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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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23日目:唐突な待ち合わせ

月曜日を迎えた

昨日は色々と友人たちに振り回されたのだが、今日は懐かしい人に振り回されるらしい

連絡をもらった時は驚いたが、こういう唐突さも「らしい」と思う


夜七時半

仕事を終えて、りんどうに帰りは十時頃になると連絡を入れる

そして、指定された場所で、待ち人が来るのを待った


「夏彦、待たせたね」

「一馬先輩、お久しぶりです。全然ですよ。ほら、息を整えてください」

「ありがとうね・・・ふう」


今日の待ち合わせ相手は、高校時代の先輩である九重一馬ここのえかずまさん

彼も仕事終わりなのだろう

確か職は、中学校の国語教師。とてもしっくりくる

正直なところを言えば、家庭科教師の方がしっくりくるのだが・・・この人の場合はどの教科でも納得する自信はある

なんせ、高校時代の俺の勉強を見てくれていたのは、この人なのだから


「夕飯まだでしょ?どこか食べに行こうか」

「どこにします?アレルギーとかありましたっけ?」

「ナッツはあるけど、夕飯では滅多に出てこないでしょ?悩むなあ・・・こういう時じゃないと、普段食べたらダメと言われているものを食べられないからさ。じゃあ、あそこがいいな!」


一馬先輩が指さしたのは、ラーメン屋


「行ってみたかったんだよね!」

「・・・一馬先輩、こういうの結構好きですよね」

「皆、僕の健康を気遣ってか食べさせてくれないからね。特に双馬と音羽」

「弟さんも妹さんも心配なんですよ。また倒れたらって思ったら怖いじゃないですか」

「あの時は本当に悪かったと思うよ・・・・でも今は大丈夫だから、行こう、夏彦!」


一馬先輩は俺の手を引いて、ラーメン屋の方へ足を運びだす

六年前ぐらいになるのだろうか

彼は、家で血を吐いて倒れたと聞く

それから入院して、手術して・・・復職できるほど元気になったのだが、またいつ何が起きるかわからないのだから俺としても、あまり無茶はしてほしくない


健康を気遣うと言えば、彼女の事を思い出す

いつも、彼女はこんな気分なのだろうか

心配で・・・どうしようもないぐらい不安な気持ちを、抱いているのだろうか

そう思うと、常日頃から悪いことをしているような気を覚えた

もう少し、彼女を気遣う生活を心がけないといけないな、とも


「どうしたの、夏彦」

「いえ、何でもないです。行きましょうか」


少しぼおっとしていたのだろう

一馬先輩は、どうしたのか確認するように俺の顔を覗き込んでいた

それから、俺の意識がはっきりしたことを確認した一馬先輩は再び足を動かし、ラーメン屋に入る

空いた席に案内されて、注文した後・・・適当に雑談していた


「それで、一馬先輩が俺に連絡した理由をそろそろ聞かせほしいのですが」

「特に理由はないよ。久々に夏彦に会いたくなって」

「ああ。本当に唐突ですね」


一馬先輩はこういうことがある

けれど、よっぽどのことがない限り俺はこの人に予定を合わせて会いたいと思っている


「どう、ここ最近?前に会った時よりは顔色がいいみたいだけど」

「ええ。最近は少し早く帰るようにしているので」

「へえ。彼女でもできた?ついに料理ができる感じの」

「まるで今までの彼女が料理できなかったみたいに言いますね」

「快楽主義の君と覚の彼女はまともじゃなかったからね。料理どころか生活の基本すらできなかった子すらいるじゃないか」


否定できないのが悔しい


「でも君は、その異様な手の速さといい・・・過程より結果を重んじるタイプだったからね。どの子も割り切った間柄だったのはまだマシかな。問題は覚」

「あいつは高校時代にメンヘラ捕まえましたもんね」


あの時は非常に大変だった

東里が人質にされたり、一馬先輩がメンヘラに命令されて公開リストカット未遂することになるとか・・・

思い出しただけでも胃がキリキリする。これも全部あのチャランポランのせいだ


「過程を重んじ、結果をより良くする・・・覚のいい部分はそこなんだけど、そのせいで厄介な子を何人か捕まえて、慰謝料問題にも発展したんでしょう?」

「よくご存じで・・・」

「僕の妹の友達の友達が弁護士さんなんだけど、僕の後輩の話をしていた時に、覚の話になったら凄く神妙な顔をしていたんだよね。それで「あ、あいつ遂に手を出してはいけない領域に手を出したな」って思ったんだ。まさか本当だったとは。恐れ入ったね」

