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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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22日目②:貴方と語る今日と星と、普段のこと

家に戻ると、玄関先にりんどうが正座して待っていた


「た、ただいま・・・」

「おかえりなさい、夏彦さん」

「どうして玄関に正座なんか」

「・・・酔っぱらいのウザがらみが」

「起きたの、あの二人・・・」

「ええ。東里は完全に出来上がっていて、覚はそれを面白がって見ているだけなので」


遠い目で悲しいことを告げられる

しかも、呼称が呼び捨てだ。丑光さんの事は丑光さんだったのに・・・

親しみよりも、軽蔑が混ざっていないか、これ・・・?


しかし、あの二人の事を信用してりんどうを置いていくんじゃなかった

大迷惑しかかけていないじゃないか・・・全く

東里はともかく、覚は酔わないから信じていたのに、今度から出禁にしてやろうか

まだ二人で丑光さんを送って行った方がよかったかもしれない

彼女を一人にしてしまったことに対して俺は絶賛後悔する


「ごめんね、りんどう。あの馬鹿共と残すべきではなかったね」


俺は彼女の頭を少し撫でて、上着の袖を捲る


「今からちょっとお見せできないようなことが起きるから、そこで待っていてくれるかな」

「え」


リビングに速足で歩いて、そこの扉を勢いよく閉める

りんどうの「あ、これマズいかも」という表情を思い出しながら、再び眠ったと思われる東里と覚を一瞥し、行動に移した


・・・・・


部屋の中から凄い物音がする


「・・・夏彦さんのおばか」


玄関先に放置された私は、今頃あの酔っぱらいの腹を蹴り上げているであろう夏彦さんが落とした袋を拾い上げていた


「ちゃんとななストアの食パンだ」


反対方向なのにわざわざ買いに行ってくれたのだろう


「なんだか申し訳ない・・・」


ほんの少しの意地悪だった

丑光さんはいい人なんだろう。「あの」夏彦さんが好意的な人間なのだから

けれど、なぜかわからないけれど・・・彼女と夏彦さんが一緒にいて楽しくはない


夏彦さんに面倒を見てもらっているのは私も同じ

けれど、彼女の面倒を見ている夏彦さんをみたらその、もやっとするのだ

雪霞様が他の女性と話している時も同じ感じだった


「・・・大事な人を、誰かに取られるのが怖いのかな」


食パンの袋を大事に抱えて、夏彦さんの乱闘が終わるのを待つ

すると、袋の中から何かが転がり落ちた

なんだろうと手を伸ばし、それを見てみる


「お芋プリン?」


夏彦さんの好物ではないと思う。じゃあ、誰の?


「・・・東里と覚は好きそうだよな。こういうの」


特に覚の方。芋焼酎片手に飲んだくれになっていたから

それに、智も芋が好きだった。こちらも酒だけど・・・

他に冷蔵庫に入れるものがないか確認するために袋を漁ってみる

他にもお菓子が沢山出てきた・・・夏彦さん、甘いもの好きだったかな?


「・・・これは?」

「あ、りんどう。荷物おきっぱにしてごめんね」

「・・・夏彦さん」

「ぷきゅー・・・」

「ちょきゅー・・・・」


物音は収まり、服装も髪型も乱れた夏彦さんが廊下に戻ってくる

その手には東里と覚が揃って襟首を掴まれて引きずられていた

東里はともかく、覚は夏彦さんの護衛なのだろう?

