26日目⑤:思い出の品
売店はやはり、沢山の人が集まっている印象を受ける
「りんどう、一人で行く?」
「いえ、ここは夏彦さんも一緒ですよ!」
私は彼の手を引いて、人が沢山いる場所に突撃する
「わあ、キーホルダーですよ。ステンドグラス風で可愛らしいです」
「むう・・・ああ、そうだな」
近くに顔を近づけながら、それをまじまじと見る
色々と種類があるようだ。クラゲ、アザラシ、エイ・・・このコーナーは先ほど見た海の生き物中心のようだ
隣には、キリンやクマなどのキーホルダーも販売されていた
その中で、私が手に取ったのは・・・
「鮭のステンドグラス風キーホルダー、可愛いのですが、オカメインコと悩みますね」
「悩む要素あるのか・・・?」
「なにおう。鮭は美味しくて可愛いではないですか!」
「美味しいは肯定するよ。ほら、こっちに鮭のミニチュアキーホルダーがあるぞ。いくら付きだ。こっちの方がリアル感あるぞ。切り身タイプもあるぞ」
夏彦さんがそう言って差し出したのは、鮭をそのまま小さくしたようなキーホルダーと鮭の切り身のキーホルダー
両方とも付け根の部分には鈴のカタチになったイクラが付いている。なんと細かい
「なんでそんなものが売ってあるんでしょうね・・・?売れるんですかね?」
「真面目に返されると反応に困るな・・・」
正直言うと、切り身は原型を留めていないので却下ですかね・・・ごめんなさい
しかし、夏彦さんが選んでくれたリアル鮭。死んだ魚の目が絶妙に可愛い
こっちとステンドグラス風キーホルダー。候補が増えてどれを買うか悩んでしまう
「この鮭、可愛いですね」
「りんどうはその、きも可愛いのが好きなのか?」
「この子、きもくないですよ?普通に可愛いですよ?」
「・・・左様で」
夏彦さんが若干困惑した表情を浮かべている。私は何か言ってしまっただろうか
「しかし、どれにするか悩んじゃいますね」
「ゆっくり悩んでいいからな?」
私は頭の中で思案する。値札の金額は一緒だ
ステンドグラスなオカメは仕方ないですけど、候補外にしましょう。可愛いですが、私は食べられることを重視します。オカメは残念ながら食べられません
ここは、ステンド鮭とリアル鮭の一騎打ちとなるようです
両方可愛いので猶更悩んでしまう。美味しそうに見えるのは、ステンド鮭でしょうか
しかし、やはりというか・・・夏彦さんが選んでくれたわけだ
やはりここはリアル鮭に軍配が上がっていく
「・・・決めました!リアル鮭にします!」
「・・・よりによってリアル鮭なのか」
そう言いながら夏彦さんはまじまじと商品棚を見て、私が悩んでいたオカメと鮭のステンドグラス風のキーホルダーを手に取った
「夏彦さん?」
「・・・別に。君が買わないのなら俺が買おうかなって。ほら、それも一緒に買ってくるから、渡してほしい」
「いいのですか?」
「言いに決まっている。さあ、買いに・・・む」
二つのキーホルダーをもってレジに向かおうとした夏彦さんは、ぬいぐるみコーナーで立ち止まる
そこにいるのは、水玉模様の身体を持つ細長い生物だった
「・・・チンアナゴだ」
「ああ。あの細くてにょろにょろした生き物ですね?夏彦さん、お好きなのですか?」
「・・・なんとなく」
彼はチンアナゴのぬいぐるみを持ち上げる
なんだか懐かしそうに目を細めた彼は、なんだか物欲しそうにチンアナゴと目を合わせ続ける
「ぬいぐるみ、いいと思いますよ」
「そうだな」
「もしかしたら、夏彦さんは小さい頃、チンアナゴのぬいぐるみを持っていたのかもしれませんよ?だから、懐かしさを覚えるのかもしれません」
「・・・だから、なのか。なるほどな」
夏彦さんは私の言葉に納得したようで、チンアナゴのぬいぐるみを二つ手に取った
一つは最初に手に取った、手のひらサイズのチンアナゴ。もう一つは・・・
「夏彦さん?なんで一番ロングなサイズをお取りに?」
「え、だって抱いて眠れないし・・・」
「・・・小さい頃の夏彦さんは、チンアナゴを抱き枕にしていたのかもしれませんね」
「ああ。だから無性に抱きたくなるんだよ。だからかもな」
夏彦さんはチンアナゴにむぎゅーっと抱き着き、子供のような笑みを浮かべる