「ああ、予想だったんですか・・・で、俺で答え合わせをしたと」

「そういうこと」


一馬先輩は笑顔のままだが、内心笑っていないだろう

またあいつやらかしやがって・・・とあからさまに怒っている

今度会ったら命はなさそうだ・・・


「まあ慰謝料はどうでもいいとして」

「そこだけ聞くとどうでも良さそうじゃないんですけど、覚の話はまあ横に置いておきましょう・・・」

「ごめんごめん。言葉が足りなかった。それで夏彦。今回はどんな彼女?ちゃんと紹介できる子?」

「・・・」


一馬先輩には、本当の事を話してもいいだろうか

東里と覚には話せない彼女の事を、なんだか話せそうな気がするのだ

りんどうが、養子ではなく付喪神だということを。そして、彼女と一緒に暮らしている事も


「・・・実は、その、信じられない話かもしれないかもしれないのですが」

「うん」

「俺はいま、付喪神と暮らしています」

「そっか」

「え、信じるんですか?」

「夏彦は嘘つけないでしょ?信じるよ」


あっさりと信じられて、空いた口が塞がらないが・・・とりあえず、深い説明はいらないらしい

それでいいのに、それでいいのかと意見が頭の中で対立するが、今はどうでもいい

信じてくれるのなら、それでいいではないか


「その、付喪神から食事とか、世話してもらっていて。家の事も・・・半分頼んでいます」

「付喪神って、何食べるの?」

「人と同じご飯です。彼女だけかもしれないのですが・・・いつもは一緒に食べています」

「へえ、人型なんだね付喪神って。しかも彼女と来た。女の子なんだね?」

「っ・・・!それはいいでしょう。別に・・・」


丁度いいタイミングで注文していたラーメンが来る


「話はまた後で聞かせてもらおうかな。その、付喪神な彼女の事をね?食事中は喋らない主義でしょ?」

「ええ。そうです。わかりました・・・それじゃあ、いただきます!」


俺と一馬先輩は一緒にラーメンを食べ始め、そこから先は会話が無くなる

その後、軽くりんどうの事を彼に洗いざらい話した後・・・その日は解散となった


「それじゃあ夏彦、またね。また適当な時に連絡するよ。付喪神ちゃんのことも聞きたいからさ」

「ええ。もちろんです。それでは、また」


そう言いあった後、一馬先輩は反対方向の道を歩いていく

俺は小さく手を振りながら、その背を見送っていく


心の中で、最後の挨拶が回る

またね、の約束は・・・今はもう遠い「また」だけれど、また会える

俺と、彼が生きている限り何度だって「また」がある

こうして、彼が元気に歩き回れるようになっていることは、とても喜ばしいことだ

これからも続きますようにと祈りながら、俺も彼に背を向けて歩き出す


そういえば、りんどうに夕飯を食べてくることを伝えていなかった

きっと準備しているだろうな・・・仕方ない。もう一回、夕飯を摂ればいい

りんどうのご飯は何杯でも食べられるから

俺は、また彼と会える日と、今日の二回目の夕飯を楽しみにしながら、帰路を歩いた


・・・・・


夏彦と別れてから少し先の分かれ道

そこで何かを考えこむように突っ立っている彼に触れ、意識をこちらに向けさせる


「拓実」

「ん、ああ・・・一馬。すまないな、あんたに協力させて。ご飯、家族と食べたかったんだろう?」


高校時代の後輩である一葉拓実かずはたくみに声をかける


「最近は皆忙しいし、週に一回揃えばいい方だからね。気にしないで。それで、欲しい情報は手に入ったの?」

「ええ。ある程度は。彼と一緒にいる少女の情報を引き出してくれてありがとうございます」


一馬は上着に忍ばせていたボイスレコーダーを拓実に手渡す

これも何もかも、彼にどうしてもと頼まれたことだった

夏彦は、あんたなら洗いざらい話す可能性があるからという理由だけで


「なんだか夏彦を騙している気分で嫌だったから、今度は自分でやってよね。電話番号ぐらいは伝えるから」

「怒ってます?」

「もちろん。夏彦をこんな風に裏切るのも、君の悪だくみに付き合うのも今回限りだ。次はない」


すっとぼけた拓実を黙って僕は睨みつける

こうして誰かに怒りを向けたのは久々だった。感情に左右されて抑えが利きそうにない僕は自分の喉元で行き場のない拳を握り締める


「今回のお詫びで話してくれる?」

