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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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+)25日目:夢と現と付喪神

今日もまた仕事を終えて、のんびり家の時間を過ごしていく


「夏彦さん、夏彦さん」

「どうしたのかね、りんどうくん」

「なんですかその口調」

「なんとなく貫禄をつけてみようかと・・・それで、どうしたんだ?何かあったのか?」

「あ、はい。あのですね・・・」


りんどうは通信端末を操作して、俺に「それ」が見えるようにしてくれる


「窓用掃除道具か・・・」

「はい。窓や屋外の天井が汚れていたりしているのですが・・・私では届かなくて。窓だけなら飛んでもいいのですが、流石に外は・・・」


流石にそこは思い留まってくれたらしい・・・安心した

けど、天井ぐらいなら俺でも掃除できる。彼女のこだわりを叶えることは難しいかもだけど、要望に添えるようにはできるだろう


「だろうな。俺が拭こうか?これぐらいなら・・・」

「いいえ。私がします。ここ最近、夏彦さん、帰りも遅いし大変そうですから。ここは私に任せてください」

「そうかな・・・?」

「そうですよ。今日は九時に帰ってこれましたけど・・・普段はもっと遅いですし」

「普通だよ。これぐらい」

「テレビで言っていました。最近の就労問題。それから考えるに夏彦さんは時間外労働をしていると思います。真っ当に!真っ黒!ブラック!社畜!」

「・・・社畜」


まあ、言われてみれば俺はそれに分類されるのではないかなとは思う

りんどうから矢継ぎ早に言われたそれは、俺が自覚していなかったものだとふと思った


しかしこれでもマシになった方だ

なんせ、家に帰れるようになったのだから

創業時代は改めて人員不足に手探りに、失敗ばかりで・・・よくここまで生き延びることができたなとしみじみ思うほどだ


「夏彦さん、話聞いてますか!?」

「あ、ああ・・・ごめん。わかった。掃除道具を買おう。せっかくだし、通販で」

「出ました通販」

「うん。俺がいる時に受け取りができればなって思うから、週末に届くようにする。さ、りんどう、こっち」


俺はりんどうを呼び寄せて、昨日のように俺が背もたれになるような座り方を頼む

急にされると驚くが、こう自らする分ではまあ・・・


「画面、見えるか?」

「見えますよ。バッチリです」

「このストロンガードットコムが通販サイトのアプリだ」

「なるほど。アマの次だから・・・彼に続く次世代として名を馳せるのですね」

「りんどうは何を言っているんだ・・・?」


「何おう夏彦さんも男の子でしょうに。ニチアサにいる変身するバイク乗りを知らないとは言わせませんよ?」

「俺、子供の頃テレビだけじゃなくて、娯楽関係に触れた記憶ないんだよな・・・」

「そんな・・・春子の弟が、ニチアサは子供の誰もが通る道と豪語していたので、私は全作履修したというのに・・・今じゃ毎週楽しみになっているのに!」


春子という人物がどのような人物かは存じ上げないが、話ぶりからしてりんどうの知り合いだろう

二百年以上の時を生きているみたいだし、過ごした時間の中で巡り合った人なのかもしれない・・・わりと、現代生活謳歌していないか?


