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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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26日目①:水面に沈んだガラス

祝日


一昨日の炬燵での一件は忘れ、俺とりんどうは・・・買い物に、ではなく

東里と覚に連れられて、高陽奈たかひな市までやってきていた

この町は、海沿いに位置している為、春になれば潮干狩り、夏になれば海水浴の客が集まり、そして何よりも・・・絶好の釣りスポットだったりする


「で、なんで俺たちはお前たちの釣りに付き合っているんだ?」


俺たちは朝食を終えた後、セールに参加するために、近所のスーパーへ行っていた

帰り道、車でどこかに行こうとしていた覚と東里に遭遇し、家まで乗せていってあげるよ!なんて言葉に騙されて・・・今、ここにいるわけなのである


「やっぱり釣りと言えばの三人だからね!今日も一日やりますよー!」


今の格好は、近所に行くだけだからと思い、特にこだわっていない

二人のように防寒対策をしっかりしているわけでもないのだ

タイムセールに行くだけだろうと思い、コンタクトすら付けておらず今は家で使っている眼鏡の状態

こんな状態で釣りなんてできるか。それにりんどうだっているわけだし・・・


「ほら、夏彦・・・釣り竿持ってきてないよね?僕の貸すからやろう?」

「いや、今日は・・・」

「いいから、いいから。いつもはすぐにやる!って言うのによー・・・」


二人に両腕を掴まれで無理やり前に進まされる

その影響で、よろけてしまい・・・その拍子に、眼鏡が、滑り落ちる


「「「・・・・・」」」

「ぽちゃん?」


手元が曖昧な俺は、覚の肩を叩き、それを拾ってもらう

手にそれを乗せてもらい、状況を確認すると・・・何ということでしょう

覚の手だけが乗せられているではありませんか


「お前の眼鏡、海ぽちゃ・・・」

「笑い事じゃねえよ馬鹿」


覚に一発入れて、東里のいた方向を一瞥する


「夏彦、手を」

「頼む」


東里の案内で俺は堤防ではなく、東里の車の近くまで戻される


「・・・だよな。ああ、どうしたものか」

「帰ろうか?」

「帰りたいのはやまやまだが、二人はこれから釣りするんだろう?夕方ぐらいか?」

「うん。けど、今回は僕らに非があるし・・・強引に誘ってごめんね」


折角の休日なのに、行って帰るだけは流石に可哀想だ。これは、俺の不注意でもあるわけだし、何よりも不慮の事故なのだから


「いいよいいよ。今日は楽しんで来いよ。俺は、その間・・・」

「?」

「りんどうと、遊んでくる」

「ああ。いいと思うよ。ねえ、りんどうちゃん。これでマップ見れる?」


東里は自分の腕についている通信機器を指さしているようだった

俺の目は、正直とてもいいものじゃない

眼鏡やコンタクトなしでは、手元さえ曖昧なのだ

俺は、ぼやけた視界を二人に向けながら会話だけ耳を傾けた


・・・・・


私は東里から通信機器の操作を教えてもらいながら、この近くにある施設の事を教えてもらっていた


「りんどうちゃん、ここから少し歩いたところにね、水族館と動植物園が一緒になった施設があるんだ」

「動物と、植物と、お魚を見るところですか?」

「うん。そこなら夏彦も時間を潰せるだろうし、その隣には植物園と動物園もあるんだよ。僕らも今日は早く切り上げようと思うから、三時ぐらいを考えている」

「わかりました。それぐらいに戻ってきたらいいのですね?」

「うん。それと・・・」


東里は胸ポケットから縦長のケースを取り出して、その中から二枚の紙を取り出す


「夏彦はああいっているけど、無理やり連れてきた僕らも悪いからさ、これ。高陽奈動植物・水族園の優待券。タダで入れるから、受付で提示して。貰い物なんだけど使ってくれると嬉しいな」


