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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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26日目④:異常事態の植物園

昼食を摂った後、植物園に向かう

・・・植物園の最大の弱点は本当に緑だらけだった


植物園なのだから、緑なのは仕方ない

しかし、本当に緑一色なのだ。私でも気が狂いそうになるぐらいに、緑


花は一つもない

正直、これを植物園と呼んでいいのかとツッコみたくなるような内容だが、それには理由がある

どうやら、ある日を境に、植物が一斉に枯れてしまったらしい。しかも、よりによって花を展示しているエリアだけ

残念ながら、残っていた植物しか見ることはできなかったが、写真だけでも楽しめたのでそれはそれでいいことにしよう


それでは物寂しいからと、担当の方が出口付近のフロアでクリスマスツリーを飾っていた

私と夏彦さんは近くのベンチに座って、休憩がてらその光景を眺めていた


「夏彦さん、あの」

「どうしたんだ、りんどう。何かあったのか?」

「クリスマス、とは何なのでしょうか?」


私は西洋的な文化に馴染みがほとんどない

二百年の間、旅をしていたが・・・日本国内だけだ。世界中を旅していたわけではない

だから、こう、街中を彩るクリスマスという行事の事は何一つわからない


「誕生日、だったと思う・・・神様的な、存在の」

「それを、こうして祝うのですか?」

「あ、ああ・・・海外では大事な日だけど、その、日本では、誰かにプレゼントをあげたり、御馳走を食べたり・・・そんな感じの日だ」

「ふむ・・・よくわかりませんね」


夏彦さんの説明では少し理解が追いつかない

海外では重要でも、日本ではそこまで重要視されていなくて・・・けれど、日本ではそれを祝うとは一体何事なのだろうか


「すまない。説明が下手で・・・俺もよくわかっていないんだ」

「そうなのですか・・・ちなみに、夏彦さんのクリスマスの印象は?」

「・・・商戦?」

「あー・・・」


確かにクリスマスだからとプレゼント用にとのことで、おもちゃの広告が沢山入っていたり、安売りも色々なところで展開されている

お祝い事というのは、同時に儲けも出やすい時期らしい


「そういえば、夏彦さんの会社って一体何の会社なのですか?」

「一応、服を売っている会社だ。それ以外にも手を出しているような気がしなくもないが・・・」

「例えば?」

「家具とか。カーテンとかならわかるが、まさか椅子とか机に手を出しているとは思わなかった」

「・・・?」


服屋で家具屋。よくわからない組み合わせだ

なんとなくだが、これから他にも増えそうな気がする。夏彦さんをはじめとする従業員の負担にならなければいいのだが・・・


「お客様」

「はい?私たち、でしょうか?」

「はい。今ですね、植物エリアにご入場されたお客様に、クリスマスローズとポインセチアをお送りしております。よかったら」


私と夏彦さんは担当の方より、それぞれクリスマスローズとポインセチアの花束を受け取る

私のポインセチアはピンク色、夏彦さんのポインセチアは白色だ


「ありがとうございます」

「とんでもございません。ほとんど何もなくて、がっかりされたかと思います。来年より、通常営業予定となっておりますので。よろしければぜひ、ご来館くださいませ」


そう言って、担当の方は植物園の方からやってきた白衣の青年と彼の後をついてくる長身の女性

そして、しっかりとした作りの制服とマフラーを身に着ける青年の元に向かっていく

彼らと共にやってきた老人の隣に立った担当さんは、どうやら彼らにも花束を、という訳ではないようだった


「九重さん、江上えがみさん、どうでしたか」

「まずは私から、土も水も改めて検査しましたが、普通の人間にわかる範囲で問題はありませんでしたね。問題は・・・」


少年は青年の方に目配せをする

彼はその合図と共に、一歩だけ前へ出て、深刻そうに話の続きをした


「・・・大社側で植物園を調べましたところ、呪いの紋を検出しました。専門である二ノ宮が昼休憩から戻らないので・・・詳しいことは言えませんが、かなり強力なものであるように見受けられます」