「いや、無理・・・」


拓実がそう言おうとも、僕は止まらない

彼の胸倉をつかんで、事情の説明を求める

僕がここまで激情的になったのは、長い付き合いのある拓実でも見たことがないはずだ

もちろん、話の渦中にいる夏彦にも見せたことがない


「夏彦は今、どんな状況に置かれているわけ?僕らでどうにかできる話なの?」

「できる。けど、俺たちが深く干渉していい話じゃない」


僕は詰め寄る。大事な友人が巻き込まれている話を聞きたいから

僕の流れる感情は止まらない。拓実に勢いよくぶつかっていく


「夏彦に、大事な友人に危機が迫っているんだろう!?何をごちゃごちゃ言うんだ!さっさと事情を話せ!」


壁に寄りかかっていなかったら今にでも押し倒されていただろう

それほどまでに、今までの僕からは想像できないほどの力で迫っているのだ

これが、つい三年前まで肺癌で生死の境を彷徨っていた人間の力なのか

そう言わんばかりの表情を浮かべた拓実の表情は同時に別の感情を浮かべた表情で歪められる

まるで、高校時代・・・夏彦とやりあっていた時のような、嬉しそうで楽しそうに狂乱へと向かう表情

一度たりとも忘れたことがなかったその表情を向けられることになるなんて思っていなかった


体力はかなり落ち、復職したのだって、二年前の話

それでも、僕の力はそんな過去を感じさせないぐらいに、拓実を楽しませるほどに強いものだったようだ

しかし、彼は動かない

拓実は僕の今すぐにでもあふれ出そうな、否、もう溢れきっているその感情を黙って受け止め続ける

冷静に、そして、慈悲無く受け止めるのだ

今の拓実に、僕に対して説明できることなど何一つない

なんせ彼も「頼まれただけ」なのだから

自分の友人に、何があっているかなんて何も知らないのだ


「あんたが感情的になるのは、五年前のVRゲーム事件に巻き込まれた時以来だな」

「その話は関係ないだろう・・・ほら、拓実。知っている事を早く―――――あがっ」


背後から、何かを打たれて僕は拓実にもたれかかるようにして、瞬時に意識を失ってしまう


「・・・ごめんなさい、拓真」

「いいよ。こうでもしないと、彼が舞台に上がるのを止められないから」


物陰から、半透明な羽を足につけた青年が舞うように現れる


「・・・車椅子、どこに置いてきたんですか」

「そこの物陰に。少し待っていなよ」


彼はそう言って物陰に飛び、今度は車椅子に乗って現れた

拓実の双子の兄である一葉拓真かずはたくまは、主である女性から預かった、これまた行動を共にする男が作った「ホタルブクロ印」のラベルが貼ってある睡眠薬の瓶を鞄の中になおした

彼の鞄の中には、他にも色々な薬が入っているのだが、特にいう話ではないだろう

しかし、彼の手には一馬を眠らせた道具は握られていなかった


「まぁた能力を思いっきり使って・・・。彼方さんから言われてませんでしたか?代償は存在感だからあまり多用するなと」

「彼方には後で謝る。それに、今回は仕方のないことだから。ほら、拓実。彼を家に送ろう。放置したら大変だろう?」

「はい。担いでくるので、先に・・・」


倒れこんだ彼を抱えた拓実は、車椅子で進む兄の後ろをついていった


「ごめん、一馬。俺も何も知らないんだ。だから、後でちゃんと調べてくる。お前の代わりに、夏彦に何があっているか、きちんと」

「・・・」


返事はもちろん帰ってこない

力なく眠る彼の身体を抱えながら、拓実は密かに考える

夏彦の話題は兄である拓真からリークがあったものだった

おそらく、これは彼が籍を置く冬月家の・・・例の探偵が導き出した「予言」


「・・・龍のお気に入り、憑者神・・・あの狼なら、何か知っていますかね」


密かに聞いていたキーワードを拓真に聞こえないぐらいの声で復唱しながら、拓実なりに動く算段を立てる

一馬には後できちんと謝ろう。悪いことをした自覚はあるし、彼の協力も少なからずほしいから


彼は何食わぬ顔で、歩き続ける。今後の事で頭の中はフル回転だが、それに双子の兄が気が付くことははなった

これは、夏彦の知らない夜の話

彼の知らない場所で動いていた、彼の先輩たちの・・・話だ

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