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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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+)22日目③:手折った花のその先に

「・・・あれが、今代の」


辰の気配がする方向に向かっていくと、彼は確かに辰の側にいた

その隣には、卯と巳

役立たずの家系も一応、集結しているらしい


辰と巳が一緒にいる龍のお気に入りは彼が初めてだ

・・・その姿は、語り継がれた花籠雪霞を彷彿とさせるのだろうか

まだ、僕たちは性別すら把握していない

今代はどんな人物なのだろう


「しかしまあ、呑気なもので。辰は未だに自分の存在がお気に入りを見つける素材にされていると知らず、しかも残りの二人も私たちの気配に気がつかず力を見せる」

「正直、その能天気さが羨ましい」

「だね。うちでそんなことしたら、処分されちゃうからね」


一応、宣戦布告という意味合いで、手折った花をベランダに置いてきた

今は経過観察。お気に入りが姿を出せば今日の仕事はおしまい

今代のお気に入りが窓辺に現れる

山吹色の髪を持った、男性のようだ


「・・・花籠雪霞」

「確かに、言い伝えと相違ない。彼と瓜二つなのは歴代初。今代は少し厄介かも?」

今までのお気に入りは、魂だけが同じか、花籠雪霞の特徴を一つどこかに継いでいる程度だったと聞いている

しかし、彼は祖母に見せても間違いなく花籠雪霞だと断言されるだろう

男性で、山吹色の髪に、海のような青い目


「・・・これで、神語りがあったら」

「今度は一部だけじゃない。完全な生まれ変わりじゃん・・・」


僕と涼香は興奮を隠せない

もしかしたら、瓜二つの彼を殺すことができれば・・・今度こそ悲願がなされるのかもしれない

主人を救うために、その身を無限の時へと投げた辰の憑者神

彼女の治癒を、蘇生へと至らせ・・・神にするという悲願が、達成できるのかもしれない


そしてまた、巳の方も

どうやら様子を見る限り、巳も今代とは仲良しのようだ

雪霞と彼の先祖である巳芳智のように・・・

彼もまた、純正な憑者神の血筋。辰と同じく神へと至る素質がある


最も、彼の場合は兄弟たちに能力が分散されている

長い時間の中で、別れてしまったのだろう

僕の家・・・乾家や袮子家のように、子供を一人しか作らない決まりを続けていれば完璧に遺伝したというのに

巳芳の家は先代までは同じく一人だったが、今代は八人

その全員に等しく全て能力が遺伝しなかったのはある意味救いかもしれない

でもまあ・・・その能力を奪い合う手段はあるのだけれど、それは闇に葬られた儀式だ


そんなものを好き好んで探す人間はいないだろうし、それにあの儀式は悪趣味なお役目がある私たちの家でも、悪いものとして封印されている

それほどまでに恐ろしい儀式なのだ


「ねえ、聡子。顔は見たし今日はもう帰ろうよ」

「そう、だね・・・」

「何か考え事?」

「うん。今日の寝床のこととか・・・」


「蠱毒ノ杯」のことを考えていたなんて、口が避けても言えないので適当にはぐらかしておく

その瞬間、僕たちの前に一つの影が横切った

その姿はとても見覚えがある

犬のような耳と尾を揺らし、複雑そうに顔をしかめる男性が立っている

それは紛れもなく乾良弥。僕の、お父さん


「・・・聡子。涼香ちゃん」

「っ・・・!お父様」

「おじさま!?」


久々に名前を呼ばれて動揺したのか、反応が少しだけ遅れてしまう

それにつられて涼香も反応が遅れてしまう

そのことに何か言及があるかと思えば・・・そうではないらしい


「公式ではないから普段通りにしていい」

「は、はあ・・・」


普段通りと言っても、普段から僕たちは修行の毎日

涼香はお父さんに稽古をつけてもらっているらしいけれど、僕は祖母に稽古をつけてもらっている

この人から教えを貰ったことはほぼない