東里から「高陽奈動植物・水族園」と書かれた券を二枚受け取る

私はそれを鞄の中にしっかり仕舞い、落とさないように心がけた


「ありがとうございます、東里」

「いえいえ。君もごめんね。驚いただろう?家に帰ると思ったらこんなところで・・・」

「驚きはしましたが、遠出は楽しいのでお気になさらず。楽しんできますね」

「お願い。それと、僕らでも夏彦の眼鏡が釣れないか試してみるから」

「釣れるといいですね、大物の眼鏡」

「大物、楽しみにしててよ」


冗談を交えながら、東里を送り出し私は夏彦さんの元へ向かう

昨日の事もあるから若干気まずいのだが・・・今はそんなこと言っている場合ではない


それに、夏彦さんも雪霞様よりはマシだけど、ほとんど見えていないみたいだ

見当違いのところに手を伸ばしては、首をかしげている

堤防にいたら間違いなく海に落ちていただろう・・・恐ろしや


「夏彦さん」

「あ、ああ・・・りんどう。話は終わったのか?」

「はい。終わりましたよ。時間も丁度いいですし、この近くにある動植物・水族園?に行ってみませんか?」

「なんだその動物園と植物園と水族館が合体したような施設」

「言ったままですよ。はい、手を」

「ああ、頼む」


彼は恐る恐る私の方に手を伸ばしてくれる

その姿は、やっぱり雪霞様に重なってしまう、けれど


「大丈夫ですよ、夏彦さん。私がしっかり案内しますからね」

「ありがとう、りんどう」


彼の手をとり、握り締める

かつての私のお役目のように、彼の行く道を導くように

確かに彼は雪霞様の生まれ変わり。仕草のほとんどが瓜二つ

雪霞様だけではない、秋太郎しゅうたろう冬実ふゆみ春子はるこの生まれ変わりだから、彼らを連想させる行動も、行っている

皆、私の事を大事にしてくれた。家族のように、姉のように、母のように、妹のように

その思い出は私の中にしっかりと残っている

そして、彼らの凄惨な最後も


「どうしたんだ、りんどう」

「どうしました、夏彦さん」

「いや、手の力が凄く込められていたから・・・」

「い、いえ・・・少し、考え事を」

「そうか?」

「ええ、そうです。大丈夫ですよ」


力を込めていた手を、少しだけ緩める

それでもその手を離さないように繋ぎとめた


もう二度と、四肢を失い血だまりに沈んでしまないように

もう二度と、全身に鉛弾を撃ち込まれないように

もう二度と、全身を食いつぶされないように

もう二度と、首筋に犬歯が刻まれないように

もう二度と、大事な人を失わないために

特に、彼だけは死なせたくない。傷つけたくない


今までも、その気持ちは皆に抱いたし、同じだったはずだけど彼だけはまた違った感じ

その答えは・・・特別、なのかもしれない


「?」

「いいえ、なんでも。ほら、行きましょうか夏彦さん。ゆっくり歩きますからね」

「ああ。頼む」


私は彼の手を引いて歩き出す

少しだけ異なる私と彼のお休みの一日が、幕を開けた


・・・・・


「なあ、そこの蛇を連れてる兄ちゃん。何やってんだ?」


俺は、網を使って海に落ちた夏彦の眼鏡を探していると、堤防にやってきた親子に声をかけられる

無意識に蛇を出していたようだ・・・仕方ない。とりあえずペット的な扱いで蛇には側にいてもらおう

顔を上げるとそこにいたのは男の親子。とてもよく似ていると印象を抱いた


「いやはや、友人三人とその連れで来たんですけど、その一人の眼鏡が海の中に落ちちゃいましてね」

「あー・・・そりゃあ大変だな。一緒に探そうか」

「いいんですか?」

「ああ。昔、息子も海に眼鏡を落としてな。その場にいた人に一緒に探してもらったことがあるんだ。こういう時は助けあいだ。どのあたりに落ちたんだ?」


男性は快く協力を申し出てくれる

そして、隣にいる青年が息子なのだろう。彼は恥ずかしそうに頭を抱えていた


「もう、父さん・・・昔の話じゃないか」

「いいじゃないか、祐輔!今は笑い話にできるだろ?」

「できないよ・・・全く」


祐輔と呼ばれた息子さんも、共に眼鏡を探してくれる

彼もまた眼鏡をかけており、その眼鏡の端には、銀色の鎖が太陽光に反射して輝いていた


「それ・・・」

「ああ。これですか?仕事柄もありまして、首から眼鏡をかけるようにしているんです」

「へえ。お仕事は何を?」

「彫刻家です。親子で・・・近くにある「飯嶋いいじま彫刻店」を営んでいます」


彼は父親の方を一瞥し、自分たちの仕事の事を教えてくれる

お父さんの方は納得だが、息子さんは意外だった

なんとなく、身体が弱そうなイメージだったからだ


けれど、彼の手先、そして腕はかなりしっかりしている

それに、俺はその彫刻店を、そして二人の彫刻家の事を良く知っている

見たことなかったが、この人たちだったのか・・・偶然って凄いな


「飯嶋彫刻店。父からよく話を聞いています。お父様の方は木彫りの像など大きく存在感があり、尚且つ能動的な作品を作られますよね。対して祐輔さんは、置物ぐらいの小さな作品が多いですが、細部にこだわり、糸のような細さも実現するほどの繊細な作品だと」

「そんな貴方は、巳芳栄太さんのご長男ですよね。よくお話をお伺いしています。うちの子を、作品を・・・御贔屓にしていただきありがとうございます」

「いえいえ。いつも父がお世話になっています。今後もよろしくしていただけると」


まさか俺のことまで知られているとは。親父の奴、喋りやがったな・・・まあいいけど

うちの父が大事にしているコレクションの大半を作り出す青年は、柔らかく笑ってくれていた


「あ、話を逸らしてしまいましたね。この眼鏡チェーンは高校時代の後輩が卒業祝いでくれたんです」

「いい後輩さんに巡り合えたんですね」

「ええ。自慢の後輩なんです。今は、あの島で頑張っていると聞いています」


彼が見るのは遠い海の先にある、人工島

この世界で最も「特殊」だと言える場所に集う、魔法使いの島だ


みや紅葉あかば。これをくれた後輩の名前です」

「・・・鈴海大社の紅鳥じゃないですか。なんで本土の高校に?もしかして、飯嶋さんは鈴海にいた時代が?」

「仕事の関係で、彼が本土に来ていたんですよ。今は立派になっちゃって、ほとんど会えていないんですけどね」


よく見れば眼鏡チェーンの先には、赤い紅葉の飾りと、青い羽の飾りが付いていた


「お―い!眼鏡見つかったぞー!」

「見つかったみたいですよ。現物、見に行きましょう」

「ああ、そうですね」


世間話はそこで終わり

俺は、彼らが見つけ出してくれた眼鏡を確認するために、彼のお父さんの方に歩いていった


「・・・そういえば、東里はどこに行ったんだ?」


姿の見えない友人の姿を探してみるが、俺が見える範囲にはいない

まさか、ついていったとか・・・流石にないだろうな?

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