「・・・おすすめは?」

「個人的なおすすめは初代ですね。やはり首領がドンドンするのがいいですよ」

「わけのわからないことを言わないでくれ」


「夏彦さんみたいな現代っ子は電車で時間旅行するものとか、二人組のものとかがいいですか。宇宙行っちゃいますか?」

「待てりんどう。君がニチアサ大好きなのはわかったからそこでストップだ」


話が脱線している。まさか彼女にこんな趣味があったとは・・・

最近レコーダーの中身を確認していないが・・・間違いなく朝八時半から録画されているんだろうな・・・

なんというか、子供だな。本当に・・・


「さて、本題の掃除道具だが、りんどうは検討をつけているのか?」

「そうですね。なんでもいいのですが、私の手に馴染むものですかね」

「通販全否定じゃないか・・・」


ここまできて通販の存在を否定されるとは思っていなかった

仕方ない。ちゃんとこれは店頭で見ないといけないもののようだ・・・


「今度お店に見に行こうか」

「通販で買わないんですか?」

「りんどうの馴染むものは通販ではわからないから。ちゃんと連れて行ってあげるからな、ホームセンター」

「・・・今なんと」

「いや、だからホームセン・・・」


りんどうが纏う空気が変わる

前みたいに怒りのそれではない・・・これは


「ホームセンター!なんでもあると噂のホームセンターですね!一度行ってみたかったんですよ!」


抑えきれない歓喜を纏い、彼女は一瞬にして付喪神の姿になる

そして尻尾を勢いよく揺らし始める

しかし、覚えているだろうか

俺は今、りんどうの背もたれのような位置にいることを


「あばばばばばばばばばばばば」

「何買おうかな、何買おうかな!」


りんどうが喜んで尻尾を揺らすたびに、俺の頬は高速ビンタをされてしまう


「りばばばばばば」

「夏彦さん、夏彦さん、今度は楽しみですね・・・あ」

「ふがふが」


気がつけば俺の頬は風船のように膨らんでしまい上手く喋れなくなっていた

それに歯も何本か吹っ飛んでいる

さらに尻尾はとてつもなく頑丈で、それに、加えて鱗がある


俺の姿は想像にお任せしよう

でもまあ、両頬は腫れ、歯は欠けて、さらには鱗のせいで頬から夥しい量の出血をしているといえば・・・いやでも想像できるだろうけど


「夏彦さん!?頬がまっ・・・腫れてる?それに歯が欠けて・・・あ」


俺の姿を目視したりんどうは頭を抱えてやってしまった・・・というような表情を浮かべる

俺はそれを確認した後・・・意識をゆっくり手放していく


頬が、痛いな・・・こんなの、いつ以来だろうか

・・・女性に殴られたのは、子供の時以来だぞ

自分の中で、少しだけ記憶の蓋が動いた気がした


・・・・・


次の日


「おはようございます、夏彦さん」

「おはよう、りんどう・・・ん?」


りんどうの顔を見ると、頬がなぜか痛みだす

確かに夢では頬を叩かれていたが・・・所詮夢

夢が現実に作用しているのだろうか


「な、なんですか?頬に違和感でもあるんですか?」

「いや・・・なんか昨日、りんどうの尻尾で頬を叩かれる夢を見て」

「そうですか。でもそれは夢ですよ。夏彦さんの頬は今日もいつも通りに普通です」

「そうだよな。うん」

「ところで夏彦さん。ホームセンターにはいつ行きますか?」

「・・・あれ、それ夢の話では」

「現実でもしましたよ。それは夢。私は尻尾で夏彦さんの頬を叩いたりしていませんし、歯も欠けさせていませんし、出血させた分もありません」


なぜ夢の内容を詳細に言えるんだ・・・まさか、あれは夢ではなく現実で起きたことなのだろうか・・・


「・・・そうか。ところで今日は祝日。朝からバーゲンがあるんだよ。朝食食べたら近所のスーパーにお砂糖買いに行こう」

「む!それは大事ですね!行きましょう!他には何かありましたっけ?」

「お醤油、足りてる?」

「少し危なくなってきました。今日買ってもいいですか?」

「もちろん。それと、玄関に新聞取りに行ってくれるか?今日のチラシ、入っているだろうから」

「そうですね。バーゲンの確認をしてきます!」


りんどうにそう指示をしてから、俺は炬燵テーブルの中に入って、彼女が戻るのを待つ

先ほどの件は特に気にしない方がいいような気がしたので、話をそらしたが・・・大丈夫だっただろうか

なんせあれは、夢の話。決して現実の話ではないのだから


きっと、追求するのは俺にも彼女にも悪い話だと思う

だからこれでいいのだと思う


「夏彦さん!今日は鰹節もお買い得です!」

「わかったわかった。食べ終わったらチラシ確認して狙いをつけよう」

「はい!」


戻ってきたりんどうは、その途中で広告を見ていたのだろう

鰹節で目を輝かせながら、彼女もまたテーブルの前に腰掛ける


今日は祝日。お砂糖の安売りもあるし・・・今日はそれを買ってからのんびり過ごそう

ホームセンターに行く日もその時に決めたらいいと考えながら、俺は彼女が用意してくれた朝食を食べ始めた


今日のご飯は、なんだか柔らかめに作られているのは・・・気にしない方がいい話なのだろう

俺は何度も自分に言い聞かせて、少しだけ柔らかい食事を口に入れていった

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