26日目③:切り取る時間
高陽奈動植物・水族園は高陽奈市の郊外にある広大な施設だと、東里に見せてもらったサイトに書かれていた
街中にはとても出せそうにない猛獣や魔物まで、数多に飼育・そして剥製の展示を行っているらしい
国内でも指折りの展示数を誇るらしい
しかも音声ガイドもばっちりだ。今の夏彦さんでもちゃんと楽しめるだろう
「到着しましたよ、夏彦さん」
「ここが・・・」
「どこから行きます?動物園、植物園、水族園とありますが」
「ううん・・・俺はほとんど見えないし、りんどうが行きたい場所にいったらいい」
「あ、そうです、よね・・・わかりました。では、行きましょうか」
「ああ」
私は彼の手を引いて、受付に向かいながらどこに行くか考える
東里からもらった優待券を提示し、施設に入場する
そして私は、三つの分かれ道に立って「その」道に進んでいった
・・・・・
私が向かったのはまずは動物園の部分
今は、そこの剥製展示エリアだ
「・・・ぼやけているけれど、凄い大きさだな」
「まずは白熊の剥製。今すぐにでも動き出しそうな感じですよ」
「北極とか寒い所に住んでいるんだ。ん、この先で生きている白熊にも会えるらしい」
「本当ですか!」
夏彦さんは音声ガイドに耳を傾けながら、私に手を引かれる
説明の中で読めない漢字も少しあるから、彼がこうして聞いたことを伝えてくれるのはありがたい
「こちらはキリンの剥製ですね」
「長い。そして統一感がない。さっきは北極だったのにいきなりアフリカだぞ」
「剥製担当の方が作ったものを順に並べているようです。だから、こう・・・統一感がないのだと思いますよ」
北極の生き物から、いきなりアフリカの生き物に移り変わる
どうやら先も同じようだ。一応、動物というくくりはあるようだけど・・・次のこれは本当に動物の分類でいいのだろうか
「次は、その、ミジンコの剥製のようです」
「見せる気ないだろう、これ・・・・」
今度は微生物。しかも原寸大
虫眼鏡を使ったら、一応その剥製が見られる。これはありなのだろうか
次の剥製、いや複製か
それは先ほどのミジンコの何千倍以上の大きさで私たちを出迎えてくれた
「次はアクイフォリウムというお名前の、異形ですね。剥製ではなく、複製のようですが」
鎧のように体表を覆う殻。そして禍々しい色をした角を持つ異形
どこからどう見ても、化物だ
「なんでこんなところに・・・」
「夏彦さん、ご存じなのですか?」
「・・・四年前、鈴海に現れた特級魔獣だって、ニュースで言っていた。とある人間が変化した化物だと」
「これが、元人間だというのですか?」
「ああ」
私はその化物の顔を覗き込む
彼はそう言うが、私はアクイフォリウムから人の面影の一つ感じることが出来なかった
元人間という部分においては、私と変わらないけれど・・・
「どうしたんだ、りんどう。まさか、食べてみたいとか・・・」
「そんな訳あるわけないでしょう?流石に魔獣料理は手を出せませんよ・・・?」
「・・・食べてみた感想としては「エビみたいな感じ」らしいぞ」
「食べたんですか、これを・・・え」
夏彦さんは音声ガイドで聞いたのかと思ったが、その説明に当然と言えば当然だけれど、食べた感想なんて全く書いていない
じゃあ、夏彦さんは誰にそれを聞いているのだろうか
「お腹、すいてたって」
「夏彦さん、次に行きましょう。次に」
「え、あ・・・りんどう?すみません、それでは、失礼します・・・」
夏彦さんのぼやけた視界に映るのはきっと、白髪の青年
討伐者として名前と写真が飾られている青年はきっと、これを討伐した後お腹を空かせて・・・物は試しと食べたのだろう。とんでもない男がいたものだ
夏彦さんはそんな彼の残滓に挨拶をしていたけれど、それは本来なら見えてはいけない存在だ
もうどこにもいない存在であるものを視界に捉える彼は、間違いなく・・・雪霞様と同じ「神語り」を使える
その確信を得ながら、私は彼の手を引いて場所を移動した
・・・・・
次にやってきたのは、普通に生きている動物がいる場所だ