護衛対象に叩きのめされてどうするんだ・・・と、呆れさえ抱いた


「とりあえずこの二人は客間に押し込んで・・・っと」


二人を客間に投げ入れて、夏彦さんはその戸を閉めた


「明日起きてきたら続きだな」

「続きがあるんですか・・・」

「じょ、冗談だよ。あ、それ見てくれた?」

「はい。これは・・・冷蔵庫に?後で食べられますか?」

「いいや。りんどうに買ってきたんだ。そのお芋プリン。新発売だってよ」

「私に?」


私が両手で持っていたお芋プリンを指さして彼はそう言う


「うん。りんどうの好みがどんなものかわからないんだけど、とりあえず食べてみて美味しくなければ残していいから」

「ありがとうございます。実は私、お芋大好きなんです。美味しくいただきますね」


鈴はならない。本当の事だから。大好物と言っても過言ではない


「そっか。それはよかった。他にも色々買ってきたんだけど、食べてみてよ」

「いいんですか?」

「うん。いつもお世話になっているので、そのお礼も兼ねてね」

「では、ありがたくいただきます」


大きな袋を改めて彼の手から受け取る

私はそれを大事そうに抱えながら、彼の後をついていった


「さて、りんどう。リビングに戻ろう」

「お片付けもしないとですもんね」

「あらかじめ片付けさせたよ。だから綺麗だと思うけど・・・」


あの二人、帰ってくる前に覗いたときは眠っていたような気がする

一度起こされてから気絶させられたのか・・・なんだろう。可哀想・・・

リビングに戻ると、そこは彼らが来る前と相違ないほどの空間が広がっている

あの数分間、ここで何があったんだろう


「ねえ、りんどう」

「なんでしょうか?」

「今日はごめんね。騒がしかったでしょう?」

「あのお二人だけではないですか。気になさらないでください。それに・・・」

「それに?」

「少しだけ口が悪い夏彦さんも見れましたし」


本来の彼は「だよね」とか「わかったよ」とか、柔らかい印象を持たせる言葉の結び方しかしない

仕事の時は普段からそうなのだろうけど、家でいる時も私が怖がらないように気を遣っているのならそれはやめてほしいと思う

私はその口調の夏彦さんが怖いとは思わないし、粗暴だとも思わない

ただ、彼らしくいてほしい


「あ・・・口調とか気にする?やっぱり怖い?」

「気にはしませんけど、私に気を遣って家でも仕事の時に使うような柔らかい口調でいるなら、いつも通り、夏彦さんらしい口調でいてほしいです。私は気にしませんから」

「そう・・・じゃあ、普段通りにさせてもらうか」

「なんだか「らしい」ですよ。夏彦さん」

「そうだろうか」


私から許可をもらってから普段通りに戻った夏彦さんはさりげなくポケットに手を入れようとする

その中にあるものを私は知っている。それだけは今後も禁止しなければならない有害物質の塊だ


「それはダメですよ」

「普段通りにしていいのだろう?しかも今日は疲れたし、一服ぐらい・・・」

「たばこは、ダメです」


最近、吸わなくなったなと思っていたのに・・・やはり彼に色々とストレスがあったのかもしれない

予定を狂わされた時点で、若干イラっと来たのかもしれないけど!定期的に煙草を吸いたくなるのは仕方ないかもしれないけれど

これだけは、阻止するのだ。今後の健康生活の為に!


「せめて一本。一箱は吸わないから」

「ダメです」

「頼むよりんどう。ベランダで吸うから」

「もっとダメです。近所迷惑です」


それに、今ベランダに行かれると少々困る

ベランダにでて、もし戌が襲ってきたらと思うと・・・


「・・・自室」

「臭い取るの大変だったのでダメです」

「・・・リビング」

「火災報知機に引っかかるのでダメです」

「そんな繊細な機械だったか、それ」

「繊細な機械じゃないと、小火を発見できませんから?」

「なぜそこで疑問形なんだ・・・」


夏彦さんはポケットから手を離す。どうやらたばこは諦めてくれたらしい


「たばこもお酒も、夏彦さんの健康に悪いので!健康を守りたい系の付喪神としては見逃せません!」

「そういえばそうだった」

「忘れてたんですか?」

「忘れてないよ。けど、うっかり付喪神だって忘れてしまいそうになるぐらい、りんどうは人間に近いよなって思う時はある」


夏彦さんはカーテンを開けて、ガラス戸から外を見る

夏彦さんが住むこのアパートは割と街中なので、街灯の方がよく目立ち、夜空の星灯りはほぼ見えない


「そういえば、ここは街中だから星がほとんど見えないが、田舎の方はよく見えるよな」

「そう、ですね。龍之介さんと住んでいた場所は田舎だったので星空がよく見えました」


龍之介たちが住んでいた町は民家しかなく、この街中のように店も深夜まで営業していなかった

交通機関だって、深夜二時まで動いていない

何もかも、終わりが早かった。こことは大違いだ


「だろうな。あそこは山奥だし本当に何もなかったから星もよく見えただろう」


彼の目が何かを懐かしむように細められた


「・・・りんどうは、星は好きか?」

「いいえ。あまり。だって星は・・・ずっとそばにはいてくれませんから」

「夜だけしか、ないものだからな。俺もそんな感じの理由で星はあまり好きではなくて・・・ん?」


夏彦さんが「それ」に気が付く

手折られた花はまだそこに落ちていた

・・・しかも、また一輪増えている。挑発のつもりだろうか


「・・・ベランダに何か落ちているな」

「あ、ダメです。夏彦さん。明日片付けておきますから・・・」

「そうか?じゃあ明日、片づけを頼んでもいいだろうか」

「はい。任されました」


彼の服の裾を掴んでそう言うと、私の意志が伝わったのかガラス戸の鍵を開けようとしていた手を止めてくれる

そのままカーテンも閉めてくれた。これで、大丈夫だと思う


「それと、今日の話をしよう」

「今日、ですか?」

「ああ。今日は・・・いつも通り。正直動けそうにない」

「だと思いました。さっきもかなり無理していたのでは?」

「ああ。ずっと頭が痛くて・・・酒は飲まないはずなのに、匂いで酔ったのかも」


夏彦さんは酔った時の記憶がない。あえて触れない方がいいだろう

お酒を飲まされて、酔っぱらって・・・醜態に近い姿を私たちに見せたことは、心の中に


「それは大変ですね。今日はゆっくり休んでください。空気の換気は?」

「今は換気扇を回している。けど、すまないな。何度も何度も、予定を狂わせて・・・」

「仕方ありませんよ。そんなことより、体調の事が大事なので、またの機会に行きましょう」

「ありがとう。それと、俺じゃわからないこともあるだろうし、丑光さんも一緒にと思っているのだが、りんどうはそれでいいだろうか?」


正直言えば、二人がいい・・・なんて言えない

だって、彼が丑光さんを誘ったのは私の為なのだから


「はい。丑光さんも了承してくださっているのなら、私もお願いしたいです」

「ん。じゃあ、後で丑光さんには連絡を入れておくよ」

「お願いします、夏彦さん」


鈴がちりん、と音を立てた

自分の正直な気持ちを押し殺し、彼が丑光さんに連絡を取る様子を眺める

今日はゆっくりしよう

買い物に行く日をまた楽しみに待ちながら、私は早く夜が終わるのを待ち望んだ

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