彼が笑ったところを見るのは、なかなか巡り合えない。しかもこんな無邪気な笑顔は初めてではないだろうか・・・
まだまだ彼の知らない部分はあるようだ。過去だって、その最たる例
聞いている話以外にも、彼にはまだ・・・何かあるのではないだろうかと、不安を抱いた
「・・・どうしたんだ、りんどう」
「いえ・・・」
「もしかして、りんどう・・・」
「な、なんでしょう・・・!」
「りんどうも、ぬいぐるみが欲しいのか。わかるぞ、うん。可愛いもんな」
「・・・」
とりあえず、そう言うことにしておこうかな
私は彼の言葉に肯定の意を示すように、無言のまま頷いた
「アザラシとか可愛いと思うぞ。抱き心地もよさそうだし」
「アザラシも捨てがたい!私、あのオカメちゃんも気になって」
私は近くにあった動物園の方のぬいぐるみコーナーからオカメインコのぬいぐるみを手に取ってくる
「りんどうは、今日だけでオカメインコに魅了されたんだな」
「だって、可愛いがすぎるんですよ!でも、アザラシも、凄くだらーんとした脱力具合が可愛くて・・・!」
その二つの動物に共通しているのは、夏彦さんに近かったことだった
オカメインコは夏彦さんと頭がよく似ている。色だけ、だけど
アザラシは夏彦さんと動きがシンクロしていた。脱力感も、起きたての夏彦さんとよく似ている印象がある
・・・我ながら、実にわかりやすくて複雑だ
「俺も二つ買うし、りんどうの分も二つ買おうか。大きさも好きなものを選んでくれ。遠慮せずにな」
「じゃあ、じゃあ、私もこっちの抱き心地がよさそうな私の身長ほどの大きさなアザラシを!」
「いいよ。ほら、欲しいの持ってレジに行こう」
「はい!」
私たちは、欲しいものをもってレジへ向かう
支払いの際、予想以上の金額だったようで、夏彦さんの眉間が小さく動く
私は少し節約を、お財布に優しいご飯を作ろう、と心に決めながら会計が終わるのを待った
・・・・・
「夏彦、りんどうちゃん・・・うわ、凄く満喫してきてるね」
「すげー荷物だな・・・」
午後三時、俺たちは動植物・水族園の駐車場で待っていた東里と覚と合流する
どうやら、釣りは早めに切り上げたようだった
「釣り、終わったのか?」
「うん。大収穫だよ。夏彦にも後でおすそ分けするね」
「ありがとう。あと、これ、後ろに積んでもらえるか?」
「勿論。荷物は預かるから二人は先に後ろに座っていて」
「助かる。りんどう、案内をお願いするよ」
「はい」
東里に大きな荷物を預けて、俺は彼女の案内で車の後部座席に座る
りんどうも、その隣に腰かける
シートベルトを付けて、いつでも出発できるように準備を整えた
「荷物、積み終わったよ」
「ありがとう、東里」
「いえいえ。それと、はいこれ」
「・・・これは、俺の眼鏡か?」
「うん。居合わせた方にも一緒に探してもらってね。無事に見つけました」
俺は受け取った眼鏡をかける
なんだか久々の鮮明に見える視界に安堵した
「ありがとう、東里、覚」
「いえいえ」
「まあ、俺たちにも非はあるしな。無事に見つかってよかったよ」
探してくれた二人の友人にお礼を言い、直接お礼を伝えられない親子に心でお礼を告げる
それに、俺はもう一つお礼を言わないといけない人物がいる
「りんどう、今日は一日ありがとう。君がいてくれて凄く安心した」
「いえ。無事に眼鏡が帰ってきてよかったです」
「・・・今度から、予備の眼鏡も持ち歩くようにするよ」
「そこまではいいと思いますよ?」
「普段使いと、予備と、家用の三つ持っとけよ、夏彦」
「その方がいいかもな。特に二人といる時は」
今度から、出かけるときに鞄に予備の眼鏡を入れ込むことを決意すると同時に、車は動き出した
やっと、家に帰れると思うとなんとなく安心してしまい、俺は珍しく昼間に眠気を覚えてしまう
そのまま目を瞑っていると、いつの間にか眠ってしまっていた
「あら、夏彦さん。眠ってしまったんですね」
りんどうの笑う声に耳を傾けながら、俺は夕方の夢を見る
それは、自宅について・・・りんどうから起こされるまでずっと見ることになるとは、今の俺は知らない話だ