非常に獣臭いが・・・これも、場所ならではの光景だろう
「ふれあいコーナというものがあるようですよ。夏彦さん」
「流石に小動物だけだが、色々な種類と触れ合えるらしい。あ、犬なんてどうだろうか」
「・・・私、犬が苦手で」
苦手どころではない。心底嫌いだ
なんせ、戌は夏彦さんの前世の一人である春子の命を奪ったのだから
「そうなのか・・・それは、すまないな」
「私、兎が好きですよ。もふもふして、可愛いですから」
「う、うさぎか・・・。うん、行こうか」
あからさまに青ざめた顔で言われても行く気が起きない
東里の事が引っ張っているのだろう
兎と言われたら、彼を連想するぐらいには毒されているようだ
「そ、それよりも私は鳥が好きなんです。鳴き声とか、可愛いではないですか。向こうにインコやオウムと触れ合えるコーナがあるようなので、そちらはどうでしょう!」
「鳥・・・うん。いいかもしれない」
「では、鳥の方に行きましょう」
彼の手を引いて、鳥のふれあいコーナーへと向かう
そこには、鳥と言ってもひとまとめにはできない
手のひらサイズの小鳥から、腕に乗せないといけないぐらいの大きさの鳥まで、様々な鳥がいるようだ
「インコがいいです!行きましょう、インコ!」
「ああ。好きなように」
私が向かったのは、手のひらサイズの小鳥をふれあえる場所
セキセイインコ、マメルリハ、オカメインコ、文鳥と言った、ペットとして飼われているイメージが強い鳥が沢山いる
その中で、一匹のオカメインコと目が合う
「この子・・・なんとなく夏彦さんに似ています」
「どこが」
「頭が黄色い所?」
「俺もこいつもちゃんとした地毛だからな?天然ものだ。あ」
「ほら、そっくりです」
「ぴょぎょぎょ!」
そのオカメインコは夏彦さんの肩に止まり、私の方を向いて「写真を撮りな!」という感じにポーズをとってくれる
それがとてもおかしくて、笑いながらカメラ機能を起動させて彼とオカメインコの姿を写真に収めた
「あ」
「サービス終了みたいだな」
「商売上手なオカメさんですね」
写真を撮り終わった後、オカメインコは別のお客さんのところへ飛んでいく
そして先ほどと同じように写真を撮りやすいようにポーズをとってくれていた
「今度はりんどうの肩に・・・青と白の丸いの、多分セキセイインコが止まっている」
「わ、本当だ。青いインコさんですね。可愛らしいです」
肩へ指を差し出すと、私の手にセキセイインコが乗る
つぶらな瞳を私に向けた後、興味深そうに自分の顔を私の顔に近づけてくる
「くすぐったいです。もふもふで」
「・・・・よし」
夏彦さんの手が、宙を彷徨う
その仕草は、先ほどの私と同じ。写真を撮る仕草だった
「・・・撮れた。けど、写真はわからないな」
「私の写真ですか?」
「ああ。さっき、撮ってもらったし・・・お返しに?」
けど、画像が見えないからと言って夏彦さんは私に撮った写真を見せてくれる
そこに映っていたのは、笑顔を浮かべた私とセキセイインコ
見えていないのがよかったと思うぐらいに、自分でもいい写真だと思うそれは夏彦さんの端末の中に保存される
「どうだった?」
「素敵な写真でした。ありがとうございます。こんなにきれいに撮ってくださって」
「後でりんどうの写真も見せてほしい。帰ってからになるだろうけど」
「勿論です。そうだ。これから写真を撮っていい場所は私が写真を撮ります。帰ってから、一緒に見ましょう、夏彦さん」
「ありがとう。じゃあ、お願いしようかな」
彼の手をとると同時に、指に乗っていたセキセイインコが飛び立った
鳥籠の中で舞うインコを眺めた後、私は彼の手を引いて次の場所へ行く
動物園は一通り見終わったし、別の園に移動してもいいだろう
その前に腹ごしらえ?お昼時だから人も多そうだけど、食べるところもあったし、そっちに行くのもいいだろう
次は、植物園に行こうかな。それも楽しみだ。見たこともないものに会えそうだし
最後には水族館に行こう
心の中で予定を立てていく
まだまだ、私たちのお出かけは続いていく




