼の代わりに叱る役も必要だ

それは俺でいい。憎まれるのには慣れている


『司は小学生の頃から三波にこき使われてた分、反抗心は凄まじそうだけどね』

「なあに。ツタで締め上げれば問題ない。情けなく泣かせてやる」

『三波は一体大学で何を作っているわけ・・・?』

「内緒」


人を見かけたら全身を飲み込み、もぐもぐ甘噛みしたくなる性質も持つ花とか、ヌメヌメした触手を持つ植物とかなんか出来上がったけど、これの実験台はどこにもいなかったからちょうどよかった

司、喜ぶだろうなぁ・・・

自分でも邪悪な顔をしている自覚を持ちつつ、俺は今度こそ本題に入っていく


「それとさ、今日仕事で高陽奈の植物園に来てるんだけど、そこで夏彦らしき男を見かけてさ」

『間違いなく夏彦じゃない?あそこまで特徴的な人はそうそういないから』

「うん。そう思ったんだけど、夏彦にしては珍しく連れがいたんだよな」

『連れ?青緑色の髪を持った女の子?』

「うん。一馬兄さん知ってるの?」

『夏彦の同居人だよ。まあいろいろ事情があるみたいだから詮索しないでやってね』


「了解。いや、あいつらも残念な時期に来たよなって思ってさ」

『残念な時期?』

「ああ。今、俺が調査に来ている植物園さ、五日前ぐらいから花が見事に全部枯れたらしくて」

『それはなんか・・・すごいね』


「ああ。なんにせよ、超常的な力・・・まあ平たく言えば「呪い」が関与しているらしくてな。今は浄化中」

『浄化・・・しかし三波、守秘義務とか』

「俺個人の疑問だから、その辺りは黙っておいてくれよ」

『わかったよ。それで、三波の疑問って何かな?』

『丑の呪詛って言葉に聞き覚えある?一馬兄さん、そういう民俗学もいけるだろ?』


俺が聞きたかったのは、これだ

二ノ宮の話だと、呪いの名前は「丑の呪詛」

その全容は大社でも知らないそうだ。だから別方向で調べてみようと動いてみた

電話の一馬兄さんは少しだけ考え込むが、答えはすぐに飛んで来た


『ここから少し離れた場所にある柳永町に、憑物神という因習があったと言い伝えがある。その神様の能力の中に、丑の呪詛は確かにあったはずだ。詳しく調べてみないとわからないけれどね』

「なるほどね。柳に永遠の永で柳永?俺の方でも調べてみるよ」

『僕の方も調べ直してみるよ。またわかったら連絡する』

「助かるよ。あ、そろそろ終わるって。じゃあ、また」

『またね。三波』


そこで通話が切れる

それを確認して、俺を呼びに来てくれた薫が声をかけてくれた


「三波さん。終わったみたいなので呼びに来ました」

「助かる。なかなか時間がかかったな」

「かなり強い呪いみたいですよ」

「そりゃあ・・・無意識で発動させたんだろう?そこまでの威力があるのか?」

「らしいです」


「・・・変なものに、首を突っ込ませたかもしれない」

「?」

「なんでもない。仕事、終わらせにいこうか」

「はい!」


薫と共に植物園へと戻っていく

俺が打ったこの一手が、一馬兄さんを再び非日常に引き摺り込んでいたことを知るのは・・・全てが終わった後になる


・・・・・


三波との通話が終わり、一息つく


「どうしたの、一馬兄さん」

「司」

「なんだか浮かない顔をしているから。何かあったなら聞くよ」

「珍しいね。いつもは話したくないっていうのに」

「いつもはいつも。一馬兄さんはよく体調崩すから、何かあったのか不安で」

「・・・大丈夫だよ。僕はもう元気だからさ」

「それならいいけど、無理はしないでよね」


そう言って司は部屋の方に戻っていってしまう

その姿を見送りながら、僕は密かに考える

なんだろう、この不安は


「・・・夏彦の祖父母が住んでいたのは、柳永町だったよね。母親も、そこ」


今、何かに巻き込まれているらしい後輩の姿を思い描く

なんだろう。本来ならば関係ないはずの三波の一件と夏彦の一件

どこか無関係ではないような気がして、心臓が早鐘を打つ


「・・・調べてみないとな。柳永の因習」


僕は自室に戻って、今後の計画を立てていく


「心配が杞憂だといいんだけどね」


調べるのは、柳永村の因習「神憑きの儀」

そこから派生させて、辿って行こう

情報と情報が結びつくその時まで、慎重に


・・・・・


一方、帰宅後の俺とりんどうはのんびり過ごしていた


「んー」

「夏彦さん。チンアナゴに抱きつく前にお風呂入っちゃってください」

「まだだるくて・・・」

「帰ってきて何時間経ったと・・・まあ、目も見えなくて大変でしたもんね。今回は許しましょう。でも、お風呂に入ってきたらアイスが待っているんですけどねー」

「アイス・・・」


りんどうは食いついた!というようにニンマリと笑う


「冬のアイスはある意味贅沢ですよね。暖房が効いた空間で、冷たいアイスを食べる。些細なことなのに、少し贅沢感のある時間を夏彦さんと一緒に過ごしたかったんですけどねー」

「入ってくる」


自分でも異様なぐらい体がすんなり動いたので驚きを隠せない


「ゆっくり入ってくるんですよ。お風呂は五百数えてから出てきてくださいね。スキップはダメですよ」

「わかってるよ・・・子供扱いしないでくれ」


りんどうに子供のような感じで言い聞かせられながら俺は風呂場へと進んでいく

慌ただしい日常は、こうしてゆっくりと過ぎ去っていく

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