憑者神として目覚めた後、まともな会話をするのも・・・今日が初めてだ


「これを、届けにきた。机の上に忘れていた」

「これ・・・」

「滞在費。時間がかかると思うから、追加で入れておいた。涼香ちゃんの分も含めて」

「ありがとう、ございます」

「それと、この住所のホテルに行きなさい。乾が持っているホテルだ。母さんが手を回してしばらく滞在できるようにしているから・・・」

「何から何まで、なぜですか」

「お役目の補助ぐらいはと思って。辛い役を押し付けるのだから、これぐらいはさせてくれ」

「・・・そうですか」


茶封筒と共に小さな紙を手渡される

そこに書かれている「シンエイホテル」にいけばいいらしい


「では、私はここで・・・」

「あの、お父様」

「なんだ?」


伝えたいことだけ伝え終わったお父様は帰ろうと背を向ける

しかし僕はそれを呼び止め、彼に一つ問う

以前から一度だけ、お父様と話してみたいことがあった

先代を殺した時、どんな気持ちだったのか・・・を


「・・・先代のお気に入りは、いかがでしたか?」

「いかがとは」

「その、殺した時、どう思ったのか・・・と。聞く機会がなかったので」

「・・・別に、なんとも思わなかったよ」

「その理由は」

「先代のお気に入りは悪人だった。これだけでいい」


お父様はそう言いながら僕たちに再び背を向ける


「聡子」

「なんでしょうか」

「路銀が尽きたら失敗とし、家に一度戻りなさい。あのババアがお前に何を吹き込んだかなんて予想はつくが・・・少なくとも「乾」・・・「私と妻は」お前たちが言われていたようなことをすることはない。涼香ちゃんも、袮子の家に帰る前、うちに必ず寄りなさい。いいね?」

「・・・おじさま。わかりました。ありがとうございます」

「・・・わかりました」

「・・・それでは、失礼する」


そう言って、お父様は闇に紛れて帰っていった

夜風が僕たちの肌を冷たく撫でる

もう、季節は冬だ


「・・・ねえ、涼香」

「何、聡子」

「お父さん、お婆さまのことババアって言ったの、聞き間違いじゃないよね?」

「うん。確かにババアって言っていた」


そんなどうでもいいことに反応して、互いに緊張の糸をほどきながら笑い合う

まさかあの堅物のお父さんからババアなんて台詞が飛んでくるとは思っていなかったし、何よりも僕も涼香もお婆さまのことを内心クソババアだと思っていた分、その威力は凄まじかったのだ


「うん。それにさ、処分されるって言われていたけど・・・おじさまのセリフから考えると、私たちは処分されずに済む感じ、だよね?」

「そう、だよね・・・」

今まで、僕たちを脅迫していた概念はまさかここで砕かれる

でも、砕かれたところで・・・僕たちはまだ止まらない


「なんだろうな。純粋に帰ってきていいよって言われたのが嬉しかったな。今までお父さんと話すことなかったから」

「そうだね。乾家はいいねえ」


でも、袮子はそうではない

乾は帰ってからのことを約束してくれたが、袮子はそうではない

だからこそ、お父さんは涼香もまずうちに来いと言ってくれたのだ

今まで干渉してくれなかった両親が、こうして手助けをしてくれて・・・さらには今後を保証してくれることが嬉しかった

だからこそ、その優しさに僕は報いたい

その気持ちは、どうやら涼香も同じであってくれたようだった


「涼香。私、ちゃんと家に帰りたい。お役目を終えて」

「同感。その為には・・・頑張らなきゃね」


二人揃って、お父さんの意志とは真逆に動き、前へ進みだす

僕たちはお役目を終えて、立派になったと証明してから家に戻ろう

その約束は、僕と涼香の関係をさらに深いものにするが・・・

結果的に、僕の両親を酷く悲しませる結果をもたらすのは・・・いうまでもないだろう


夜は更けていく

僕たちはお父さんから渡された紙に書かれた住所を目指し、夜の町を駆けて行った


「また会おうね。お気に入り」


またいつか巡り会うことになる標的に、お別れの挨拶も添えて

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