「・・・十年前の、高陽奈高校の件のように、でしょうか」


青年は無言で頷く

どうやら、この植物園で起こっているのは普通の異常ではないらしい

首を突っ込む気はないけれど・・・呪いという言葉が、私の中で少し引っかかるのを感じた


「・・・紅鳥は何をしているんだ」

「申し訳ございません・・・うちの二ノ宮が。よく言って聞かせますので。戻り次第、すぐに浄化をさせます。終わり次第、報告に伺いますので」

「頼むよ、助手君。全く、椎名君のいない第二部隊・・・大社は一気に落ちぶれたね。彼のお父さんの時にも同じようなことが起きたのを、君は知っているかい?」

「・・・鈴海自体が傾いた事、ですよね。よく知っています」

「今度は大社が傾かないといいね」


老人は青年に文句を言いながら立ち去っていく

担当者は申し訳なさそうに頭を下げて、老人についていった

その後ろ姿が消えた後、青年は重い息を吐いた


「・・・大丈夫か、和夜かずや。あのジジイ、ボロクソに言いやがって・・・言い返せばよかったのに。その紅鳥がいなきゃ、問題解決できないぞって」

「三波さん・・・いいえ。言われた事は事実です。譲が死んでから、大社はまともに機能していないんですから」

「・・・お前、少し休んだ方がいいぞ。気分の一つ入れ替えないと、お前が潰れそうだ」

「休んでられませんよ。俺と紅葉、夜雲さんが動かなきゃ、もう、誰も・・・」


和夜と呼ばれた青年は、紅葉を探してきますと伝えて、植物園を後にする

三波さんと呼ばれた青年はその後、小さくため息を吐く


「はあ・・・あいつもかなり不器用だな」

「三波さん。お疲れ様。お茶、飲みますか?」

「ああ、薫。ありがとうな」


薫と呼ばれた女性は、緑茶のペットボトルを南に差し出す

彼はそれを飲んだ後、薫の疑問に答えていく


「彼、大丈夫ですかね」

「椎名が死んだ事件で、あいつは双子の妹も失ってる。師匠と家族を同時に亡くして、あいつ自身がおかしくなりそうだ。どうにかしてやりたいんだけどな・・・」

「三波さん・・・」

「俺は俺にできることをしよう・・・行くぞ、薫。さっさと仕事終わらせよう」

「はい」


彼らは植物園の方に向かい、仕事へ取り掛かる

私たちもそろそろ行こうと、無言で夏彦さんの手を引く

けれど、彼の心はここにあらずのようで、何かを考えこんでいた


「さっきの・・・植物、三波さん。薄らぼけでも久々に姿を見た。が・・・随分・・・」

「夏彦さん?」

「ああ、りんどう。すまない。次へ行こうか」

「はい」


彼の手を引いて、私たちは残された展示館・・・水族園の方に向かっていった


「・・・」

「どうしました、三波さん」

「・・・久しぶりだな、夏彦」

「?」

「なんでもない。ほら、薫。行こう」


そして彼らも、植物園の中へ向かっていく


・・・・・


水族園は展示の都合上、やはり暗い

足元に気を付けて、慎重に進みながら私たちは展示を見ていった


「夏彦さん、見えますか?」

「近くに近づけば・・・」


水槽に近づいて、生き物たちの姿を覗く


「わ、なんだこの白いの!?」

「ええっと、これは・・・アザラシですね。まだ子供みたいです」


すいー、と泳ぎ、夏彦さんと顔を見合わせるアザラシ


「アザラシ」

「ええ。アザラシです」


私の方に顔を向けると同時に、アザラシも顔を動かす

シンクロした動きに笑いを堪えながら、アザラシに手を振り、次の展示へ向かう

少し大きめな水槽の中には・・・何もいない?


「・・・ここには、何がいるんだ?」

「ええっと、エイのようです」

「エイ?」

「マンタですよ。マンタ」

「マンタ・・・ああ。あの」


答え合わせをするように、私たちの目の前に、大きなそれが現れた


「意外と、ひらひらしているのですね」

「ひらひら・・・?」

「風に揺れた布みたいな感じ、ですかね」

「ああ。そんな感じで泳ぐのか・・・」


イメージがついたようで、彼は納得しながら頷いていた

エイも見れたことだし、サクサクと次の展示へ向かっていく


「夏彦さん、クラゲですよ。クラゲ」

「んぅ・・・半透明だから、水しか見えない」

「あら・・・。では、こちらのクラゲさんは?」

「うわ、毒々しい色をしているな」

「ですね。うわ、ミズクラゲより強い毒を持つ!恐ろしいです」


次の展示は企画展示のようでクラゲだけの空間が広がっていた

半透明のミズクラゲから、禍々しい色をしたアカクラゲまで、様々な種類のクラゲが展示されていた


「ええっと、ハブ、クラゲ。ですね」

「死亡例があるのか?このクラゲ・・・」

「クラゲって、人を殺せるんですね・・・こんなにふわふわしてるのに、美味しそうなのに。このクシクラゲとか、美味しいんですよ?」

「・・・・」


夏彦さんが無言で「それはダメじゃね?」みたいな目線を送ってくる


「・・・夏彦さん?」

「流石に、水族館で食用にする話はどうかと・・・」


言われてみれば、生きている生き物の前でご飯にする話はちょっと、可哀想だ

失言してしまったなと、自分の行動を後悔する

彼も、指摘してしまったことを申し訳なさそうにしており、互いに少しぎこちなくなってしまった


「次、行くか・・・」

「そうですね・・・あ、次と言っても出口のようです」

「そうなのか。時間は、わかるだろうか?」

「ええっと、二時ですね。まだ時間はありますよ」

「それなら、うん。売店でも見て時間を潰そうか?せっかくだしな」

「そうですね。では、行きましょうか」


私は再び、彼の手を引いて出口に向かっていく

気が付けば、ぎこちない空気も消えて、またいつも通り

それに安堵すると同時に、これでいいのだろうかと若干思いつつ、進んでいった

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